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第九話 刺客襲撃! 

「フラグなんて立てるもんじゃないな」


軽口は驚くほど簡単に回ってくれた。

心は未だ混乱と警戒のさなかだが、余裕はまだあるようだ。

リーシャを退けて、起ちあがる。

ロングソードを抜剣し、構える。

絶対感覚は脳と身体と五感とを迅速に戦闘用に作り替えた。


リーシャはというと、矢を引き抜いて調べているようだった。

すん、と矢じりの匂いを嗅ぐ。

なんか分かるのかな、と見ていると驚くべきことを言い出した。


「___これ、毒が……あります」

「毒!?」


トンデモナイ事実だ……!

リーシャが突飛ばしてくれなければ恐ろしいコトになっていただろう。

こんなところで死ぬなんてゴメンだ。


「僕たちを殺す気なのか……!?」

「___でも、痺れ薬の……匂い、でした」


殺す気ではないだろう、と言う。

それにしたってこんな弓矢が当たれば、当たり所によっては死んでしまうに違いない。

医者も病院も無い、人目もないこんなところじゃ、当たれば失血死だ……!


「どっちにしろまともじゃない!」

「……」


どこだ、と目を血走らせる。

射手の姿は木々に隠れて見当たらない。


シンとした静けさの後。


「___後ろです……!」


リーシャの忠告に遅れて、

ガサッ、という音が聞こえた。

今度はさっきのようにはいかない。

こっちだって、戦う覚悟は出来ているのだ……!


果たして、現れたのは黒いマントを羽織った者だった。

体格は見えないが、小柄で華奢に見える。

顔はフードに隠れて良く見えない。


相手はナイフを逆手に構えて、こちらに切りかかってきていた。


風が林を駆ける音に混じり、鉄と鉄の打ち合う音が鳴る。

逆手ゆえに軽い。かと言って、動きが早すぎて対応できないわけでもない……!

受け止めたナイフを弾き返した。


「くっ……」


聞こえた声は甲高い。

どうやら、相手は女のようだが……そんなことを加味する道理は無い。


決して勝てない相手じゃない。

この間の羽根付き帽より強い、なんてことは無いはずだ。


続く一撃。すでに見切っている。

後退して回避し、反撃の一手を伺う。


正直、攻めあぐねていた。

勝てない相手じゃないだろう。

剣から読み取った記憶は、そう告げているのだ。


だが……正直、どうやって無力化しようか、

というのが分からない。


心のどこかで、切り捨ててしまえ、と叫ぶものがある。

相手だってこちらの命を狙ってきたじゃないか。

殺そうとするなら、殺される覚悟だってあるはずだろう?と。


だが、僕には殺す覚悟なんてない。

そんな恐いもの、あるはずがない。


あるいは、この前の魔導機人での戦いのようなら

殺せたかもしれない。

アレに人が乗っているかどうかは分からないが

人の顔も肉も見えないのだ。

殺す覚悟などなしに、殺せるだろう。


だが。目の前の人間は、確かに肉を持った人間だった。

少なくとも、僕には人間だと認識できた。


考える間にも、刃は迫ってくる。


正直、早めに事態を収束させたい。

僕の能力は一時的に道具の使い手の力を再現できるが、

それは無理をしているから出来ることなのである。


「____あ。あああああ……んん……ううー」


声が聞こえた。

いや、声じゃない。そんな上等なものじゃない。

呻きだ。

後ろに気を回す。

そこには、もう一人の黒づくめに組み伏せられたリーシャがいて……


「くそっ、暴れるな、ガキ!コイツを渡せば……!」


野太い声が響いてくる。

そうだ。あたりまえだ。

どんなに筋肉が付いていようと、

感覚が鋭かろうと、彼女は少女なのだ。

大の大人に抑えられれば、無事で済むはずがない……!

なんということだ。

後ろがお留守になっていた。

逡巡が仇になった。

しなくていい逡巡が、彼女を危険にさらしてしまった…!

頭から、血が引いていく感覚がした。


……ふざけるな


ああ、まただ。

切れた。自分は意外と沸点が低いらしい。

正直、目の前の相手への配慮とか気遣いとか、今後のこととか。

そんなもの、一切合財知ったことか……!


「やぁぁぁぁ!」


女の方が切りかかってくる。


「無駄だ……!」


右からくる刺突を避ける。今度は右の方に。

そのまま、お留守になっていた女の左手を掴み、捻りあげた。


女の苦しそうなうめき声。

そんなものは、今の僕の心に届かない。


ナイフを持った右手に、ロングソードを思い切り突き刺す。


「ぎゃあああああああああああ!!!!!」


絶叫。

ギャグのように叫ぶものだ。

バカじゃなかろうか。

殺されなかっただけ、有り難いと思え……!


