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まだ、復讐は終わっていない。
じゃあ、次の復讐の矛先は一体誰に?
カナメか? また山岸や姉星か? 教員か?
誰にも見当は付かない。
神山の復讐劇の最終章が幕を開けた。
「なんかさ、全部終わっちゃったような感じがするよね」
姉星の声が響く、放課後の誰もいない教室。山岸と姉星とカナメだけがA組に残っていた。
「本当だよな」
山岸の声がさらに空しく、響く。
二人の声は空しいが、とはいえ復讐劇の目標とされていた人間が全て復讐をされ、これ以上こんな恐怖を味わうことは無いのだ、という安堵も含まれているのだろう。重い口をカナメは開いた。
「まだ、終わっていないと思う」
「え?」
姉星と山岸が驚きの声を同時に上げた。
「彼女は当初から『決着』を付けられない限りは生徒会を離れない、と口にしていた。そして、今日昼休み彼女は俺に『もうすぐ決着が付く』と言い放った。ということは、決着はまだ付いていないんじゃないか」
「何、そんなことを言ったのか、あの女……」
山岸は完全に神山が嫌いになったようだ。
「さて、今日はさっさと帰ろうか。もしかしたら最後の相手までも、俺らの手ではかなわないのかもしれないしな」
先日までの山岸ならこのようなことを言えば、怒ったであろう。だが姉星から4人、誰一人も助けることも出来なかったという事実から言うと自分達ではかなわないというのは、当然の結論でもある。山岸もさすがに怒る気力をなくしていた。
帰り道、山岸や姉星と別れた後、カナメは水川と会った。
「よう」
「うん」
久々に話すのに、水川は意外と素直な反応をしてくれた。
「なんかさ、水川にはすまなかったな」
何だか、カナメはそう謝らずにはいられなかった。
「いきなり、どうしたの? あの時は私も熱くなり過ぎたんだから、気にしないでよ」
「でもさ、実際君の言うことが正論だったことを思うと、ね」
「正論だった? どういうこと?」
そうなのだ。水川と別軸で行動していた自分達は神山の復讐劇にビクビクしていた毎日だったが、水川を始めとする一般生徒は何があったのか分かるまい。
「実はね、今まで起きた5つの事件に全て関連性があるんだ」
そういってカナメは中学時代のことから今までのことを全て話した。そして……何故かまだ復讐は終わっていないことも。
「次は誰に来るのか分からないから、あんまり神山の気に障るようなことは言わないほうがいいと思うぞ。まあ、もう決まっているとは思うけどな」
「うん、じゃあね」
水川と別れた。思えば、カナメが水川と帰るのはずいぶんと久しぶりだった。
今日はさっさと帰ろう、と言ったのはカナメだったが、カナメは今日中に何らかのことが起こると予測していた。よりによって今日、自分を呼び出してわざわざ話をしたからには今日何かが起こるのではないか――そう思いながらも時間だけが刻一刻と過ぎていき、床に就く時間となってしまった。
このまま、今日と言う日が過ぎてしまっていいのだろうかという不安からか、なかなか寝付けない。その時、携帯電話がバイブレータを作動させた。この時間にEメールとは珍しい、そう思いながらも暗闇の部屋の中、携帯のフリップを開けた。
「新着メール 1件」
ボタンを押し、メールを見る。メールは水川からだった。
めふめがっこう
本文はたったの7文字で終わっていた。ちょうど先ほどまで抱いていた嫌な予感がカナメの頭の中を何度も、何度もよぎっていく。
「(これは、大変なことに巻き込まれているかもしれないぞ)」
問題は「めふめ」だ。意味不明な単語に当然ながらカナメは首をかしげた。ボーっとしていて、彼女の身に何かがあったら大変だ。とりあえず試しに「めふめ」と入れて英数変換をしてみた。「767」「767」「メフメ」「メフメ」「SOS」「SOS」
「(SOS! これだ。『SOSがっこう』だ!)」
喜んでいる暇はカナメには無かった。「めふめ」を「SOS」に変換することすら出来ない状況に今、水川は置かれているのだ。ベッドから降り、服を着替えて階段を一段抜かしで降りる。
「あ」
忘れていた。もう一つ大事なことが。
カナメは「水川が学校で大変なことになっているようだ。すぐ学校に来い」と山岸と姉星に送った。そして、二人が起きていることを願う。
自転車に飛び乗り、春村の事件の時と同じ満天の星空の下、カナメは自転車を学校まで走らせた。
真っ暗な学校。さすがに校門をくぐった先に入るのはカナメにも憚られた。するとそこに要請された山岸と姉星がフウフウと息を切らせて走らせてきた。
「カナメ!」
声は屋上から聞こえた。水川の声だ。
「おい、三条、これは水川の、」
と山岸が言うより先に、カナメは走り出していた。山岸と姉星もついていく。
最後の一人くらい助けたい。3人は今この同じ思いをかかえて、2階、3階、4階と走っていく。
そして、屋上の扉。
「待っていたわ」
その声は扉を開ける前にカナメ達の耳に届いた。
「あそこで悲鳴をあげているのは誰でしょう?」
非常事態なのに、神山の声は冷ややかだ。
「てめっ!」
山岸が神山につっかかっていく。それは勿論無駄だった。
「くっ」
見えない力に引き剥がされ、山岸は崩れ落ちた。
「神山、水川のどこが気に入らないのかは知らないが、とりあえず水川を離せ」
「嫌よ」
神山は有無も言わさぬ調子で即答した。
「水川さんは、ここで死ぬの。それは私が決めたんじゃないの。神様が決めたのよ」
「わかった」
カナメは大きく息を吸い込み、いつにもない大きな声を張り上げた。
「生徒会長命令だ! 2年A組の生徒会委員水川を離せ!」
夜の学校にその声は響いた。
「お前、馬鹿か? そんな大声で叫ぶな!」
という山岸の声をカナメは無視する。
「神山も生徒会副会長としてずいぶん人を従わせてきただろう。だが、お前にも上に生徒会長がいるんだ。たまには従う側に立ったっていいんじゃないか?」
柔らかい姿勢を最後までカナメは崩さなかった。
そして神山の反応は意外だった。
「もう少し楽な状態にはしてあげましょう」
水川の紐がほどかれた。だが、なお彼女は動けないようだ。
「とりあえず入ってください」
神山はそう言って屋上の扉を開け、3人は屋上に立った。
次回か次々回、最終話です。テンポがどんどん速くなってすみません。暴走を自分でも止められないのが悩みです(汗)




