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第二話 魔導師マティスの雑貨屋

 そこは都市の路地裏にある、寂れた店だった。

外にはアルファベットに近い文字の看板が立てかけられてはいるもののメイに言われて辛うじて店だと分かるくらいである。非常に立地が悪い。


「なんて書いてあるの、アレ」


 看板を指差すと「魔導士マティスの雑貨屋」という簡潔な答えが返ってきた。

マティス、という単語が読めないことも無いくらいにはアルファベットに近い使い方をしているようである。メイは遠慮なくズカズカと入っていく。僕もそれに倣う。

 雑貨屋というだけあって店内は所狭しとモノが敷き詰められていた。

香水の類でも売っているのか、それとも香を炊いているだけなのかは知らないが妙なにおいが漂っている。


「魔導士の雑貨屋ってことは、ここにあるのは全部魔法とかに関係あるってこと?」

「さぁ。あいつのことだから偽物か性質の悪い魔術でも掛けてるかしてるのを掴ませて、とかやりそうだけど……やりそうだからあんま触んない方がいいわよ。

取りあえずじっとしてなさいな。マティス!居るんでしょ!」


メイの叫びに反応する声があった。「怒鳴らんでも聞こえている!静かにしていろ!」

 ドタドタ、と階段を駆け下りる音が聞こえた。

現れたのは白髪の生えた如何にもな老人……ではなく、白髪の生えた、しかし顔つきは僕とさして変わらなさそうな少年だった。


「ようやく来たわねマティス」

「むしろもう来たのか、という感じだがね私は」

「その減らず口も変わんないみたい。ここも客商売でしょ?少しは客をもてなしなさいよ」

「はっ!俺はそういう人間とのシガラミが嫌いだからこんなところでひっそりと日陰者をやっているんだ。

少しでも愛想を良くしてみろ。勘違いした馬鹿どもがこぞってこの店にやってくるぞ。俺が作るアイテムは高品質だからな。俺は静かに寝ていたいんだ。下らん心労を働かせるのは貴様ら愚民のやることだ」

「んじゃ、依頼してたあなたの言う下らない心労を抱くための元手は用意できてる?」

「当然だ。俺は何事も基本的に完璧なんだ」


 マティスは中身が詰まった旅行鞄をカウンターに置き、中身を開けてみせる。

中にはずた袋が無数に入っていて、さらにその中にはバッチのようなものが詰められていた。


「うんうん。じゃあ、これお代ね」

「確かに。……なぁ、さっきから気になっていたのだが、ソイツは見慣れん顔だな」

「ああ、そうそう。この子のことなんだけど……」

「はっはーん……あれだな。恋人というヤツか」

「はぁ?違うわよ」

「んじゃ友達か?俺からすりゃどっちもママゴトに変わりは無いがね。いいじゃないか。大いに結構!今まで味わえなかった青春とやらを味わうのも、また悪いことではないだろうよ」

「人の話聞きなさいよ」

「うん?いや、失敬。久々で楽しくなった。さみしい老人の至りとして許してくれ」


 飄々としたマティスの様子に、メイは翻弄されるばかりである。

ついにはメイも諦めてため息を吐いた。


「んで、本題に戻るけど。この子、迷子なのよ」

「ほぉ。迷子なら警邏にでも届ければ……うん?ほぉ。なるほどな。迷子、ちょっとこっちにこい」

「へっ」


 これまで自分のことなど歯牙にも掛けていなかったマティスは、急に自分を指名して呼び寄せた。ともかく、近づいてみないことには始まらないのも事実なのでカウンター越しに彼の前に立つ。


「お前、名前は何という」

「桜風風時……だけど」

「言いにくいな。おい、フー」


 本日二度目である。こっちだとそんなに発音しにくいのか、この名前は。


「お前、アレだな。別の世界から呼ばれてきてしまったというところか。帯びている魔力の質が違いすぎる」

「え?待って、それじゃ本当に!?」

「おいおい、メスガキ。お前はこいつの素性を知ったうえで連れてきたんじゃないのか?」

「そりゃ、そんなこと言ってたけど……でも、記憶障害か転移魔術か何かかなーと思ってたから……」

「はっ!転移魔術なんてチャチなもんじゃないぞ、こいつの場合はな!もっと複雑で高等な術の産物だ。世界移動は失われて久しい技術のうちの一つだ。実例がここにあるとは……。

