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プロローグ

 その日の生徒会もいつもどおりの賑わいだった。


「高一A」

「特に問題ありません」

「高一B」

「暖房の修復を早めにお願いします」


「高三C」

「特にありません」

「高三D」

「こちらからも特に無しです」


 生徒会長であるカナメは皆を一瞥するとこう言った。

「最後に委員より連絡は?」

「はい」

 手を上げたのはクラスメイトの水川だった。

「先月辞任した副会長の後任人事の件です」

「あー、わかった。近く公示しよう。全校対象でいいですね?」

「いいと思います」

「わかりました。今度の朝礼で話しましょう」


 もう一度意見を促したが出なかった。

「それではこれにて閉会とします。お疲れ様でした」


 三条カナメは銀城学園高校二年生。生徒会長であることを除けばどこにでもいる普通の高校生である。もともと学級委員肌であったことや、級友からの指名で去年も生徒会委員をやっていたことから選出された。生徒会長といっても他の学校ほど忙しい訳でもないし、逆にこれと言った強い発言権も無い。もちろん普通の生徒に比べたらその意見は参考にされることなどもあるが、風紀などの面についてしかその効力は無い。


 カナメは書記から今日の議事録のコピーを受け取るとそれを鞄にしまい、生徒会室を出て鍵を閉めた。職員室に戻し家へ帰ろうとする。そこには水川が待っていた。

「あれ?待ってたの」

「うん。そんなにかかるわけじゃないだろうと思ってたし」

 二人は同じ帰り道についた。


「次の副会長、誰になるんだろね」

 不意に水川が切り出す。

「うーん」

 カナメの頭に特に答えは思いつかなかった。それを悟ったのか、

「まあ、嫌でももうすぐわかるよね」

 と水川はその話題に終止符を打った。


 2週間後。生徒会室。

 その後各クラスからの立候補者の書かれた紙を1クラスずつカナメは読んでいった。たいていのクラスは白紙だ。たまに立候補者がいる。それでもカナメが驚くメンバーではなかった。生徒会委員経験者だったり、明るくて積極的な生徒が多いからだ。

 カナメは2年C組で目を止めた。

「神山……みなみ?」

 神山みなみは2年C組の生徒。クラスは違うが、出身中学は同じだった。ほかの立候補者と決定的に違う点は中学のときにいじめられ、不登校や保健室登校を経験しているということだ。そんな生徒が副生徒会長・・・どう考えても不自然だ。いたずらや本人の意思と無関係な立候補ではないかと心配になり、カナメは神山がいるであろうC組の教室のドアを開けた。

「神山さん」

 窓際の席にいい姿勢で座り外の景色を眺めていた神山は意外そうな顔でカナメを見た。

「副生徒会長の立候補の件なんだけど、これは君本人が立候補したの?」

「はい」

「そうか……。明日の朝礼が演説会だって知ってる?」

「はい」

「朝礼で演説できるの?」

「大丈夫です」

 彼女は安心させるかのように微笑んだ。

「じゃあ、頑張ってくれ」

 どうやら本当のようだ。カナメはとても不思議に思ったが本人が希望していることをやめさせるわけにもいかず、生徒会室に戻った。


「おはようございます。銀城学園生徒会本部です」

 半年前は不慣れだった朝礼での話も、少しずつ慣れてきた。

「今日は副生徒会長選挙に先立って、各候補者に演説をしてもらいます。候補者はすべて2年生、男子2名、女子3名の候補者が出てくれました」

 高2の野次馬組から歓声が上がる。


 毎年のように演説会は進んでいった。違うのは前副会長の辞任により2回目の演説会であること。そしてもう1つ。

「はい、ありがとうございました。最後に2年C組の神山みなみさん」

 神山は静かに壇上に上がった。

 それまでまともに演説を聞いていなかった生徒たちも静まった。


「こんにちは、2年の神山みなみです。この度は副生徒会長選挙に出馬することになりました」

 ここから声音が変わった。

「私が掲げる政策は、ずばり風紀強化です」

 強い口調で告げられる言葉に生徒のあちこちからざわめきが起こった。

「こうしている間にもこのようにざわめきが起こっています。このような空気を銀城学園から消し去らない限り、校長先生をはじめとする先生方の目指している銀城学園はできません。具体的には朝礼の生徒会委員の配置、校門の遅刻監視員、校則罰則規定の強化です」

「……」

 カナメの経験からして、生徒会幹部のタイプは大きく3つに分かれる。生徒寄りのAタイプ、中堅派のBタイプ、そして教師・学校寄りのCタイプである。選挙には教師は参加しないため必然的にAかBタイプの人間が当選し、Cタイプの人間は当選しない。彼女はどう見てもCタイプだ。


 演説は終わった。もちろん普通に考えれば神山は落選だ。だがカナメはもう感づいていた。落選することを分かっている人間があんな強い口調で演説をするわけがない。そしてきっと神山みなみは副生徒会長になるのだ、と。

初作品です。1週間〜2週間程度ずつ連載をしていこうかと考えております。ご意見・ご感想お待ちしております。

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