百目猫拳と猫泳拳!! 2!!!
「ふっふっふ…拙僧の事をお忘れですかな?」
テクサルカナはそう言うと、バンの周りに倒れていた戦闘猫に合図を送り下がらせる。
「テクサルカナ?しかし先ほどの攻撃は…」
「なあに、奥の手を隠すのは拳士として当然の事、バンよ以前に貴殿に預けたのは物見の力のみ。百目猫拳真の力は見せておらんよ…はあっ」
掛け声とともに、テクサルカナはその見えない両目を見開き、俺に向かって突っ込んでくる。
危うく衝突を避けて、上空に飛び上がった俺が奴のアーマーを剥いで無力化しようとしたところ、空中でまたしても謎の衝撃を受け、俺は葦原に再度墜落した。
「クソっ一体どうなってるんだ?!」
俺の疑問に答えるかのようにテクサルカナは薄く笑うと、そのアーマーに付いた目玉模様は青色に輝いた。
「ご存じのとおり拙僧の百目アーマーは360度すべてを見通す物見の力……エスマイルの跳猫拳で太陽に隠れようとも、拙僧にその位置はすべて筒抜けよ…」
奴の言うとおり、テクサルカナの百目アーマーはどんなところに居る猫であっても100メートル以内であれば瞬く間に見つかってしまう。しかし、奴が俺を見つけた所で奴の攻撃はそのジャガーの体から繰り出す体術でしかないはず…上空の俺を打ち落とすことなどできるはずもない……
「喰らえ跳猫拳!!」
迷った末、俺は再度エスマイルの力を借りることにした。
上空高く跳ね上がり、いつもよりさらに高く高度を取る。ここまで高ければ、奴の攻撃の謎が解けるはずだ!しかし、眼下に佇むテクサルカナはその場から動こうとせず、何かを構える様子もない…いったいどうやって攻撃を…
ズバンッ!!
そうして上空からテクサルカナを観察していた俺はいきなり臀部を何かに貫かれた。
「うわぁぁ!」
上空から錐もみ状態で葦原に墜落する俺。とっさに態勢を整えて着地したものの、ケツからはタラリと血が流れ出す。
「バンよ…さあ拙僧の前に倒れ伏すがよい…」
テクサルカナは俺の墜落に合わせて、こちらに突っ込んできており、その距離はもう1Mほどにまで迫っていた。
慌てて距離を取り、逃げようとするが、避けきれず、跳ね飛ばされる。
「秘密が…奴の秘密が分かれば…」
そう言いながら立ち上がる俺は下半身にふと違和感を感じた…、俺の臀部が水浸しなのである。
「これは…まさか!」
思い立った俺は再び跳猫拳で空高く舞い上がる。
そうして上空に滞空すると今度はテクサルカナとは逆の池の中に目を光らせていると…
水面がきらりと光り、黒い影が見えたかと思うと、こちらに向け、細い水の流れが銃弾のように飛んできた!!!
「敵は二匹居た!!」
水の銃弾を躱し、池に向け飛び込む!
そこには果たして、6将軍の一人、スナドリ猫のカルティーニが俺を水色のアーマーと共に待ち構えていた!
「気づいたわね!小床木バン!!前回は陸上の戦いだったが、今回は水中!お前の獅子山拳を破って、猫泳拳の名前を世に知らしめるまたとない好機!大人しくあたしの猫泳拳の踏み台となりなさい!!」
「猫も杓子も獅子山拳の名声に惹かれやがって!獅子山拳だけが優れた憲法ではないんだぞカルティーニ!!!」
とはいえ、水中ではエスマイルの跳猫拳は不利なので、解除してイエネコの姿に戻る。
「姿が見つかったとは言っても、猫泳拳は奇襲の技ではない…その恐ろしさを味わうがいい!」
カルティーニは俺のそばまで泳いでくると、泳ぐかのように方向転換し、俺の繰り出したラッシュをひらりと水中でかわす。なんだ?この動き…まるで水かきでも持っているようだ!!
「クソっ…息継ぎをせねば」
息切れして慌てて水面に向かうが、途中でこちらに向かってきたカルティーニの攻撃を弾くために足止めされ、さらに纏わりつかれ、なかなか水面に出れない…
「バン!あたしの潜水記録は5分!それに比べて一般のイエネコはどの程度潜っていられるのかしらね!!」
「しまった!見つけた所で池に飛び込むのではなかった!!」
今更ながらに俺の考えなしの行動を悔やむが、今更後の祭りだ。
カルティーニを引きはがそうとする俺の打撃は水の抵抗と奴のアーマーで無力化されているし、マリーヌに助けを求めようにもいきなり水に飛び込んだショックでマリーヌは不貞腐れてしまっている!!
