地獄の訓練
「俺の年齢なら幼児じゃ耐えられないような訓練を行っても耐えられると思うんだ。そうすれば、かなりステータスを上げられると思う」
「なるほど、やってみる価値はあるかもな」
あの後、かけられたマゾ疑惑を解くのに小一時間を費やし、ついでに俺がたてた仮説をルスラさんに話したところ、なんとか了承してもらえた。
「だが、なるべく手加減するとはいえレベル1。おそらく相当辛い目にあうと思うぞ」
それは、覚悟していた。
そりゃ赤子にくらべれば耐久力はあるだろうけど、この世界の基準でいえば貧弱もいいとろ。
ただ、これを乗り越えなければ俺は一般人にすらなれないわけで。
「俺にはもうこれしか選択肢がありません。よろしくお願いします!」
もう一度頭をさげると、ルスラさんはふっと笑顔を浮かべる。
「よしわかった、訓練場に案内しよう。まだ夕飯までには時間がある。とりあえずやってみて今後の方針をたてようか」
「おえっ……」
訓練場について30分後、俺は地面に伏して胃の中身を戻していた。
「フィジカルヒール!……すまん、大丈夫か?」
ルスラさんの魔法で徐々に痛みはひいていくが、気持ち悪さがなかなかひかない。
異世界初の魔法だったがじっくり見る余裕もなかった。
「さすがにレベル1を相手にしたことはなかったからな、うまいこと加減ができない」
「……いえ、大丈夫です。いまくらいの感じでやってください」
ルスラさんがヒールを使えるのは嬉しい誤算だった。
これなら、どれだけ痛めつけられようと少し休めば訓練を続けられる。
もともとボコボコにしてくれと頼んだんだ、死なない程度にきついくらいがちょうどいい。
俺の隣に転がっていた木剣を握りしめ、なんとか立ち上がる。
痛みはひいたが、うまく体に力が入らなくて少しふらついてしまった。
「まったく、恐怖で足が震えてるじゃないか。まぁでもその根性は嫌いじゃない。続けるぞ!」
そういうとルスラさんは再び木剣を構え、俺へと襲いかかってくる。
恐怖ですくむ気持ちを押さえ込み、俺もルスラさんにむかって木剣を振り下ろした。
だがあっけなくいなされ、横腹を思いっきり叩かれる。
「うぐっ」
また喉の奥から酸っぱいものがこみあげるが、なんとかこらえて距離をとろうと試みる。
しかしその動きは完全に読まれていたようで、俺が一歩下がると、それにあわせてルスラさんも一歩踏み込んできた。
息をつく暇もなく、体制を立て直す前に思いっきり腕を殴られ木剣を弾き飛ばされる。
「フィジカルヒール」
あまりの激痛にうずくまってしまうが、すぐにヒールで動けるまで回復してもらう。
正直休みたいが、せっかく付き合ってもらってる以上そんな弱音は吐けない。
吹っ飛ばされた木剣を拾い上げ、もう一度ルスラさんへと向かっていった。
「もうやだ……。お家帰りたい……」
あの後、吹っ飛ばされては回復されをずっと繰り返した結果、傷もないのに体が痛み出しはじめたため、ルスラさんから訓練のストップがでた。
ちょうど夕飯時だったため、今は泣きながらご飯を食べている。
「その、すまなかったな、最後の方私もちょっと調子に乗っていた」
殴っても殴っても立ち向かってくる俺にルスラさんも火がついたのか、どんどん攻撃は熾烈になっていって最後の方は一方的に蹂躙されていた。
じつはこの人、戦闘狂なんじゃないだろうか。
「いえ、俺が頼んだことですから……」
いまだに痛い腕でご飯を食べながら、力のこもっていない声で答える。
「まぁ大体リクト君がどのあたりまでなら耐えらえるのかは今日のでわかった。明日からはちゃんと計画を立ててやろうか」
計画という言葉で、俺はひとつ聞いておきたかったことを思い出す。
「そういえば、食事だけでレベルは上がると思うんですけど、大体生まれたての赤子ってどれくらいでレベルあがるんですか?」
「一歳くらいだな。だが、レベルは取り込んだ命力の総量で決まる。リクト君の年齢で食べる量を考えると、おそらく一ヶ月くらいでレベルが上がるんじゃないか」
一ヶ月。
そこまでひたすらこの訓練を積んで、実際にステータスがどれだけあがるかを見てみないとこれからの方針は立ちそうにない。
「まずはそこまで、よろしくお願いしますルスラさん」
「あぁまかせとけ、私がしっかり鍛えてやる」
すごくやる気をみせているルスラさんに、うっかり殺されないか非常に不安になってきた。