これからどうしようか?
結論から言うなら、俺たち3人は停学2ヶ月になった。
ただの停学ではない。
受験期真っ只中の停学だ。
その期間中にあった私立は全滅、県立も一次は受けられずに定員割れの2次募集しているところのみが受験可能となった。
しかしまあ、周りからは責められた。それも仕方ない。だって、こっちが一方的に悪いんだもの。
「なんでこんなことしたんだ!」
「僕と雅彦くんは、クラスメイトの雄平くんが野球部の連中に羽交い絞めにされて殴られているのを見かけたので、止めに入っただけです!」
「立花はなんでこんなことをやったんだ!」
その質問には雄平は答えなかった。言ったところで信じてもらえるはずもはいことだったしな。
ただ、雄平はへらへらと笑っているだけで、周りから見たらどこかおかしくなったとでも思われたようだった。
「……俺のために、悪かった」
そう言って、雄平は俺と雅彦に頭を下げた。
ちなみに言うと、雄平はついに金丸には頭を下げなかった。
それを含めての停学2ヶ月だ。
あるいはなりふり構わず土下座でもして許しを請うたのなら、ここまでの処罰は下らなかったかもしれない。
「謝罪はいずれ形で返せよ」
「頭下げるのは、無料だからな」
俺たちはそう言って笑いあった。
俺たちには不思議なほど悲壮感はなかった。
大なり小なり失敗を経験してきた俺たちには、高校受験の失敗程度では死にはしないことを知っているのだ。
もっとも、必死になって落とし穴に嵌るのを回避しない辺りに「負け組」扱いされてきた理由の一端があるのかもしれないが。
「それで、どうする? 2次募集の高校に行くか?」
「それはそれで楽しめる気もするけど、単純に3年間も高校生活をやり直す気にならないよなあ」
「そういえば、源次、私立はどうなった?」
「ん? ああ、落ちてた。前回は受かっていたから点数ではないと思うけど。私立が問題起こした俺を切ったのか、政治家やってる金丸の親父が手を回したのかはわからないけど」
「俺はともかく、源次と雅彦にまでここまで厳しい処罰はおかしいと思うけどなあ」
「いや、まあ、俺は金丸の前歯叩き折ってやったし」
「うん……、俺もそれなりにやった」
「ま、とりあえず話を戻そうぜ。せっかくの2回目の人生だし、なんとか有効な人生を送りたいけどな」
「有効って?」
「俺たちはこの後の歴史がどうなるか知ってるだろ? ITバブルに中国株。金の値上がりなんてのもあるな。9.11で儲けたらCIA辺りに目を付けられそうだけど。そういった知識を有効に使いたいってこと」
「株で稼ぐのか?」
「金稼ぎは一例だよ。『金があっても幸せになれるとは限らないが金がないのは不幸だ』っていうユダヤの格言もあるしな」
「俺たちが『負け組』扱いされた理由のひとつは間違いなく金がないことだったしなあ」
「それじゃあ、株でも買うか? ちょうど95年だし、そろそろウィンドウズ95が出るだろうからマイクロソフトか?」
「いや、そもそも未成年が株を買えるんだっけ? それ以前にマイクロソフトくらいになると高いんじゃないの?」
「高そうだよなあ。元金稼ぐのも大変そうだし、もっと簡単に稼ぐ方法ないのか? 宝くじの当選番号覚えているとか」
さすがにそんな都合よく覚えてるはずはない。そう思い俺は首を横に振ったが、雅彦は違った。
「……おい、まさか、覚えているのか」
雅彦はしばらくもったいぶった間を置いて、神妙に頷いた。
「マジで? 18年前のことだぞ、思い違いとか無いのか?」
「いや。はっきり覚えてる。それくらい悔しかったから」
雅彦は話し出した。
中学を卒業した最初の週、雅彦は始めて競馬を経験した。
その日は当たったり当たらなかったりで儲けはなく、少し足が出ているような状態だった。
雅彦自身、小額の馬券を買っていたこともあって勝ち負けに拘ることもなくそれなりに楽しんでいた。
最終レースまでは。
雅彦は、どうせ最後だからとそのレースに残っていた軍資金5000円(中学生には大金だ)を注ぎ込んだ。
そして、それが当たったのだ。
しかもそれが150倍になった。雅彦は、一瞬で750000円もの大金を稼ぐことに成功したのだ。
もっとも、その金は雅彦に渡ることはなかった。
払い戻しの時に年齢を疑われ、補導を受けて馬券を没収されたのだ。
「今になって考えるなら抜け道はいくらでもありそうだけど、あのときはそんなこと考えられなくて泣き寝入ったんだよなぁ」
そう言って雅彦は遠い目をした。