これがプロローグだァ!!!
「あっルネ、猫が目を覚ましたわ。」
俺が長い眠りから気が付いた時、目の前にいた小柄な白髪のツインテールをした女は、そういいながら俺の前から離れていった。
「ここは一体…」
そう呟きながら起き上がる俺。痛みに顔を顰めて自分の体を見渡すと、自慢の白地を基調としたアメショ特有の艶やかな毛皮は包帯で包まれており、至る所に赤い血が滲んでいた。
「そうか…俺は負けたのか…」
思い出すのは、石で囲まれた部屋で対峙した、兄弟子である黒い虎毛。
奴は俺が繰り出した獅子山拳とまったく同じ技を虎の姿で使い、俺を打ちのめしたのだ。
おそらく、あの後瀕死になった俺を放置し、猫野目博士を連れて、黒虎は去ったのだろう。
そう思うと力が抜け、その場に倒れ込む様に横になる俺。
しばらくすると、白髪ツインテールと入れ替わる様に腰までうねる黒髪の大女がやってきて、俺の体を触ったり、あごの下に手をやったりなどして、怪我の調子を見はじめた。
とりあえず、タダの一般猫だと思わせるため、弱弱しく『にゃぁん』とだけ一声鳴いておく。
黒髪の大女はそんな俺の様子を見て、
「転送システムはまだ起動してなかったって言うのに、アンタたちはどうやってやって来たんだろうねェ」
と呟いていた。
転送システム?
どういうことだと訝しがっていると、俺の首輪に内蔵されている人工AIが神経組織を通じて俺の脳の電気パルスを活性化させ、通信を開始し始めた。
―おはようございます、マスター―
―おはよう、マリーヌ―
声に出さず、思念で返事をする俺。
―さっきはなんで変身させてくれなかったんだよ―
もう少しで、黒虎を倒すことができたのに…と不満をあらわにすると、マリーヌは興奮した様子で返事を畳みかけてきた。
―そんな事よりもですね!すごいんですよマスター!一昨日の…ってマスターが寝てたから一昨日なんですけども。あの部屋中のディスプレイから光を浴びた瞬間にですね!次元の違う位置から干渉を受けて、私達の魂が転送させられたんです!実際にマスターの体も再構築されたものですし!私だって随分と機能が弄られて再構築されて!―
―ちょっと、まってくれ。落ち着いてくれ。よくわからないよ―
AIの癖に興奮するマリーヌを宥める俺。
そもそもマリーヌはこれほど感情表現ができるはずはなかったのだが、なぜか今までにないほど表現豊かで、頭が痛くなってくる。
―もう!とにかくこれを見てください!―
マリーヌがそう言った瞬間、俺の見ている光景の手前に緑色の情報ボードが映り、様々な情報を羅列した。
名前 小床木バン(おとこぎばん)
【基本職】F.CATUS【サブ職業】変身ヒーロー
腕力 イエネコ
体力 イエネコ
器用さ イエネコ
敏捷 イエネコ
知力 人並み
精神 師範代
愛情 ネコ程度
魅力 薄めの虎柄・白アメショ
生命 馬ぐらい
運 ヒーロー
スキル
【獅子山拳・師範】Lv.17
【魂の伝承者】Lv.1
【正義の心】 Lv.10
【人語】Lv.11
―…これがどうしたんだ?―
―すごいでしょう?私、こんな状態まで表示できる機能が付いたんですよ!―
―そうか…すごいな。―
何がすごいのかよくわからないが、とりあえずマリーヌを褒めておく。
そのまま興奮してしゃべり続けるマリーヌの機嫌を取りつつ、わかったことは。
俺とブラックタイガー一味はあの閃光で異世界に来たらしい。
そして俺が変身できなかったのは、異世界に来た時に6将軍と親友・師匠の魂が弾き飛ばされてバラバラになったから。
彼らを再び、見つけ出せば何とかなるんじゃないですか。
それよりも、猫野目博士に私を見てもらいたいから、とっととブラックタイガーたちを倒しちゃいましょう。
マリーヌの言った事を要約すると以上である。
俺もブラックタイガーを倒すことに関しては、異論がない。
しかし、俺の力である変身能力が失われた状態では勝てないだろう。
しかし、いつか滅ぼしてやるぞ、ブラックタイガー。
俺は傷だらけの体を柔らかいクッションに沈めると、英気を養うべく、段ボールの中で静かな眠りについた。
多分、引き伸ばしても全10話ぐらいで終わると思う