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第四話 絶対感覚

やった!ついにロボットを出せたぞ!

と言うわけで第四話、投稿します!


後部車両には簡単に侵入出来た。

この世界にセキュリティという言葉はないのだろうか、とツッコミたくなる。


「魔導列車の切符を入手できるのはそれなり以上の身分を持った人がほとんどだからでしょ」

「信頼されてるってこと?」

「そう」


だとしたら、僕らのやっていることは酷い裏切りである。

まぁ、メイと一蓮托生な僕からすれば、それよりも逃げ切ることの方が大事ではあるのだが。

この車両は貨物車両のようだった。

トランクが酷く重いので、一度置く。


「いまさらだけどさ。こんなに慌てて、逆に怪しまれないか?」

「まだ言うわけ?大丈夫よ。あんたのお蔭で姿はある程度変えられたし」


そう言って先ほど僕が言った通りに結んだ髪の束の片方を撫でた。


「気に入ってくれたようで何より、というべきなのかな」

「うん、そう。気に入ったわ。……とりあえずはこれで大丈夫だと思いたいけど」


同感だ、と言おうとしてその言葉は遮られた。言うより前に後ろから大きな音が鳴り響いたからだ。


「何!?」


ぞろぞろと、羽根つきの男たちが腰に掛けられた剣を抜剣して入ってくる。


「ようやく追い詰めた……!」


言ったのは僕がここに来てから最初にであったあの男だった。彼がリーダー格のようである。


「そんな!」

「追い詰められた、袋の鼠ってことか……」

「そういうことだ。しかし、仲間がいて、しかもそれが君だったとは。何も知らないような顔にまんまと出し抜かれたわけだ」


少し困ったような顔で返すことしかできない。

その時には彼女の仲間ではなかったし、そもそも僕はまだ何も知らないのだ。

が、それを言って聞いてくれるような人でも無さそうであった。


「すまないが、貴女にはジョージア卿から捕縛許可が出ている。多少の荒事は大目に見る、ともな」

「くっ……」


メイは苦虫を噛み潰したような顔をした。

だが、まだ諦めてはいない。

屈服するつもりも道理も無い、という目で羽根つきたちを睨み付ける。

僕も同感である。

ここで彼女が捕まるということは僕の庇護をしてくれる人がいなくなるということだ。

メイが何を仕出かしたかは知らないが、

よしんば彼女との関係が今日からのものだと理解してもらったとして、

それ以前のここでの経歴が無い僕にはそれ以上に面倒な事態が待っているに相違ない。

みすみす、捕まる気は無かった。


相手もそれが分かったのだろう。警戒と緊張が間に流れる。

月並みな表現だが、時間の感覚が『一瞬か、永遠か』に感じられる。




果たして、その永い刹那を打ち破ったのはメイだった。

彼女は僕をドン、と強く押すと小声で「下見てなさい」と言い、

言うや否やベストの内側に隠していたらしい『何か』を取り出し、それを投げつける。



『閃光よ、乱れ狂え!』



何事か、僕の知らない言葉とともにそれは投擲された。

桜風風時には理解できない言語である。

そういえば、なんで僕は今まで彼女らの言葉を理解できていたのか、

なんて今更で場違いな感想が過った。


が、それをすぐに打ち消す。

相手はその投擲に合わせて五人いる兵士の内の一人が剣を腰だめに突進してきた。

その姿はすぐに見えなくなる。僕が下を向いたからではない。


強烈な光が、目の前で閃いた。


原理は分からないのだが、閃光弾のようなものなのだろう。

羽根つきたちの内、突進してきた兵士とリーダー格の男は目をやられて跪く。

残りの二人は隙を作るに止まったようだが、それだけで十分だった。


「行くわよ!仕切りなおすわ!」


彼女は言うや後ろへと全力で駆け出す。

僕もそれに続……こうとして、出来なかった。

僕はドジっ子だったらしい。


こんな、何も無いところで躓いた。

焦って、足を縺れさせたらしい。なんというか、格好付かない。

「なっ」とメイは逃げればいいのに僕を見た。

急いで僕の方へと駆け寄ろうとする。


……ああ、本当に恰好悪い。こんなのは納得いかない。


どこか、熱い思いが頭にかけ上るのを感じた。

自分に対する不出来への怒り、と言っていいかもしれない。

有体にいえば……やけっぱちになったのだ。


僕は肩にかけた剣を、抜刀した。せめて一太刀、あるいは牽制になれば。

普段であれば絶対に無い「思い切りの良さ」が働いた。

何とかなるとは思っていなかった。しようとも思えない。

本当に、こけおどしにもならない自棄から来た行動だ。

冷静に考えれば体育も中の下を行く自分と、

目の前の屈強な男たちが戦って勝てるとは思えない。


物語の主人公のように、僕は彼らに勝つ術を知らない。

何か間違いでも起きなければ、勝てる道理も無い。

ここで、僕の自棄は終わり……











……だが。何かが間違っていたのだろう。

奇妙な感覚が駆け巡った。

頭か、心か、魂か。どこかに訴えてくるものがあった。

