ある日々の終わり
好きな人の幸せを願える女になりたい。隣にいるのが自分じゃなくても。
こう思いたいと、私も思っています。
昨夜から降り続いた雪が、辺り一面を真っ白くしている。じゃこん、じゃこんと鳴るワイパーの音を聞きながら、職場に向かって車を走らせる。昨夜飲んだ日本酒が脳みそに染み込んでいる感覚。微かに頭痛がし、いつもより神経が鈍っている。
いつものカーブを曲がり、駐車場に車を停める。タンブラーからコーヒーを一口飲んで、エンジンを切る。時計を見るといつもより3分の遅刻。雪で道路が混んでいたから。
ドアを空けて車から降り、傘を広げて視線を上げたとき、私が目指す会社の入り口に向かって歩く2人の人影が見えた。私と同期の2人。私は思わず顔をしかめる。いつもの時間に着いていればこの場面に遭遇することはなかったのに。
これはつまり、この2人はうまくまとまったっていうこと。同期の間で人気No.1のアイコと、それを狙っていたシンペイ。もちろん、うまくいったのならこんなに喜ばしいことはない。ただ数日前まで、アイコが全然相手にしてくれないとウジウジとメールや電話をよこすシンペイを、励ましたりやけ酒に付き合ったりしていたのは、私だった。
すぅっと胸が寒くなる。素直に祝福できない自分が、ひどく卑屈に見えて、惨めだった。
足を前に出すことができず、私は降りしきる雪の中にしばらく立ち尽くす。
大丈夫、うまくいくよ、とシンペイを繰り返し励ましていた日々を思い出す。その度に、俺自信ないっすよ〜、って弱く笑ってたっけ。ユウコさんは優しいっすね、いつもありがとうございます。なんて、別れ際はいつも言ってた。
私は、その日々を焼却炉に突っ込んで、忘れることを決めた。これを思い出にしてとっておいたりしたら、あたしが勝手にだけど、アイコともシンペイとも気まずくなってしまう。
それは、いつの間にかあたしがシンペイを好きになってたっていうことだった。バカだなぁ。こうなる前に、好きだって、言っておけばよかった。好きだって言う前に、失ってしまった。
あたしは降る雪を見上げる。目をつぶり、涙をこらえる。そうだ、悲しいのは二日酔いのせい。頭痛と、神経が鈍っているせい。治れば、2人を祝福できるようになる。ちゃんと笑って、おめでとうって、言う。
思い通りにならない恋はつらい。でも、好きな人の恋は実ったんだから。
おめでとう、シンペイ。