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即興小説

各駅停車しあわせ方面行き

作者: 音海佐弥

「即興小説」で執筆した作品の改稿版です。

2015/11/8 お題:女のエデン 制限時間:15分

 いつしか急に「大仏を見たい」と言い出したのが、今日の旅のきっかけでした。

 私の友人、エリの好みのタイプは、「優しいひと」「包容力のあるひと」「笑顔がステキなひと」「落ち着きのあるひと」といった具合でした。そんな徳の高そうなひといるのか、と私は訝しんでおりました。「それってつまり、仏様みたいなひとが好きってこと?」と訊くと、彼女は「バカにしてんのか」とぷりぷり怒りました。でも、やっぱり彼女のタイプは仏様だったのでしょう。「大仏が見たい」と言い出したのは、やはりエリでした。

 私たちは電車に一時間揺られながら、鎌倉まで行きました。JR鎌倉駅で電車を乗り継いで、大仏のある江ノ電の駅で降り、大仏を見に行きました。大きな仏様をみたエリは「超イケメン!」と興奮していて、とても嬉しそうでした。帰り道、途中の小さな売店できんつばを買って食べ、縁結びのお守りを一つずつ買い求めました。

 大仏の最寄り駅から乗った帰りの電車のなかで、エリはこう意気込みました。

「今年こそ、いいひと見つけて、絶対に幸せになってやる!」

「いいひとって……あの大仏みたいなひと?」

「うん。ああ、あの大仏様みたいなひとが、そのへんに歩いてないかなあ!」

「大仏様がそのへんに歩いてるわけないし、そもそも今年ってあと二ヶ月しかないんだけど……」

「なに夢のないこと言ってるの、リカ。目指せ、女のエデン、だよ!」

 女のエデンってなんだ、私らがいま乗ってるのは江ノ電だよ——私はそう言いかけてやめました。エリは向かいの席に座っている男性を指差して、「やだ、あのひと大仏様に似てない!?」と興奮していました。人様を指差して大仏呼ばわりとはたいへん失礼ですが、エリが前向きに彼女の人生を歩もうとしているのを見て、少し嬉しくなったのです。

 電車は次の駅にとまり、たくさんのひとが乗り込んできて、エリの言う大仏様はひとの陰で見えなくなりました。エリは「あああ、大仏様……」と意気消沈しました。そんなエリを見て、私はこう思いました。

 私もがんばらなきゃ。

 女のエデンはなんだか知らないけれど、とりあえずしあわせ目指して進んでみるか……。この電車みたいにきっと各駅停車だけれど、私は私のペースでね。

 車窓から見える海を見ながら、私はそうひとりごちました。そんな私を、エリは不思議そうに眺めているのでした。

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