それは記憶だった。剣が歩んできた歴史だった。



『――この剣は、―――、が―――のため―――

―――のため振るわれ、騎士として、――――――――――』




貴族の出の一人の少年。彼は敬愛する父に続き、王のために戦う道を選んだ。

彼の成長を見守ったのは、白髪交じりの老執事。

少年は彼の厳しい手ほどきの元、剣術を学んだ。


どこに力を込めるべきか。どう振るえばより速く、強くなるか。

郷愁にも近い、知らない記憶が、剣から伝わる。

読み取れたのはそこまで。が、そこまであれば………












足を縺れさせた僕を逃すまいと飛びかかってきた男の剣を、

気づけば僕は弾き返していた。

剣は酷く重い。こんなものを片手で振り回すなど、

一介の中学生に出来ることじゃない。

が、『覚えている』。

知らないはずの、しかし『覚えてる』記憶が僕に剣を弾き返させた。


『不意を得た。次の一太刀で、相手に致命傷を与えられる』


……いや、それでは駄目だ。とっさに僕は柄で心臓を殴る。

これはこれでエグイが、殺すよりマシだろう。

相手は信じられない、という表情で此方を見て、

次に痛みに耐えかねて胸を押さえた。


僕だって信じられない。

どうしてこうなった、と少し茫然としたが、

こうしている場合ではないとハッとする。

剣を片手に持った状態で置いていたトランクを持ち上げてメイに追いつく。


「ごめんメイ!早く逃げよう」

「え、ええ……」


彼女も信じられないという面持で此方を見つめていたが、すぐに後ろの車両へと逃げ出す。







次の車両はやけに狭かった。外から見た大きさはそんなに変わらないはずなのに。

周りを見渡すと、何か大きなものが右側にずっしりと置かれている。


「トランク貸しなさい!」


入るなりハンドル式のドアノブを回し、その後に彼女の手持ちと

僕の手持ちを合わせて入口につっかえさせる。


「あんた、もしかして結構強い?」

「そうなのかも……」


何だこいつ、という顔で見られたが僕としてはそういうしかない。


「何だか、妙な感覚が来たんだ。剣術なんて習ったことなかったのに」


知らない記憶が、僕に反射的にさせた行動だった。


「私の素人目だけど、宮廷剣術のように見えたわ」

「……そうなのか?」

「どこかで習ったりしてないの?」

「してたら心当たりとして真っ先に挙げてるさ……!」


繰り返すが、僕の運動センスは酷いものだ。

剣道はおろか、フェンシングなんてしたこともない。

あの感覚は、知っているものでは無かった。

知らないものが、頭の中に流れ込んできたのだ。

さながら朝起きて、茫洋とした頭にコーヒーを叩きこんだかのように。


「そんなことは後でもいいだろ。これからどうするんだ、メイ?」

「分かんない」

「……は?」

「分かんないってば!こんなに追手がぞろぞろ来るなんて、予想外だった!どうしよう……」

「あー……なんか、無いのかい?こう、起死回生の一手とかさ」

「それこそあれば真っ先に挙げてるわよ」


いよいよ持って困ったことになってきた。

取りあえず逃げられるだけ逃げて、なんとか列車から脱出したいと思っていたのだが。

これでは全く期待外れである。


「もっと後ろの車両に下がって、連結を解除するとか」

「そんなことが起こればあっちも自警団の権限で列車を止めてくるわよ」


にべもなく却下される。

なんか、ないものだろうか、この状況を打開する一手は……

と車内を見渡していく。


「……なぁ、もしかしたら関係ないかもしれないんだけど」

「何?」

「あの大きいのは?」


狭い車両の大半以上を占めている、大きな台のようなものを指さす。

そこにはタラップがあるため、恐らく上がることが出来るのだろう。

あの上にはいったい何があるのか……


「……ちょっとまって、これ」


そういうと、メイは近くに駆け寄って文字を読み取る。


「魔道機人……!なんでこんなもの輸送して……って、土木用かこれ」


「魔道機人?」と、オウム返しした。


「魔導機関で動く攻城兵器よ。まぁ、これは民間に払い下げられたものだけど」


攻城兵器……そう聞くと、カタパルトくらいしか思い浮かばない。


「カタパルト、ねぇ。そういう原始的な使い方も出来るけど……

要するに、魔力で動く人形よ。それも飛び切り大きな」

「えっと……それはつまり、人型の巨大兵器ってこと?乗り込んで動かす的な……」

「そういうの」


……何というか、想像以上だ。ファンタジックな世界だと思っていたら、巨大ロボットがあるとは。


「でも、これは使えるかも。こいつで攪乱して、逃げ出したり……」

「動かせるのか?」

「あー……一応、触り程度なら」


自信なさげに言うが、動かせるなら頼るしかない。

トランクは持っていかなくてはならないので、代わりにそのあたりにあった木箱を置いた。

トランクよりは思いが、それでも突破される前に逃げなくてはいけないだろう。

とりあえず、列車のキャノピーを上げる方が先だというので、先に台の上へと昇り、

