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作者: デクテール

怖いはずです。

まじめに書きました。

「遅くなっちまった」

そう呟きながら俺は閑静な住宅街をとばす。

日が傾き黄金色の光が家々を染める。

今日は家に家庭教師が来る日だ。

遅れたら親に何を言われるか分かったもんじゃない。

焦るが錆付いたチェーンは思ったように回らない。

目の端で捕らえた景色に違和感を感じ自転車を止めた。

こんな道あったか?

見慣れたいつもの帰り道だがこんな道は覚えていない。

家と家の間に不自然に開いた空間がある。

そう、道というよりは細長く伸びる空間と言ったほうが正しいだろう。

軽自動車一台分くらいの幅があり、両側に家が立ち並んでいる。

道は家の方角に向かっている。

うまくいけば大幅に時間を短縮できる。

だけど、そこにはなんとも言えない違和感がある。

まるで、そこだけ道が死んでいるような。

俺は不安を払いその道へ自転車をこいでいった。


間違いだったかな?

30分ほどこいだが一向に抜けられない。

もう10分、もう10分としている内に取り返しがつかなくなってしまった。

日はもう沈みかけ、家の影が道を覆っている。

そのせいで異様に道が暗く感じる。

街灯は無い。

不安になり引き返すことを考えた。

もう間に合わない。

それなら確実に家に帰るほうがいい。

理性が必死に心の不安を隠そうとしている。

怒られるよりこの道をこのまま進み続ける方が嫌だ。

道の先で何かコワイモノが待っている気がする。

コワイモノってなんだ?

ただ道に迷っただけだ。

高校生にもなってそんなことを考える自分を笑ってやりたい。

だけど、本能的にこれ以上進むことを拒否している。

俺は本能に従い道を引き返した。

方向を変えるとき道の先にある闇が濃くなった気がした。

俺は必死でもと来た道を逆走した。


おかしい。

いつまで行っても道が終わらない。

それどころか沈みかけの夕日が放つ赤い光もそれによって長く伸びた影も変わらない。

「どうなってるんだよ」

息が上がってきた。

呼吸の音だけが静かな道に響く。

だが止まれない。

止まれば道の向こうのコワイモノが動き出す。そんな気がする。

そうだ、家がある。

道の両脇にある家で電話を貸してもらおう。

今一番したいのはこの不安を消すこと。

電話を借りたいなどというのは口実だ。

人に会いたい。

そして、今自分がちゃんと現実にいるという事を確認したい。

俺は恐怖を押さえ込んだ。

自転車を止め、隣に建っている民家に叫ぶ。

「すみません!道に迷ってしまったんです。電話を貸してください」

返事は無い。

じわじわと恐怖がせり上がって来る。

叫びだしそうになるのをこらえてもう一度呼びかける。

「すみません!」

窓ガラスに人が映った。

室内が暗くてよく分からないが確かに人がいる。

男か女か分からないけど今の俺には女神のように見えた。

助かった。

自転車を降りると気が抜けてその場に座り込みそうになった。

視線を感じ辺りを見回すと周りの家の住人が全員窓越しにこちらを見ている。

無理も無いなと思った。

あんな大声を出したんだ。

一番最初に呼びかけた民家の住人が窓に手を伸ばす。

窓を開けたときにもう一度呼びかけようと思い背筋を正した。

まてよ。

ふと疑念がわいた。

こんなに薄暗いのになんでみんな電気を点けてないんだ?

バンッ!

住人が両手の手のひらで窓を叩いた。

バンッ!

驚いて後ろに下がると反対側の民家の住民も窓を叩いた。

「うわっ!」

バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン。

いっせいに全ての家の住人が窓を叩き始めた。

窓に映るシルエットが狂ったように窓に手を打ちつける。

「うあぁっ!」

恐怖に駆られて走り出す。

自転車を置いてきてしまったが気にならない。


窓を叩く音はもう聞こえない。

それもそのはずだ。

アレから1時間は走りっぱなしだ。

だけど、止まれない。

意識の奥で最も古い感情。

恐怖が足を動かす。

止まってはだめだ。

止まればコワイモノに捕まる。

だけど限界が来た。

心は止まることを拒否するが体が止まってしまった。

冷たいアスファルトの上に倒れこむ。

逃げなきゃ。

恐怖に駆り立てられて地面を這って進む。

膝と腕が擦り剥けた。

血がにじむが気にしない。

止まればコワイモノが来るから。


まだ日は沈まない。血のような赤を民家に投げかけ、民家はそれを不吉な黒で返す。

制服が破れて腹も擦り剥けている。

這った後の道が赤く染まっていた。

手にも足にも激痛が走っている。

でも、止まって見る余裕は無い。

コワイモノの気配はだんだんと大きくなっている。


絶望した。

俺は歪み、捻じ曲がり、原形をとどめていない自転車の横を通り過ぎた。

引きちぎられた泥除けに俺の名前があった。

嫌だ。嫌だ。怖いコワイモノが来る。すぐそこに。来てる。

俺は叫びながらペースを上げた。

痛みで意識がとびそうだ。

だけど、気絶しちゃだめだ。

コワイモノに捕まったら……。



俺の後ろの道で闇がゆらりと動いた。

感想待ってます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。此方まで恐怖が伝わって来ました。 これからも頑張って下さい。
[一言] 怖い、の一言です。きっと、家の人たちは彼と同じように捕まってしまった人たちなのかもしれませんね。 ぞくぞくしました。帰り道が怖くなりそうです。 これからも、がんばってください。
2007/10/08 14:39 退会済み
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