貴様に売り渡した一山いくらの魔導紋章何ぞより、こいつの方がよっぽど価値がある。

お前、なかなかいい拾い物をしたじゃないか。その強運はメスガキにしては驚くべきものだな!」

「そ い つ は ど う も」


ギリギリと欠陥が切れそうな笑顔でメイは答えた。

が、そんなことは些事に過ぎない。僕からすれば、一番重要なのは……


「失われて久しいって……帰る方法が無いってこと?」

「まぁなぁ。これに関しては然るべき時間と場所と術式で無くては再現できないものだ。

天才魔術師である俺でも完全成功は不可能だ。有象無象では況や、だ。が、そう悲観するもんでもない。技術は失われただけで、実在していた。それの再現も決して出来ないわけじゃ無い。まぁ、そうだな。各地の神殿遺跡でも調べてみるといい。アルトニア国内だけでも何か所かあるからな。そこを巡るかしていれば、いつか系統者に出会えることもあるかもしれんぜ?」


何だか分かるような分からないような。


「つまり、探していけばどこかで会える可能性も有るってことか……」

「有体に言えばな」

「……この国の地図って、すぐに見れる?」

「一応持ってるけど」

メイが懐から羊皮紙の地図を取り出した。「大陸一帯の地図なんだけど……大陸から海峡を挟んだ島。ここら辺がアルトニア。この国ね」


 アルトニアと大陸の地理はちょうど僕の世界のイギリスとヨーロッパを彷彿とさせた。

 見る限りは相当広い。神殿遺跡、などと言ってもそんなもの、どこにあるか分からないのだ。

この中からそれを探すと?砂漠で眼鏡を探すようなものだ。水も食料もないままに。


「ねぇ、マティスさん。この中のどの辺くらいとかは……」

「知らん」

「そんな!」

「正確に言えば忘れた、だがね」


なおのこと性質が悪い。メイの毛嫌いしていた理由がようやく理解出来た。


「まぁ、そう怒るな。慌てるのも分かるが、だからと言って調べられないとも言っていない。

いいか。俺は雑貨屋だ。こと、魔導技術関連に関しては揃えられないものは滅多にない。

多少時間は掛かるだろうが、遺跡関連の地図や書籍も探そうと思えば探せるんだ」

「でも、僕には払えるお金は無いよ?いや、そもそもこの世界での生活基盤も無いというか……」

「その点に関しては何の問題も無いだろう。そら後ろを見れば養ってくれそうなメスガキがいるじゃないか」


頼むから煽るような言い方をやめてくれと思う。これでは可能性も潰れる。


「ちょっと、私自分のことだけでも精一杯なんだけど」

「そりゃ、普通の人間を抱え込むならそうだろうよ。だが、言っただろう?こいつは良い拾い物だ。お前の巡り会わせは強運だ、とな。フーにはお前に抱えられるメリットがあり、お前はそれによって受ける恩恵がある」

「ハッキリしないんだけど。具体的に言ってくれない?」

「お前、絶対感覚というものを知っているか?」

「はぁ?何それ」

「世界から受ける後押しによって生まれる特殊能力と言ったところか。いわば特典だよ。

統一神教では四神からの恵みだ……なんて言っているが、俺から言わせれば超自然的な産物だな」

「それがどうしたってのよ」

「こいつはそれを持ってるぞ。帯びている魔力の違いもそれが原因だろう」

ちょっと待ってほしい。僕はそんなもの、欠片も持っていない……はずだが。

「心当たりがないんだけど」

「そりゃ、そうだろうな。絶対感覚は世界から与えられたもの。お前が異世界から来たというのなら、それはここに来てから得たものになるはずだ。何か無いのか?たとえば、遠くがよく見えるようになったとか、妖精が見えるようになったとか。この手の能力は目に宿ることが多いからな」


