普通戦隊 イッパンジャー イエロー編
この作品は、以前投稿した「普通戦隊イッパンジャー グリーン編」の続きです。
けたたましい警告音が、部屋に響き渡る。それから、無機質なアナウンスが流れた。
『爆発まで、残り5分』
早急にここから脱出しなくてはならない。そんな俺に襲いかかる、バカでかい化け物。
治療薬は持ってる。弾薬も。…あとは、俺の腕にかかってる。
「よし来い!!化け物!!!」
ピンポーン
…俺の気合が吹き飛ぶ、間抜けな呼び出し音。その音で俺は一気に現実へと戻される。いや、戻されない。ここはスルーする。今大切なのは、5分以内にこの化け物を倒すことだ。俺はコントローラーを握りしめ、目の前のテレビ画面を睨みつけた。
ピンポーン
出たくない。出てはいけない。
ピンポーン
ピンポーン
ピピピピピピピピピピピンポーンピンポーン
…しつこい。
俺はポーズボタンを押すと、玄関へと向かった。嫌な予感がする。こういうタイミングでやってくるのは大抵、関西弁の猫だったり、関西弁の猫だったり、関西弁の猫だったりするからだ。
俺は足元を睨みつけながらドアを開いた。ところが俺の予感は外れ、
「ハロー!!」
金髪長身の女性が立っていて、俺は目を見開いたまま硬直した。そんな俺の足元から、
「イッパンジャーのイエロー、連れてきたでレッド!!」
はりきった虎猫の声が聞こえてきた。
「え、あ…」
戸惑う俺の目の前に、笑顔を振りまく金髪女性。背が高くてスタイルが良くて、目は青くて…。俺は周りを見渡す。今日は、ブルーもグリーンも来ていないらしい。
まさかイッパンジャーのメンバーに、外人さんが加わるとは思ってなかった。そして困った。俺、英語できないのに。
とりあえず、中学校の時に習った一番簡単な挨拶を声に出してみた。
「な…ナイスチューミーチュー!!」
それを聞いて、イエローはにぱっと笑った。
「こんにちワ、レッド!!ワタシはイエロー!!今年でハタチね!!」
…日本語ができるなら、初めからそう言っておいてほしかった。
イエローと虎猫を家に上げると、彼女は興奮した様子で叫んだ。
「これ、ユーメイなチャブダイ!!ひっくりかえすテーブルですネ!?」
どこの野球漫画だ。しかし彼女のおしゃべりは止まらない。
「さすがデス!!さすがはニンジャのヤシキ!!あの、マドに貼ってあるペーパーは、アンゴウですか?いいえ、カクシトビラ!?」
そこは、虎猫が割った窓に段ボールを貼ってあるだけです。ていうか
「なんで忍者!?」
「ワタシ、イッパンジャーはニンジャって聞いたんダッテバヨ!!!」
…色んな漫画を読んでらっしゃるようだ。しかし
「誰がそんなこと言ったんですか!?」
「しましまとらのネコちゃん」
名前を呼ばれた虎猫は、背中の毛を逆立てた。それから慌てるように、
「ちゃうねん!ちゃうねんて!」
こちらに向かって走ってくる。…って、
「おま、ちょ、あぶなっ」
「フギャ!!」
珍しく、虎猫が転んだ。転んだ理由は、俺がポーズ状態でほったらかしていたゲームのコンセントに引っかかったからだ。虎猫がつまずいた拍子に、コンセントが抜ける。ブツン、と虚しい音を立てて、テレビ画面は真っ暗になった。
「ああああああ!!!!」
俺は虎猫を無視して、ゲームのもとへ向かう。
「お前!!これ、やっとたどり着いたボス戦だったんだぞ!?くそ、最後にどこでセーブしたっけ…」
「…レッド、わいの心配はせえへんのか。あんだけ派手に転んだんやぞ」
「大丈夫かい虎猫くん?」
「いまさら遅いわ阿呆」
それを見ていたイエローが、拍手しながら叫んだ。
「すばらしいハンザイ!!」
…それが「素晴らしい漫才」の言い間違いであることに気付くのには、少し時間がかかった。
「つまりこのバカ猫が、忍者になれるとか何とか言って、あなたをイッパンジャーに誘ったんですね?」
「レッドに馬鹿とか言われたないわ、この阿呆」
「うるせえ。口にガムテープ貼り付けるぞ」
「虐待や!!お姉さん、助けてえなあ~。あのお兄ちゃんが怖いこと言う~」
虎猫は正座しているイエローのもとに歩み寄ると、太ももに頭をこすりつけた。
「カワイソウね。ヨシヨシ」
イエローはそんな虎猫の頭を撫でて、自分の膝の上に虎猫をのせた。な、なんてうらやましいポジション…!!
「なんや、レッド。文句あるんかい?」
ニタニタしたいやらしい笑顔で、虎猫がこちらを見てくる。くそ、くそ。なんて卑怯な…!!