「っ!?ソフィアっ!」


リーシャを組み伏せていた男の方が、女の絶叫に反応した。

射手はあちらのほうであったようだ。男は矢を構えた。

対応するのに剣を引き抜くのでは遅い。

女が手放したナイフを取り上げると、その記憶を読み込む。

探すのはある使い方だ。

一秒に満たない静止。知らない記憶を思い出すように眺めて、

ついにそれを見つけ出す。

……やはり、あるみたいだ。


見つけ出したのは投擲法。

この手の道具の最後の手段は、これに限る。


先ほどまでの経験から、決して上手ではないのだろう。

だが、こちらが当てるつもりで投げつけてやれば……!


それは矢をつがえたのと同時だった。

バシュッ、と投げたナイフが右手に掠める。

小さく、男が呻いた。

弓矢は見当違いの方向へと飛んでいく。


それを逃す手は無い。

今度こそ剣を引き抜くと、そのまま駆け出す。


剣を構える。かざす。


……と、そこで頭が冷えた。


僕は何をしようとしているんだ……?と。

剣で切るのか?

相手の甲を貫くのも、殺すのも一緒だと?

バカな。


空いている左手に握りこぶしを作り、

相手の顔面に叩きつける。


絶対能力が発動しているからか、あるいは興奮しているからか。

普段からは考えられないほど相手の身体が吹き飛んだ。


「リーシャっ!」


倒れている少女を抱き起こす。

浅黒い肌には傷がついているようには見えなかった。


「大丈夫かい?」

「____はい」


控えめで……心なしか怯えた様子で首肯する。

それを認めると、剣を鞘にしまい、彼女を担ぎ上げる。

ずっしりしてるが、能力はまだ発動している。

逃げる程度ならなんとかなるはずだ。


「____あっ……大丈夫、です」

「大丈夫なものかよ」


抗議の声を無視して、僕は林の中へと駆け出した。


「___でも、ナイフ投げ……すごい、です」

「ああ、あれ?相手の胸に当たるように投げたんだ」


真っ当に当たるように投げれば、別の場所に当たる。

やはりあのナイフの持ち主は投擲が上手ではないらしい。







さて、状況を整理しよう。

一言で言えば、不味いことになった。

あの黒ずくめたちが何者かは知らない。

だが、まともな相手じゃない。


相手の肉を切ること、相手の身体を射ることになんの躊躇も無かった。


本来ならこのまま山から降りて、

人目の付くところに行きたいところだ。

しかし、来た道をそのまま帰るというわけにも行かない。

なぜなら、あの黒ずくめたちは僕たちが来たところから現れたのである。

どこにあの仲間がいるか、分かったものでは無い。

迂闊なことはするべきじゃないだろう。


「____相手は」

「ああ」

「____黄金蝶を……奪おうとして、いました」


思い出すのは先ほどの男の方だ。

無理やりリーシャの持つ虫かごの方を奪おうとしていた。

ただの物取りだというのだろうか。

それなら分かりやすいが……なんだか違う気がする。

だって、理由がない。丁度通りかかった人を襲う?

明らかに、人通りのない山奥で?


「……どっちにしろ、山からさっさと降りよう。君はお母さんのところまで行かなきゃならないだろう?」

「……」


少女は翳りのある表情を見せた。不安なのだろう。

彼女だけは、絶対に家に帰してあげなくては。


「___っ!?誰か、います」

「!?」


リーシャの言葉に剣を手に掛ける。

先ほどから彼女の探知能力が高いのは織り込み済みだ。

ガサガサ、と音が聞こえてくる。

僕はその方向に向かって、最大限の警戒を向ける。


……が、一向に攻撃が来る気配はない。

先ほどまでなら、間髪入れずにやってきていたのに。


「誰だっ!」


辛抱たまらず、叫んだ。

剣を抜いて、臨戦態勢に入る。


「えっ、ちょ……なに!?」


言葉を聞かずに剣を向ける。

……が。


「なっ、ちょっと!別に怪しいもんじゃないわよ!……って、フー!?」

「……メイ?」


現れたのは、僕が見知った人間だった。

朝に分かれて以来の、僕の相棒。メイ・ハーヴェイだ。


僕は安堵の思いとともに、

ああ、どうやってこの状況を説明しようかな……と、頭を抱えた。


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