アントラクト 向かう先はサンデル
「はぁ!?出掛けたぁ!?」
コンラットとの交渉の後、待ち合わせの宿まで言ったメイ。
しかし彼女は宿の受付で語られた言葉を聞いて、驚愕した。
フー大丈夫かな?
流石に無茶ブリだったかな?
無事に到着できたかな……?
なんて心配した自分がバカみたいである。
「は、はい。フートキさん……でしたよね?『ちょっと出かけるからお連れ様のメイに言伝てを』と」
「……あのバカ!それで?どこに行ったって?」
「サンデル山の方に向かわれる、と。お連れの……亜人の子供と一緒に」
受付嬢の顔にいぶかしみが混じる。
メイからすれば、訳が分からないのはこっちの方だ。
『亜人』
もともとアルトニア列島にマリーメイア王朝が表れる前の、先住民族を指す言葉だ。
列島の亜人種は、度々大陸側に侵攻してきた歴史を持つ。
大陸側からの移民によって建国されたアルトニアの民は彼らとの禍根が根強い。
そういうわけで、亜人への侮蔑的態度は多くのアルトニア人が抱えている。
別にメイ自身は亜人への差別感情は無い。
だが、前述の通り亜人とアルトニア民の間には溝がある。
虐げられる側となった亜人の犯罪は社会問題なのである。
フーのぽけーとした、警戒感の無い表情が頭に浮かぶ。
騙されたり、何か厄介な出来事に巻き込まれていないとも限らない。
……だが、フーもサンデルに向かっているというのは好都合である。
不幸中の幸い、と言えるかもしれない。
本来ならこれからミーティングを行い、
今後の方針と今日決まったことを伝え、
明日から黄金蝶捜索を開始しようと思っていたのだが……
サンデルに向かったというのなら、
フーと黄金蝶の両方を探してやろうではないか……!
「……ごめんなさい。じゃあ、部屋に案内してくださる?」
ともかく、準備である。
フーが預けていた荷物を貰い、案内された部屋の中に入る。
トランクの中を漁り、持っていく紋章を決める。
黄金蝶の捜索に使えそうなものや、フーを見つけられそうなもの。
そういったものを探していく。
「せめて無事でいなさいよ、フー」
呟いてから、意外に感じた。
どうやらメイ・ハーヴェイという人間は、フーという奴を思いのほか
気に入っているらしい、というか大事に思っているらしい、と。
ああ、まったくもってその通りだ。
自分にとって、あの男は一番最初に手に入れた、自分だけの仲間だ。
アイツを害する奴がいるのなら、それは何としても守ってやる……!
そんな覚悟を持って、少女は宿を出る。
向かうはサンデル山。
運河を渡り、倉庫街を超えたところにある場所。
そして、一攫千金、現在の問題の大逆転が出来るところへだ。