「だけどワタシ、フシギはっけんに思ってたことがアルんですよ」
なんかの番組名が混ざっているが、ここはスルーする。
「なんでしょう?」
これでもしも、『イッパンジャーは忍者なのか』という質問だったら、はっきりと否定しよう。じゃなきゃ、この人がかわいそうだ。
彼女は虎猫の頭を撫でながら、首をかしげた。
「この猫ちゃん、なんで話せるんですか?マジョのところの黒ネコちゃんですか?」
残念ながらその虎猫は、某映画の黒猫とは似ても似つかない邪悪な顔である。それにこの猫がどうして話せるのかは、俺だって知りたい。
「それに…この子はオーサカの子ですか?モウカリマッカのことばをしゃべってマス」
…つまり、虎猫の関西弁が不思議だと。それも、俺だって知りたい。
「どうなんだ、虎猫」
俺が訊くと、イエローの膝の上でゴロゴロ言ってた虎猫は、ふふんと笑った。
「わいが話せるようになったのは、努力のたまものや。それから、猫は普通、ニャーニャー言ってるやろ」
「ああ」
「あれは猫語やねんけどな。あの猫語、人間の言葉に訳すと全部関西弁やねん」
「は!?」
つまりやな、と言ってから虎猫はにやりと笑った。
「北海道でニャーニャー言ってる猫も、東京でニャーニャー言ってる猫も、沖縄でニャーニャー言ってる猫も、人間の言葉に訳すと関西弁で喋ってるんや。猫のわいらには、関西弁が標準語やねん」
な、なんということだ…。つまり
「あの高級な感じのするシャムとか、かっこいいアメリカンショートヘアとか、かわいらしいマンチカンとかも、全員関西弁だと?」
「そうや」
…この、やるせない気持ちはなんだ。別に関西弁が嫌いなわけではないが、なんでこんなに物悲しいのだ。
「オオ!!ニッポンの猫ちゃん、みんなモウカリマッカ!?」
「そやそや、もうかりまっかー」
「ボチボチデンナー」
「うまいうまい」
「…その儲かりまっかって、関西でもそんなに使われてないって聞いたぞ」
俺が突っ込むと、
「猫の世界では使うんや!!お前、イエローの夢を壊すんやない!!」
恐ろしい形相で怒られた。
虎猫が新メンバーを連れてくると、なんでか怪獣が出現する。今回もそうだ。そして今回の怪獣は、ゴリラとクジラを足したような名前の怪獣にそっくりだった。ただし、身長は2mくらいしかないけど。
「そこまでだ、メンストゥアー!!!」
いつも通りのブルーのセリフ。それを聞いたイエローの反応は、
「オオ!あのMonsterはメンストゥアーって名前デスか!!」
…違うんだ、イエロー。ブルーはあれで、モンスターと発音しているつもりなんだ…。
「そうだ。あの怪獣はメンストゥアーだ。メンストゥアーという名の、怪獣だ」
さらっと命名してんじゃねえよブルー。
俺、ブルー、グリーン、そしてイエロー。全員で「変身するので10秒待ってください」と宣言し、4人横並びで変身。もちろん変身ポーズは、バンザイしながら左足をあげる、某お菓子のパッケージポーズだ。泣きたい。毎回のことだけど、このシーンが一番泣きたい。
変身後。武器、と聞いた時のイエローの反応はすごかった。
「シュリケン!?マキビシ!?カタナ!?」
…もちろんイエローの武器も、金属バットである。
「あとからカタナになるんデスか!?それともナギナタ!?」
申し訳ないが、金属バットは金属バットのままである。
「そういえば、イエローのバットのエフェクトは何なんだ?」
俺が虎猫に聞くと、虎猫はふふんと笑った。
「フラッシュや。眼潰し。ただしイエローのエフェクトは、持続せえへん。発動時間はほんの一瞬や。せやけど結構、強力やで」
「へえ」
「どうやるんデスか!?」
イエローはやる気満々だ。…エフェクトを使っても、金属バットは金属バットのままなんだが。
「フラッシュって叫べばいいんやで~」
…猫なで声で猫が喋った。この野郎、イエローの前では可愛い子ぶるつもりか。
虎猫のアドバイスを聞いたイエローは、バットを天に向かって振りかざすと
「フラッシュ!!」
何のためらいもなく、叫んだ。
イエローが叫んだ瞬間、バットが光った。光ったなんて可愛いもんではなく、目も開けていられないほどの閃光。
イエローの隣に立っていた俺は、その光をモロに食らった。
「ぐあ!!め、目が!!」
俺は目を押さえて、そのまま倒れこんだ。
「ちょっ、レッドさん!?目を閉じてなかったんですか!?」
驚くようなグリーンの声と
「馬鹿だからな」
呆れたようなブルーの声。この2人は、ちゃんと目をつぶっていたらしい。そ、そうか。目をつぶっておけばよかったのか…。
「ま、次からはちゃんと目をつぶるんやな。…レッドってば、はっずかしー」
「しましまとらの猫ちゃん、泣いてるの?ダイジョウブ?」
「大丈夫や。ちょっと眩しかっただけやねん…」
お前もモロに食らってるじゃねえか。
この後なにが起こっていたのか、俺にはよく分からない。というのも、しばらくの間まともに目を開けていられなかったからだ。
「リア充爆発しろおおお!!」という声が聞こえたので、ブルーがとどめを刺したらしい。その言葉を聞いたイエローが、「ワンダフルなワザですネ!!」と拍手していたが、どこら辺がワンダフルなのかを後で詳しく教えていただきたい。
「いやはや、見事な戦いっぷりやったで!!わい、感動しすぎて泣いてしもた!」
虎猫が赤く充血した目で笑った。お前も次からはちゃんと目を閉じておけよ、と内心で突っ込む俺の目も真っ赤である。
「残るはピンクやな。ま、そのうち連れてくるから気長に待っといてなー」
いやもう解散しようよ。俺の心からの言葉は届かず、虎猫はどこかへ行ってしまった。
「レッド。…君は今日、なにをしに来たんだ?」
そんなの俺だって聞きたいぜ、ブルー。
「早くリーダーっぽく活躍できるといいですね、レッドさん!!」
グリーン。君はいい子だが残酷だ。
「ワタシ、感動しました!!イッパンジャー、スバラシイ!!ニンジャの進化ヴァージョンね!!ワタシ、イッパンジャーになれてよかったデス!!」
それはよかったな、イエロー。次回からはフラッシュを使う前に一言くださいお願いします。
子供たちのあこがれ、イッパンジャー。その活躍は、…誰も知らない。