 特にそういうものは感じられなかった。

念のため眼鏡を外してみたが、特に視力が上がったということはない。

まぁ、異世界に来て彼曰くの特典とやらが視力が良くなった、程度だったら笑えない冗談である。

妖精が見える、というようなこともなく目には特に違和感は感じられない。

 考えてみれば、僕はこの世界に来てまだ一時間も経って居ないのである。

違和感が存在していたとしても、それを感知できていないのかもしれない。


「ふぅむ。あるのは分かっているのにそれが何かは分からない……か。俄然興味が湧いてきた。おい、メイ。お前に借りを作ってやる。お前、こいつの面倒を見てやれ。そんで、絶対能力が分かったら俺に教えろ」


 そんなことを言い出した。

僕からすれば願ったり叶ったりではある。しかしそんな急なことを言われても、メイは困るだけだろう。

彼女は追われている。そのうえで僕を抱え込むなんてことは出来ないはずだ。


「アンタに言われて、ってのが非常に癇に障るんだけど」


そう、だから僕のことなど放っておくはず……


「もうこっちはそのつもりよ。取りあえず、私はフーの当面の面倒を見るわ」

え?と、聞き返しそうになった。先ほどまでとは真逆の言動である。

「本当にいいの?」


とりあえず、確認しておく。


「あーーーもうっ!さっきからその顔よ。不安で御座いって感じ。それが放っておけないってだけ」

「でも、君にそんな余裕……」

「余裕がないからするの!ただ面倒見るってわけじゃないわ。代わりにアンタには私の仕事の手伝いをしてもらうから。考えてみるとね。私も人手が足りなくて、協力者を見つけなきゃって思ってたところではあるのよ。これは等価交換にして互恵の契約よ。私はアンタを助けるから、フーは私のやることに協力しなさい」

「ああ、分かった。そういうことなら……厄介させて貰うよ。ありがとう。よろしく頼む」

「馬車馬のようにこき使って上げるから、そのつもりでね?」


 つい、苦笑が漏れる。彼女の性格が分かってきたからだ。

偽悪的で、冷徹な振りをしようとしている、優しくて良いヤツだってことが。


「ああ。タダより怖いものはないもんな」

「精々精進なさいな。さて、と。マティス、アンタにも貸しにしておくわ。今度来ることがあったら分かったことは教えるから、フーのための資料集めと私への便宜、頼んだわよ?」

「ふん。今後ともご贔屓に、とでも言えばいいのか?まぁ、その時まで楽しみにしておこう」

「あ、そうそう。取りあえず頼んでた紋章は貰ったけど、キャラバンは何処に取に行けばいいの?」

「無いぞ」

「……は?無いってどういうことよそれ」

「だから文字通りの意味だ。用意できなかった」

「なっそんな!荷馬車が無いとどうしようもないでしょ!?」

「俺にも出来ることと出来ないことがあるということだ」

「基本的に完璧な天才魔導士じゃ無かったの!?」

「何でもかんでも完璧や天才という言葉で済ませようというのは感心しないな。誰しも得意不得意はある」


こんのっーーーー!と、今にも殴りかかりそうなメイと飄々としたマティス。

事情はよく分からないのだが、とりあえずマティスが約束を果たせず顧客が困っている、という図なのは分かる。何とも図太い店主であり、いっそ尊敬してしまいそうなくらいだ。


「落ち着け落ち着け。若者はせっかちで短期だから困る。確かにキャラバンは用意できなかったがな、それだけで済ませると思うのかお前は。最善は用意できなかったが、取りあえずお前の意に沿うための次善は用意してある」

「……一応聞いとこうじゃない」

「ホレ、これを見てみろ」


 男は二枚の紙切れを取り出した。何か文字のようなものが書いてあるのだがやはり読めない。こちらの世界の文字であるようだった。


「これって……魔導列車のチケット?」

「そうだ。フー、お前は知らないだろうが、つい最近魔導機関で動く長距離移動用の乗り物が一般向けに開放されてな?そのチケット、というわけだ。流石はジョージア卿の手腕と言ったところか」

