来訪者
「さてと、まずはリクト君が聞きたい事から答えていこうか。なんでも質問してくれ」
聞きたい事、と言われてもそりゃたくさんあるわけだが。
「とりあえず、ルスラさんは今恋人がいるのかどうかを」
「君結構余裕あるな」
自分でも冗談を言う余裕があるとは驚きです。
というか、いくらルスラさんが美人とはいえ俺は初対面の女性に対してこんな事を聞くような奴だっただろうか。
さっき地面に激突した時に、どこかまずいところを打ったのかもしれない。
「私はフリーだよ。それで他には?」
少し気恥ずかしそうにしながらも律儀に答えてくれたルスラさんに感謝しつつ、真面目に聞きたい事を考える。
「一番気になるのは、ここがどこかって事ですかね」
窓から見える街の風景は明らかに自分が住んでいた場所ではない。
というか、なんなら日本ですらなさそうだ。
「ここはアイズ王国ウェールズ領。といってもリクト君にはどちらも聞き覚えがないだろう。ここは君がいた世界とは異なる世界という事から伝えたほうがいいかな」
異なる世界、という言葉におもわずううむと唸ってしまう。
とはいえ全く予想していなかったわけじゃない。
あの真っ暗闇の世界、ルスラさんの格好、そして見慣れない街並み。
これだけ揃っていれば、ドッキリですと言われるより異世界だと言われたほうが納得がいく。
「ここが本当に異世界だとして、俺は帰れるんでしょうか」
思わず口からついて出た言葉に、ルスラさんは気まずい顔をする。
「可能性がないわけじゃない。けど、軽々しく帰れるとはとても言えないな」
「一応、その可能性とやらを聞いても?」
ルスラさんは窓のほうへと近づくと街の更に遠くへと広がる巨大な樹海を指差す。
「ここウェールズ領は、最果ての地とも言われあの樹海部分はほぼ全て未開拓の土地だ。にも関わらず、あの中では今の技術では到底再現できないような強力な道具などが発掘されている。しかも、私たちの記録にはない来訪者が関わっていると思われる物が」
「来訪者?」
そういえばさっきもルスラさんは俺の事を来訪者といっていた気がする。
「君たちのような外の世界から来た人間を私たちは来訪者と呼んでいる。そのことについてはまた後で説明しよう」
「わかりました。それで、あの樹海の中にならもしかしたら帰る方法があるかもしれない、と?」
「確証はないがな。可能性があるとしたらあそこしかあるまい」
それを聞いて俺はつい頭を抱えてしまう。確かにこれではルスラさんのいう通り、可能性はあっても帰れるなんて口が裂けても言える状況ではない。
最悪、この地に骨を埋める覚悟をしなければならないレベルだ。
「そう落ち込むな。私たちが協力できることは全力でさせてもらうし、それに希望だってないわけじゃない」
それを聞いて、さっきからずっと引っかかっていたことを尋ねる。
「あの、どうしてルスラさんは初対面の俺にそんなに良くしてくれるんですか?」
「最もな疑問だな。まず、いくつか伝えておかなければならないことがある。一つ目は、来訪者は君が初めてじゃないということ」
まぁ来訪者とい言葉があるみたいだしそりゃそうだろう。
「そして、二つ目、来訪者には特別な力がある。その力を持って彼らは皆私たち人類に莫大な恵みをもたらしてきたんだ。だから、私たちにとって来訪者とはある意味神聖な者。丁重にもてなすのが古くからのしきたりとされているんだよ」
ルスラさんの答えに納得しつつ、俺は今の話にあった一つのフレーズに心を奪われていた。
「あの、それじゃあ俺にもその特別な力ってのは備わってるんですか」
やっぱりあった異世界特典。
もうここまでくるとお約束なんじゃないかと思ってしまうが俺だって男の子だ、そう言った特別な力とやらに憧れたことがないわけじゃない。
目を輝かせてルスラさんを見ると、彼女はもちろんといって頷いた。
「どんな力、スキルを持っているかは来訪者によって一人一人違う。そこで、君の力を計るものがこれだ」
そういってルスラさんは一枚のカードを取り出した。
「これはステータスカード。所有者の能力をわかりやすく数値にしてくれる魔道具だ。これもかつて訪れた来訪者の手によって作られたものだな。これをリクト君にあげよう」
差し出されたカードを俺が手に取ると、ステータスカードの表面が光り輝き、文字が刻まれていく。
俺は期待がこもった眼差しで、カードに刻まれた自分の能力を確認した。
『スズキ リクト
レベル 1
基礎攻撃力 3
基礎防御力 3
基礎魔法力 4
基礎技巧力 2
基礎体力 10
基礎魔力 10
スキル なし
特殊スキル なし』
……なんだろう、この世界の知識がない俺でもすごくだめな気がする。
というか思いっきり特殊スキルなし、って書かれてるんだけどどういうことなんだろうか。
「あの、これ……」
恐る恐る俺が自分のステータスカードをルスラさんに差し出すと、受け取った彼女はカードを見て、少しの間を置いて思いっきり表情を引きつらせた。
「……端的に言おう」
ルスラさんはものすごく言いづらそうに、可哀想なものを見るような目でこちらを見ながら。
「今現在特殊スキルは一切備わっていないようだ。そしてレベル1の君は正直、そこらで遊んでいる子供より貧弱だ」
俺の心をへし折るには十分な情報を教えてくれた。
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