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とめろ!牙豹拳!!

 エスマイルを倒した俺は、傷だらけでフラフラと歩いている所を再び白髪ツインテールに見つかり、館に連れ戻された。


 そして傷を癒すこと2日。

 ほぼ完治した俺は、空いていた窓から外に飛び出すと、再び黒虎一味を成敗すべく、町を歩き回っていた。



 俺は大通りを避け、今日は、城壁をぐるりと回る事にした。

 なぜなら、3日前にエスマイルと大立ち回りしたせいで、何人かの人間に俺の姿を見られてしまった可能性があるためだ。


 そんな俺が城壁の下を歩いていると、少年が可愛らしいヒヨコを抱きかかえて、ゲージに入れている姿が見えてきた。


 少年の手を抜けて走り回るひよこ。


 「こら、逃げ回るなよ」


 怒る様にヒヨコを捕まえてはゲージに入れている少年。


 どうやら、ここの御宅は養鶏を行っているらしい。

 少年の仕事は、鶏になる前のヒヨコの面倒を見る事なのだろう。


 そう思いながら、ほのぼのとした目で少年を見ていると、

 少年は俺がヒヨコを狙っているとでも思ったのか、『しっしっ』っと腕を振るそぶりをして、俺を追い払おうとした。


 すまん、申し訳ない

 そう思い、その場を後にする俺。


 少年は俺が去って行くのを確認すると、すべてのヒヨコをゲージにいれ、家の中へと入っていく。しかし、俺を追い払う際に目を離したせいか、一匹だけ物陰に隠れたヒヨコがゲージの外に取り残されており、少年の仕事はいまだ未終了と言ったところか。

 まあ、ゲージを家中に仕舞う時や、エサやりの時に気付くのだろう。


 頑張れ、少年。

 社会に負けるなよ!


 心の中でエールを送り、クールに去ろうとした俺の横をぶわっと一陣の風が過ぎて行った。


 あれは…

 と思ったのもつかの間、風は物陰に隠れるようにしていたヒヨコの元へたどり着く。

 哀れな黄色い毛むくじゃらは『ぴぎっ』という声を上げて、その命を終えた。


 あっという間の間に行われた虐殺に驚く俺の目には、ヒヨコを口に咥え、その斑点だらけのしなやかな体をこちらに見せつける優美な雌の姿。


 「ずいぶんとしょぼ暮れているわね」

 「君は…テレーズ!!」


 その姿に懐かしさにも似た思いを抱き、怒るのも忘れる俺。


 テレーズはそんな俺を一瞥すると、ヒヨコを口に咥えたまま、踵を返して去って行こうとした。


 「待て、テレーズ!」


 最速のネコ科に追いすがる俺。

 テレーズは俺をチラと振り返ると

 「いいのかしら…後ろの子たち…どうやら猫の手も借りたい事態のようよ」


 と呟くと、一陣の風のように姿を消す。


 あわてて後ろを見ると、雲状の斑点におおわれた大きなネコ科に率いられた戦闘猫が大挙してヒヨコの檻に押し寄せていた。


 「野郎ども!やるぜ!!」

 叫びながら首を一閃させる先頭のネコ科。

 振られた牙は、一撃で檻を切り裂き、崩れた場所からは慌てたヒヨコが逃げ出し始める。

 それを逃がすまいとそれぞれが思い思いに捕まえて袋に入れていく戦闘猫達。


 おのれ…未だ生まれて間もなく、自衛の手段もない人の家畜に手を出すとは許せん!!!



 「変身ッ!獅子拳ジャー!!!」


 ―フェリス・チェンジ!mode…カトゥース!!!―


 俺の叫びと共に、辺りに緑色の光が満ちる。

 そして光が引いた後、路上には全身を白い洗練されたアメショ模様の衝撃アーマーに包まれた覆面ヒーロー猫が立っていた。



  ♪♪♪♪♪♪

  説明しよう!

  『小床木バン』は正義の変身ネコヒーロー!

  猫野目博士の開発した戦闘AI『マリーヌ』と共に

  人に仇なすブラックタイガーを倒すべく現れた正義の戦士!

  バンの正義の怒りが頂点に達した時!

  マリーヌはその怒りエネルギーを衝撃アーマーに変えて

  バンを覆面ヒーローにするとこができるのだ!!!

