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3/11

久しぶりの学校とお仲間発見

俺の名前は浅葉源次。1981年生まれの32歳、だった。

が、今はなぜか14歳の中3(早生まれね)になっている。

実質、18年もタイムスリップしたことになる。


「……ここ、まだレンタルビデオ屋なんだ。確かこの後、オーナーがキャンピングカーの販売に手を出して潰れるんだよな」


 登校中のことだ。なにしろ18年も前の町並み。見慣れていたはずの通学路も新鮮な驚きに満ちていた。


「浅葉、おっす」


「おう、おはよう」


「浅葉先輩、ち~っす」


「お? おう、おはよう」


 新鮮なのはなにも景色だけじゃない。俺、当時は普通にコミュ障じゃなかったのな。

知らないやつにまで挨拶されるし。

なによりの驚きは、身体が軽い軽い!

なんか、ギシギシいってた間接に質のいい油を挿した感じ。

単純に32歳の時と比べれば体重は半分以下だってこともあるが、全力で身体を動かして身体が痛まないなんて何年ぶりだろう。


そういったことも相まって本来だったら30分はかかるだろう登校路も、10分ちょっとで到着してしまった。

久しぶりの中学校、少々の混乱(当時の下駄箱の位置なんて覚えてねえってぇの)はあったもののなんとか教室にたどり着く。


 俺は、ゆっくり教室のドアを開いた。


「……みんな、若!」


 時間的には昨日、18年後のこいつらを見ている俺としては、なんか、ものすごく不思議な感覚だ。


「あ、源ちゃんおっはよ~」


「あ、ああ。おはよう」


 俺に声をかけてきたのは、田代めぐみだ。

昨日、俺に「がんばって♪」なんてほざいた女だ。


「ねえねえ、今日ニュース見てきた?」


「あ? なんだっけ?」


「地震だよ。けっこう大きかったみたいだよね~」


「そういえばそうだったみたいだな」


「もう、源ちゃん昨日私立だったんでしょ。終わったからって気を抜きすぎ」


「そういえば妹にも言われたな。私立ってなんのことだっけ?」


 俺がそう言うと田代は俺から一歩引いて哀れみを含んだ(昨日と同じような)視線を向けた。


「なかったことになるほど出来が悪かったんだ。でも大丈夫! まだ県立あるし」


「県立? ああ、受験のことか」


 そういえば俺、私立受験して、その時の入試の成績がよかったとか言われて県立は受験しないでその私立の特進クラスに進学したんだった。

その特進クラスってのが私立文系向けだったために一番得意だった数学がなくなったんだよなあ。

今考えると、そこに進学したのが俺の人生最初の大失敗だったかもなぁ。男子校だったし。


「ところでさあ。今日の地震、入試に出るかなあ?」


「県立の入試?」


「うん。社会科で。けっこうな事件だもんね」


「事件かどうかはともかく、入試の問題ってのは年末には完成していて印刷が終わってるって話だから出ないだろ」


「いや、こんなに大きな地震なんだから書き直しだってあり得る!」


 そう言って話に割り込んできたメガネは確か進学塾に通ってて頭がよかった覚えがある。そういえばこいつ、同窓会には来てなかったな。

このメガネが話しに加わったのをきっかけに、周りも話に加わってきて俺は輪から弾き出されてしまった。

この辺は32歳の俺だ。当時の俺はどうやってこの輪の中に入っていたのか、どうしても思い出せなかった。

……歳喰って衰える能力ってのもあるんだなあ。


そこで、俺はある視線に気付いた。

机に座っている色白の巻き毛。


福知山雅彦だ。


こいつは昨日の同窓会で2次会には参加せず俺と一緒に帰ったやつだ。

俺は、ある可能性に思いついた。


俺はバックを自分の机(これも場所を覚えていなかったから人に聞いた)に置いて、雅彦の前に立った。


「……9.11」


「! テロ。3.11」


「福島原発」


 そのキーワードを聞いて、雅彦は席から立ち上がった。


「まさか……。源次も?」


「ああ。2013年からだ」


 と、突然勢いよく教室が開かれた。

皆の注目を集めているのも構わず俺たちに向かって一直線に来る、色黒の細マッチョは立花雄平。

やはり、昨日の同窓会で2次会に参加しなかったやつだ。


「源次、雅彦。お、おまえら。ひょっとして!」


 俺と雅彦は一度顔を見合わせて、雄平に質問した。


「3.11」


「9.11」


「! 同時多発テロに東北地震! やっぱりおまえらも」


「ああ。そうらしいな。理由なんて思いもつかないけど」


「俺は……、あの女占い師が怪しいと思う」


「あのボタンが? んな馬鹿な、て今の現状がすでにおかしいのか」


 なんやかやと話しているうちにチャイムが鳴る。このチャイムは、確かホームルームの合図だったか。


「どうする? どっかファミレスでも入るか?」


「中学生が平日の授業中に? さすがに通報されるだろう」


「別に刑事罰に関わるような悪いことでもないと思うけど。ていうか切実な問題として金がない」


「……とりあえず、ホームルーム受けてる場合じゃねえもんな。教室出るか」


 俺たちは頷いて3人仲良く教室を出た。

 途中、田代に声をかけられた。


「あれ、どこ行くの?」


「ちょっとサボるわ」


「さすがに今の時期はまずくない? 内申に響くよ」


 ナイシン! 久しぶりに聞いた。あれだ。教師に媚売らないと内申点なるわけのわからないものを減点されて高校受験に大きく響くと言われていた記憶がある。

すっかり忘れていた。2013年でも東大が推薦で入学できるようになるようだし、今でも内申ってのは「生き」なのかもしれないが。


とにかく、俺たちは田代に適当に答えて教室を出たのだった。


金曜まで17時に予約投稿しております。

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