「ふんっ。権力におもねる発言は止めたら?発言に一貫性が無いわよ」

「阿呆か。だから貴様らにやると言ってるんだ。これを俺に送ったやつはジョージア卿……かどうかは知らんがな。俺を権力に取り込むために送ったと言ったところだろう。俺を引っ張り出して、な。下らん。俺は魔導列車なんておもちゃに興味は無いし、そも俺は煩雑な人間関係に嫌気がさしてこんなところにいるんだ。何が悲しくて自分からまた飛び込んでいかなくてはならんのだ。というわけだ。こいつはお前らにくれてやる」

「二枚もだなんて。用意が良いわね」

「誰かお誘いになって、とでも言いたかったのだろうよ。ますます下らんことだ。そら、さっさと行ってしまえ。無駄にできる時間は無いだろう」

「言われなくても。ほら、さっさと行きましょ」

「あ、うん」


 メイについて店を出ていく。あのマティスという男は信用は出来ないだろうが、決して邪悪な人間でもないのだろう。自分の信じるところに高潔であり過ぎて、それが他人にとって理解できない、時に不快な言動となって表れているだけで。







「取りあえず、旅支度を始めなきゃね。アンタの服装だけじゃ寒そうだし、他にも食料とか色々準備しなおさなきゃ」


 そういえば僕の服装は中学校の制服であるシャツの上にポリエステルのブレザーを羽織っただけだった。

初夏のちょっと暑いなぁ、なんて思い始めたころだったのだが家で着てしまってから面倒だからそのまま学校まで行ったのだ。

今から思えばファインプレーである。


「えっと、ごめんね?」

「謝ること無いわよ。私だって準備したいことはあったし」


 そうして僕たちはカルドレスの町の、雑多な市場まで来ていた。

日本ではあまり見られない風景だろう。食べ物もあれば、布もあり、日常雑貨もある。

中には武器のような物騒なものも見受けられた。


「さて、と。取りあえず、このブラウンのコートで良いかしらね?安物だけど、無いよりかマシでしょ」


 異存は無い、と頷くと彼女はさっさとコートを買って僕に手渡した。

羽織ってみると、まぁ暖かい方ではある。


「あとは……護身用の武器ね。これから先盗賊に出会わないとも限らないだろうし。私はナイフを持ってるけど。フーはなんか持ってる?」


 言われてカバンの中を見てみた。あるのは日本史の教科書と図書室で借りた本、購買で買ったお茶。それとのど飴くらいのものである。

ハサミやカッターの類は常備していないし、あったとしても武器とは言えないだろう。首を横に振った。


「そう……んじゃ、と取りあえず……ロングソードで良いかしらね?」


 先ほどまでとはまた別のところで中古のロングソードを買い取る。

高いのか安いのかは知らないが、特に値切ったりしている様子は無くポンポンと買い取っていく。

ここまで思い切りがいいと、少し不安にすらなってくる。


「こんな簡単に買っちゃっていいの?」

「えっと……ええ。必要経費よ、この程度」


 そういわれたら、そうなのかと思うほかない。僕は彼女におんぶに抱っこなのだから。


 買い物は多岐に渡った。

乾パンのような携帯食料や替えの下着、他にも地図のような日用品や必要なものを。

気が付けば、先ほどマティスの店で受け取った衣裳ケースと同じくらいには膨らんでいた。

あらかた必要なものがそろったのか、彼女は手近なところでホットドッグかケサディーヤかのようなものを購入して二人そろってかじりながら歩く。これが今日の昼食らしい。


「ま、こんなものでしょ」

「結構買うね?」

「そりゃ、予定より一人増えたからね。運べる限界が一人分増えたってことじゃない。当初の予定よりも色々盛って買ってるわよ。そういう意味じゃ、さっそく役に立ってるわよ、アナタ」