  ♪♪♪♪♪



 突如として現れた光に立ちすくむ戦闘猫達。

 その隙に俺は捕えられていたヒヨコたちの袋を爪で切り裂くと、ヒヨコたちは雲の子を散らすようにその場から逃げて行った。


 「貴様…『小床木バン』!!!」


 「そう言うお前は『剣王将軍トゥルシギリ』!!!」


 俺の姿を見つけ、憎しみのこもった目で俺を見つめるトゥルシギリ。

 「今日は何と言う良い日だ…あのにっくき獅子山拳の継承者である貴様を抹殺できる日が来ようとはな!!」


 トゥルシギリは叫ぶと共に、部下である戦闘猫を一斉に俺に飛び掛からせる。


 「ふん、道場破りに着た挙句、先生に敗れて師を失った逆恨みとは、底が知れるぞトゥルシギリ!!」

 飛び掛かってきた黒服戦闘猫を冷静にさばきながら回転するように自爆させ続ける俺。

 戦闘猫どもはニャーニャー叫びながらその数を1匹また1匹と減らしていき、ついにはトゥルシギリとあと3匹を残すだけとなった。


 「やはり、タダの戦闘猫など相手にならぬか…チェンジ!N.ネブローサ!!!」


 声と共にトゥルシギリを灰色の光が包み、現れたのは魚燐甲に身を包み、口からサーベルタイガーのような牙を生やした姿だった。


 「わが牙豹拳で貴様を猫に逢うた鼠のように怯えさせてくれるわ!!!」

 「なにを!ネコが茶を吹く事を言いおって!!」


 交差する俺とトゥルシギリ。

 俺の打撃は奴に当たったものの、その堅い魚燐甲に阻まれてダメージを与えられなかった。


 「そんなものか?ではこちらから行くぞ!!喰らえ、雲豹流二太刀の剣!」


 トゥルシギリはその首を横に傾け、顎を好きだすようにして、俺に切り付けてくる。その斬撃を躱し、奴の脇腹に『獅子山拳流レオ・パンチ』を放ったが奴の魚燐甲にまたしても防がれる。


 ―バン、危険です離れてください!―

 頭の中で、マリーヌの警告が鳴り響く。


 「甘いわ!」

 突き出した顎を引き、二本のとがった牙を俺に突き立てるトゥルシギリ。俺は危うく避けたものの、奴の牙でかなりアーマーを損傷してしまった。


 奴の攻撃力の凄まじさに、慌てて距離を取ろうとする俺。

 しかし、トゥルシギリは俺を逃がすまいと首をぶんぶんと振り回し、逃げる俺のアーマーを着実に削っていく。


 ―バン、一度逃げましょう!!―


 マリーヌの叫びが聞こえるが、奴の剣陣は広く、逃げ切る事は出来そうもない。


 「ふはははは!最強の牙に耐打撃最強の鎧!イエネコ程度の攻撃など通じんよ!!」


 奴の言うとおり、俺の攻撃は一切奴に通じていない。

 このままでは…死ぬ!!


 『ふむ…バンよ、ではわが跳猫拳を使わせてやろう』


 辺りに響き渡る凛とした声。


 その声と共に、俺の体は茶色の光に包まれ、マリーヌが弾んだ声でナレーションする。


 ―カラカル・チェンジ!mode…カラカル!!!―


 そして光が引くと、俺はカギ爪とマントを持ったエスマイルのアーマーを装備した、美しい茶色のネコ科に変身していた。


 「その姿はエスマイル!そうか、貴様がエスマイルを倒し、その力を奪ったのだな!」


 「違う!エスマイルは俺を武人と認め、その力を俺に託したのだ!」


 叫ぶと共に、空高く飛び上がる俺。

 そして空中で態勢を立て直し、マントを使って勢いよく地面に降り立つ際に、奴の魚燐甲をカギ爪で切り裂く。


 「おのれ!」

 振り回す大牙が俺のマントをかすめて生地が少し散ったが、気にすることなく再び空に舞い上がる。


 そして再び『反転したT字状』に交差する俺とトゥルシギリ。

 何度もその激突を繰り返すうちに、奴の魚燐甲はすっかり剥げ、俺のマントもズタズタに切り裂かれた。


 「…お互い次の一撃で決まるな…」


 牙以外のアーマーを解除し、トゥルシギリは居合抜きのように顎を引いて牙を構える。


 俺も、ぼろぼろになったエスマイルの姿を解き、再びイエネコの姿に戻った。


 両者の間に緊張が走る。


 そして、奴に向かって駆けだす俺。

 飛び込んでくる俺に居合抜きを合わせるべく、首を振るトゥルシギリ。


 しかし、奴がとらえたはずの俺は、直前で地面にへばりつくように停止しており、奴の巨大な牙の居合切りは空を切った。


 「【獅子山拳流・牡丹雪の構え】…そしてこれが俺を鼠とのたまった貴様へのはなむけだ!」


 そして俺は首を振ったことでがら空きになったトゥルシギリの首筋に突っ込むと、その喉笛をイエネコの牙で噛み切った。


 「窮鼠猫噛むとはこの事だな!!」

 「ぐふっ」


 喉を抑えて倒れるトゥルシギリ。


 

 「命までは取らん。貴様がブラックタイガーのアジトを教えるならな…」


 負け猫に情けを掛ける俺。


 「見事なり…小床木バン…2代に渡って牙豹拳が破れようとはな…」


 「牙豹拳は強かったぞ、トゥルシギリ。しかしそれはあくまでも自分を守り、他人を傷つけるだけの強さだった…」


 俺の言葉に目を見開くトゥルシギリ。


 「獅子山拳の極意…それは他者を慈しみ、弱者を守る心の強さだ!」


 そう、それはエスマイルと俺に共通する、弱者を守るという心に通じる事であり、エスマイルが俺に力を貸す理由ともなった強さである。


 「そうか…わが師も我も体ばかり鍛え、心を鍛えてはいなかったのだな」


 そう言って、喉を抑えたまま立ち上がり、俺の目を見て何かを決心した。


 「敗者は勝者に従うもの…我はこれより獅子山拳伝承者である貴様に従おう!」


 トゥルシギリがそう言った瞬間、奴の腹には大穴があいた。


 そしてその傷を呆然と見ると、奴はフラフラとたたらを踏み、その場に崩れ落ちるように倒れ込んだのだ。



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