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誰もいない屋上で神山は話を始めた。
「三条くんだけでなく、山岸くんと姉星さんも来ることは予想していたわ。まずは最近のことについて話しましょう」
神山はあの表情で星空を見つめた。彼女は外の景色が好きなのだろうか。少し時間がたった後顔を下げ、話を始めた。
「あなた達は、今までの事件を全て私の中学の頃の復讐だと考えていたようですね」
また間を空ける。
「結果から言うと、それは正論です。あなたたちや、伊藤くん、涼姫さん、春村さんが都合よく同じ銀学に通う運命になりましたしね。まあこの運命を作ったのは私ですけど」
「俺らが憎かった気持ちは分からんでもないが、だからって、だからって春村を殺すことは無かっただろうが!」
「黙りなさい」
神山がそういうと、山岸の口は自然と閉じられた。
「物事には順序があります。それを無視していては何も始まりませんよ」
山岸の口封じのようなものを解いて話を続ける。
「私は中3の冬、あなた達にいじめられて学校に来られなくなった頃、能力に目覚めました。運命を変えることもできれば、人を殺すことだって出来る。いずれにしても自分の手を汚さずにいろいろなことができるのです。あなた達も強い念さえあれば、このような能力を手に入れられないわけではありません。まあ、そうは言っても、普通の念じ方では到底かないませんが。
でも、その頃の私にはそんな能力を使う以前に、社会復帰する勇気やきっかけがなかった。もうお気づきの方もいるようですが、"場"が無ければ私の力は無と化してしまう。今では"場"を作ることさえもできますが、その頃の私には"場"を作ることまでは出来ませんでした。そんな私に何も知らずに手を差し伸べてくれたのは、三条くん、あなた」
「三条だって人殺しのためにお前を助けたわけじゃ、」
山岸は固まった。
「二度目の警告ですよ? そろそろ学びなさい」
「続けてくれ」
カナメは続きを要求した。神山はうなずいて、それに答える。
「無事高校に進み、それからは不自由無い生活が待っていたわ。そんな私に浮かんだのが、この復讐劇よ。なにしろ、自分の手を汚さないでできるならしない手はないでしょう。そこで山岸くんから順に復讐をすることにしたんだけど、味方がいないこのままの状況では不利と思って生徒会副会長選挙に出馬したの。まあ副会長が辞めるように仕組んだのも実は私だったんだけどね」
そこから彼女の野望は始まっていたのか。カナメはなるほどと思った。
「順番には意味があったの? 山岸、あたし、伊藤、涼姫、春村」
姉星の質問に、神山は答えた。
「あとに行くほど、程度がひどいわ」
「なるほど」
「話を戻すわね」
「そして、あなた達が見てきた通りよ。私は復讐劇を次から次へと行った。怖いものは何一つ無かった。誰もが私に従ってくれるんだもん。でもね、それでも恐れているものはあったわ」
「一つは、三条くん、あなたよ。あなたは私のこと、自分でも気づかないかもしれないけど結構よく知っているわ」
「そうなのか」
としかカナメには反応のしようがなかった。
「そしてもう一人は水川さんよ。女子でも私に反発して署名運動を展開したりしてね」
「で、何故水川がいる」
カナメの質問を無視してはいるが、答えはしっかりと返した。
「『保健室登校の身分はどこへやら』」
水川はビクッとした。
「これは、さすがの私も怖くなった。いくら能力を持っていても昔のトラウマを消すことは出来ない。昔のトラウマがあってこそこの復讐計画があったから。じゃあどうするか?」
神山は笑い出した。
「水川さんを殺すまでよ」
そういうと、神山は水川の頭に力を加えた。水川の頭が、屋上の地面へと……
落ちなかった。カナメが受け止め、ゆっくりと地面に水川の頭を降ろした。
「三条くん、やめてくれるかな? 恩人には痛い思いをしてほしくないんだけどな」
そういうと、カナメの頭が痛み出した。
「うっ、くぅっ」
「私は、初めて自分の手を汚してまでして水川さんを殺そうとしているの。水川さんも感謝なさい? 原因不明の死なんじゃなくて、立派に私に殺されたって新聞に載るんだから。犯人は謎の生徒副会長ってね。あっはっはっは、あーっはっはっは」
神山の笑い声が銀城学園を包んだ。
このまま、また銀城学園の生徒が一人減るのか?
このまま、水川も殺されるのか? 見殺しにできるのか?
そう思ったカナメの決断は早かった。
「やめろ!」
頭痛はどんどんと激しくなっていく。それを我慢してカナメは叫んだ。
「手を汚すとか汚さないとか関係ないんだ! その前に水川を殺すのをやめろ」
「そうよ!」
姉星も同調した。
「うるさい! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!」
姉星もまた固まった。
「三条くんは私の気持ちわかるでしょ? わかってくれるよね? わかってくれないと悲しいよ」
神山の目が狂気に満ち始めた。
「全員、死ね!」
神山の目は光り、水川に向かっていく。
「や、やめろ」
カナメが言っても神山の足は止まらない。頭痛ばかりがひどくなっていく。
「やめろー!」
そういうとカナメは神山を蹴り飛ばした。神山が崩れ、倒れる。山岸と姉星も意識を戻した。
「俺は、か、神山のことは嫌いじゃない。だが、お前が、水川を殺そうとするなら、話は、別だ。俺はお前と戦ってでも水川を守る」
頭痛と戦いながらも、カナメは言い終えた。宣戦布告はしたが、頭痛との戦いで精一杯だ。
「何を言っているのよ」
神山はカナメに顔を向けた。
「あなたの気持ちが私以外に向くなんて、許せるわけがないじゃない。3人で、かかってきなさい!」
銀城学園の屋上。1対3の最終決戦が始まった。夜が明けるには、まだまだ早い。
次回、最終話……だと思います。お楽しみに。