 今食べているものは、薄いパンにチーズと塩味の強い何かの肉がくるまっているものである。

調味料の類があまり使われていないのか、チープさすら感じられるが、腹は減っているので不味くは無い。市場は昼時なのか、賑わいを増している。時計を見れば、僕がこの世界に来てからもう三時間は立っていた。

はむ、はむと齧る。齧りながら、ふと疑問に思ったことがあった。


「そういやさ、聞いてなかったことがあった」

「ん?なによ」

「僕が手伝う君の仕事ってなんなの?」


今のところは旅行としか思えないような準備しかしていないのだが。


「え?言ってなかったっけ?」

「言われた覚えは全くないね」

「あー……そういえばね。んじゃ、まぁ。改めて説明してあげるわ」


 彼女は手元のパンを、リスのように食べはじめ……きまり悪そうな雰囲気をだした。


「私ね、行商人に成りたいのよ。ねぇ、フー。この町、どう思う?」

「どう、か……うん。悪くは無いと思うよ。人でにぎわっていて、みんな笑顔だ」


 前を向けば完璧とまではいかないまでも綺麗な街並みがそろっている。そういう意味じゃ、決して悪い場所ではないだろう。


「私はね、大嫌いなの」

「……そりゃまたどうして」

「この町の賑わいが嫌なわけじゃない。

それはとても素敵なことだし、少なくともここで暮らしている人たちは幸せに生活できているわけだしね。……でも、さっき地図見せたでしょ。

カルドレスの町はアルトニアという国の中で、ほんの一部に過ぎないの。

地方になれば、もっと貧しいところがあったりする。

今ここで当たり前にあるものがいきわたらない地域がある。

病院が無くて、学校が無くて……ってね。私、そういうところのことを知っちゃったから。

知っちゃったら、止まらなくなっちゃった。

だから、そういうところに行くのよ。この魔導紋章を持ってね」

「その紋章は売り物ってこと?」

「そうなるわ。このトランクに詰まってるものだけでも、多くの助けになるものばかりよ。

炎が出る紋章だったり、傷を癒す紋章だったり……とかく、魔導士も魔術師も減っている時代だからね。

居てもお年寄りだったり、もう死んじゃったりしていて、それで困っているっていう村はいくらでもあるのよ。私は、そういう人たちの助けになりたいの」


 ……ああ。とっても傲慢な覚悟だ。しかし、優しい覚悟でもある。

彼女は自分のいるところを理解しているのだ。どれだけ恵まれているのか……は分からない。だが、先ほどまでの金遣いや発言を見ると、決して貧しい側の人間でもないのだろう。

僕は、それに対する答えを持たない。


「いいんじゃないかな」

「……軽いわね」

「そりゃ、僕はこの世界のことなんか知らないし。いや、悪い意味でもなんでもなくてさ。

僕は分からないんだよ。どれだけの人が困っているのか、どれだけここが恵まれているかなんてね。言葉で言われても実感なんて持てないし。でも、君が本気なのは分かった。だから、僕は良いと思うよ」


 率直な僕の感想である。これ以上の感想は持てないし、求められても困るというものだ。

彼女には望むところがあり、それは決して邪悪なものではない。

そして僕はそれに付いていくに値するものだ、と思う。それだけだ。


「あっそう。なんか、気負って語ったのが馬鹿みたいね、これじゃ」

「馬鹿じゃなきゃ夢なんて見られないさ。僕は悟った賢いやつよりか、純粋に信じてる馬鹿の方に付いていきたいね」

「……ふんっ。それについていくアンタも大馬鹿ってことじゃない。ま、いいわ。そろそろ駅まで行くわよ。……まだ食べてんの?」

「うん?けっこうおいしいじゃないか、これ」

「もっそもっそと……さっさと食べてしまいなさいな。列車は待ってくれないわよ!」


 照れ隠しでもするかのように彼女は僕の前へと行ってしまう。

僕も慌てて口の中いっぱいに頬張り、それに続く。

それにしても、持ってる分量では僕の方が多いから重いんだけどなぁ……


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