コックピットのあるという胸のあたりで待機する。

メイは下でスイッチを弄ると、車体の上部が開きだした。


「フー!風が強いだろうから、どっか捕まってなさい!」


言われる通りに胸のあたりの取っ掛かりを探して掴んだ。

太陽の光が巨体をさらす。

グレーの、武骨なモノとしてのカタチがあらわになる。

頭部だろう位置には、一つ目が覗けた。


「これは……」


凄いな、としか言えない。巨大ロボットというのはロマンである。

これにこれから乗り込むのか……と考えると、状況の不味さを忘れてワクワクしてしまう。

メイも魔導機人の胸部まで登ってきて、僕の隣に立つ。


「魔導機人ヴァリアント。アルトニアの国軍でも正式採用されている機体よ」


風に押されて、気持ち大声で張り上げる。

バサバサ、と髪が揺れるのを一生懸命に抑えている。

僕はと言えば、メイの言葉に引っ掛かりを覚えた。


「作業用なのに?」


なんだかちぐはぐな印象を受ける。

軍事兵器が、そんな簡単に払い下げられたりするのだろうか、と。


「このタイプが出回って10年は経ってるもの。

地方貴族の私設軍隊なんかでも使われていたらしいし。案外簡単に売られてるのよ、こういうのは」

「ふうん……」


思ったよりこの国の軍隊というのは適当なものなのだなぁ……と感じる。

まぁ、町並みを見る限り、僕の世界に換算すれば19世紀とかそのくらいのようであった。

僕の知る、近代の軍隊と比べると違うものなのかもしれない。


メイは胸部を弄る。「そこ開くから気を付けなさい」と言うなり、

僕の目の前にバカン!と勢いよくハッチが降りてきた。

あまりの勢いに、少しビビる。


「……肝が冷えたぞ」

「注意したじゃない?」

「あんなに勢いよく出てくるなら、もうちょっと詳しく言ってくれてもいいんじゃないか?

こう、『アンタの目の前に降りるから、気を付けなさいな』とか」

「何、声真似?似てないわねー」

「そんなことはどうでもいいだろう……」


軽口を連発しつつも、僕の心は場違いにもウキウキしていた。

ロボット。巨大ロボットである。

見る限り、二足歩行で動くのだろう。

どこぞの重工が作った、みたいな話は聞いていたが、あれはほとんど手が付いた戦車みたいなものだった。それに比べれば、これはアニメに出てくるような巨大ロボットと言って間違いないだろう。

その事実に心躍る。

どんな乗り心地なのか。

やっぱり某科学考察本で言われてたみたいに滅茶苦茶揺れるのだろうか。

乗り物酔いはするのだろうか。コックピットから見た視点はどうなるんだろう?

それを思うと、状況は追い詰めらているのに楽しみに思えてしまうのである。


「なっ……そんな!」


が、そんな僕のちょっとした感動は、メイの悲鳴でかき消された。

彼女の向くのは僕の後頭部。僕はそれにつられて振り向いて……




太陽を背に、ナニかが空を舞っていた。

青い空に、黒い影。明らかな異物である。それに、警戒心を抱く。

飛行機ではない。飛行機はあんな風に羽ばたかない。

鳥や虫ではない。あんな大きくは無い。


恐怖を抱く。

その存在に、恐怖を抱く。


ふと、恐怖とは、血や肉が飛び散るようなスプラッタではない、という話を思い出した。

戦場において、そんなものはありふれている。

人間は血を見て恐怖するのでも、肉が裂けるのを見て恐怖するのでも、痛みを想像して恐怖

するのでもない。人間が恐れるのは死だ。

では、死とはなにか。

死は、人間が決して知ることの出来ない感覚だ。死を見ることはできる。死を定義することも出来る。

だが、死を理解することだけは出来ない。理解した瞬間に、人間は人間ではなくなる。


人間の恐れの根源。

それは理解できないことなのだ。

分からないものをこそ、恐怖するのだ。

ただ、理解できないものをこそ恐れるのだ、と。


その姿は、僕にとってこの世界で最初の『恐れ』だった。

この世界は理解できないことばかりだ。だが、ここにきてすぐメイに出会えたし、

彼女の紹介で出会った魔術師に、僕がこの世界でやるべき指針を教えても貰えた。

追ってくる羽根付きたちにしても、相手は人間である。

話すことも出来るし、メイが何かをしたから追ってくる、という因果がある。


だが。この影は

僕が今まで生きてきた世界で、一度もみたことのない、あの巨大な影は。

僕の常識を超えた存在として、迫ってきていた。


影が晴れて、姿が見える。

ああ、あれは鳥だ。だが、僕の知る鳥じゃない。

恐らく巨鳥とか、怪鳥。魔物とか呼ばれる類の鳥だ。


瞳らしきものが、妖しく光る。

それが僕には……僕たちを睨み付けているかのように思えた。



うん、済まない。ロボットは出した。

もう四話だからね。ちょっとくらいは出さないとね。

でも、動かないんだ……

本当に申し訳ない。

そろそろタグ詐欺と言われても、仕方がないだろうなぁ。


流石に次回は動く予定です。

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