本来であれば、隠れているカルティーニをそのままにしておいて、俺の位置を奴に教えていたテクサルカナのみを相手取ればよかったのだ!それを敵の策略を見抜いたと思い込んだ俺がその興奮で我を忘れて、敵のテリトリーに飛び込むなど…明らかな失策!明らかな軽卒!!
俺は…ここで死ぬのか…
呼吸ができなく、口からガボガボと空気を漏らしながらバンの意識は薄れていく…
『バンよ!お前!ここで死ぬつもりではあるまいな!!』
―誰だ?―
『水中で奴のアーマーを砕くことが出来ぬと言うなら、その力、わが牙豹拳が貸してやろう!!』
その声と共に、俺の体は灰色の光に包まれ、マリーヌが弾んだ声でナレーションする。
―ネオフェリス・チェンジ!mode…ネブローサ!!!―
そして光が引くと、俺はサーベルタイガーのような牙と魚燐甲を持った、雲模様の斑点を持つのネコ科に変身していた。
「うわっ眩しい!!」
変身の光で俺を手放してしまったカルティーニから離れ、水面に顔を出した俺は呼吸を整える。そしてそのまま岸に向かって泳ぐが、再びカルティーニに脚を掴まり、水中に引きずりこまれた。
「変身したところで逃がさないわよ!小床木バン!!」
「逃げようとしたわけじゃないさ…逃げ回るお前を捕まえるのが面倒で、わざと逃げるふりをしたのだ!!」
そう叫ぶと、俺は巨大な雲豹の牙を足を掴んでいるカルティーニの水色のアーマーに突き立て、奴の体に食い込ませる。そしてそのまま首を振りぬき、奴を跳ね飛ばしたところ、カルティーニはそのまま水中から飛び出して、葦原に着陸した。
ザバンッ
奴を追い、水中から葦原に降り立つ俺。カルティーニは再び水中に逃げようと、負傷した体を立ち上がらせる。奴を逃がしてなるものか!俺はトゥルシギリの姿を解くと、イエネコの姿に戻り、奴に向かって最強の必殺技を放った。
「シューティング・カトゥース!!」
流星の如く突っ込む俺の右前足にトゥルシギリの大牙が、俺の両後ろ足には加速する為かエスマイルのカギ爪が重なる。
そして俺の右前足はカルティーニのアーマーを引き裂き、奴の心臓に深く突き刺さったのだ!
「うわぁぁぁ!!」
吹き飛び、その場に崩れ落ちるカルティーニを見て、俺はやりすぎた事に気が付いた。本来奴のアーマーを無力化してその場に倒れさせようとしただけなのに、まさか威力が強すぎて致命傷を与えてしまうとは…ムカージーの時はエスマイルのアーマーが砕けてしまっていたのでシューティング・カトゥースの威力が弱まっていたことを忘れていたのだ…
「すまない!これは俺の不徳のなすところだ!!」
「何を言っているの…小床木バン…」
「カルティーニ?」
「あたしはメス拳士…今まで戦ったどんなオスでもあたしと戦う時は常に本気を出そうとしなかった…私が勝てば『メスだから油断した』だの負ければ『所詮メスだ』などと…言われる日々だった…」
「カルティーニ…」
「けれどバン!あなたは違う!!あたしを拳士と認めて全力で戦い、拳士として死なせてくれた!!」
「すまない…カルティーニ…俺は前回お前と戦った時、その平凡な能力にお前をメスだと侮っていたのは事実…今回、猫泳拳の真髄を見てしまった俺は、その強さに全力を出さざるを得なかった…カルティーニ…お前は他の6将に劣らぬ能力を持っていたぞ!」
「ありがとう…小床木バン…」
息を引き取ったカルティーニの魂が優しい水色の光と共に俺に宿る。
そして、その魂は敵に惑わされて何時も不安定だった俺の心と寄り添うように重なり合って、俺を支える屋台骨となった。
「そう言えば…テクサルカナは逃げたのか?」
周りを見渡すが、百目のアーマーを持つ盲目のジャガーの姿は辺りにはない。
俺は死んだカルティーニの体を葦原から連れ出し、地面に埋めてやると、そのままツインテールの館に帰ることにした。
――――――――
その頃、葦原の一角ではしなやかな最速のネコ科が倒れ伏した盲目のジャガーから魂を吸い取っている所だった。
「このムカージーの迷彩、ホントに役にたつわねえ、あの百目アーマーでも見抜けないんだもの」
テレーズは自身の姿を光学迷彩で出し入れしながら楽しそうにほほ笑む。
「これで6将はあたしだけ…ブラックタイガー様のご寵愛はあたしだけの物よ!」
叫ぶテレーズ。
3将の力をもったテレーズにバンは敵うのであろうか…
次回!3将魔猫に友が泣く!! 乞うご期待!!!




