(仮)赤子様、誘拐される
皆様、はじめましてなのじゃ。突然だが、私は赤子である。名前は未だ無い。なぜ?それはな、産まれてすぐに誘拐されてしまったからなのだ。なぜ知っているのかだと?実はな、私は生まれる前から前世の記憶というものがあるのだ。なのでバッチシ自我があるぞ。前世の私は・・あー、・・秘密じゃ。ん?それでも聞きたいと?・・嫌じゃ。乙女は秘密があれば美しくなれると聞いたのでな。私の将来のために我慢せよ。よいな?うん、よしよし。いいこじゃ。
う〜んそれにしても、風が気持ちいいのう・・。
ん?ああ、実は私は今な、誘拐犯の腕の中にいるのじゃ。
ふふふ、びっくりしたじゃろ?私もこの誘拐犯が目の前にいたときはびっくりしたからの!実は私はこの世界にある国の一つ・・大国、リーベロッソ王国の王族に生まれたのじゃ!しかも初の子供だったらしく、生まれた瞬間に父と母、周りの家臣や使用人達も喜びすぎて号泣しての・・。あのときは鼓膜が破れるかと思ったわ。
だが、優しそうな父と母で安心したのも確かじゃ。前の親は・・あまり、思い出したくないからの。
それにしても、じゃ!せっかく転生したことを理解し、この世界で生きて行く覚悟した夜に、この誘拐犯・・。私の覚悟を邪魔しやがって・・。チッ。
しかし、寒い!!この誘拐犯、建物(家など)の上を走って移動しているのだ。風魔法を使い、普通の人間が出せるはずのない速度で、じゃ。ちなみに、今の季節は冬じゃ。男は黒い服(顔隠してある)の完全装備だというのに・・この私への配慮が欠けているのではないか?ムカつくのう・・。ああ、魔法については後で説明してやろう。私が覚えていれば・・じゃが。
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お?止まった。ここは・・門か!この王国の門は、高さが半端ないのう・・。大体、二階建ての建物×2な感じかのう。私は赤子だからか、とてつもなく高く見えるのじゃ。あと、この門にはここの王宮魔導師が張った超強力結界があるのじゃ。無理やり通ると、体が爆発するらしいのじゃ。こう、バーンッと、花火のようにの・・。・・あまり想像したくないのう。
この国の王宮魔導師は最強らしいからの・・。まあ、私よりは弱いと思うがな!
しかし、どうするつもりかのう?この男・・。
っ幻覚か!この感じだと・・最低でも一般の魔法使い50人くらいの魔力が必要となるのだが・・。この男、王宮に侵入し私を誘拐するくらいだからただ者ではないと思っていたが、ここまでとはの・・。
そうして私はこの国を去ったのだ。
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うう、眠ってしまっていたのじゃ。ここは・・どこじゃ?
目の前に広がっていたのは、どこかの街じゃった。ここに何か用事でもあるのか?夜明け前だと思うが、霧がすごいのう・・。体感時間的に半日も立っていないとなると、リーベロッソ王国の近くの国かもしれんが・・。
男は薄暗く細い路地裏を、迷いなく歩いて行った。
なんじゃ?この先に何かあるのかのう・・?
複雑な細い道をしばらく歩いて行くと、突然男が私を地面に下ろした。
・・は?
男私を見ずに、背を向けて歩き出した。
ちょっと待つのじゃ!まさかあの男、私をここに置いていくきか!!
待て!待つのじゃ!こんなにかわゆい私を、ここに置いて行く気か!?
冗談なら許してやるから、今すぐ私の方へ戻ってこい!さあ、さあ!!
祈りが通じたのか男は振り返り、私の方へと歩いてきた。おお、約束どうり許してやるのじゃ!早く私を抱っこするがよい!
男はゆっくりとしゃがみこみ、私の頭に手をおいて囁くように一言話し、こんどこそ振り返らず去っていった。
「君に恨みはないが、すまない・・」
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ッズキューーーーーーーーーン!!!
っや、やばい・・なんじゃあの声は!!
ゆったりと落ち着きのある声音に、渋味のある掠れたあの感じ・・あの黒い布の中には、どんなイケメンが潜んでおるのじゃ・・。
・・じゅるり。
し、死なぬぞ!私はあの誘拐犯の顔を見るまで絶対に!死なぬのじゃーー!!!
誰か、私を拾ってくれ!このままでは死んでしまう!誰か、誰かーーー!!!