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菓子

祀煙がキミコに花や菓子を持っていくようになったあたりの話。

 昼下がり。

 屋敷の中は、いつもと同じ静けさに包まれていた。

 鬼たちはそれぞれ好きな場所で過ごしている。

 そんな中、祀煙(しえん)がふと顔を上げた。

「……菓子がない」

 近くにいた鬼が顔を上げる。

「菓子?」

「そうだ」

「なくなったのか?」

「ない」

 鬼は祀煙を見つめた。

 それから、わざとらしく息を吐く。

「おい。祀煙サマが菓子をお探しだ」

「……は?」

 別の鬼が振り返る。

「菓子?」

「ないらしい」

「昨日、人間が持ってきていただろう」

「だから探せ」

「何で俺たちが?」

「祀煙サマがお探しなんだぞ」

「その言い方やめろ」

 祀煙が突っ込む。別の鬼が吹き出した。

「まあ、いいじゃないか。探してやろう」

 祀煙は何も言わず、座敷へ移った。上座に座り、鬼たちが屋敷中を探し回るのを待っている。

「台所にはない!」

「納戸にもない!」

「客間にもないぞ!」

 あちらこちらから声が聞こえてくる。

 祀煙は座ったまま、庭を眺めていた。

 しばらくして、ひとりの鬼が言った。

「……祀煙の部屋は?」

「探してないな」

「まさか、そこじゃないだろうな」

「行ってみるか」

 鬼たちが祀煙の部屋へ向かう。

 戸を開ける。

 机の上。 

 棚。

 文箱。

 部屋の隅。

 手分けして探していく。

「ないぞ」

「こっちにもない」

「本当にないな」

 そのとき、ひとりの鬼が棚の奥へ手を伸ばした。

「あ」

「何だ?」

「……あった」

 鬼が取り出したのは、菓子の入った箱だった。

「これだ」

「…………」

 鬼たちは顔を見合わせた。

 それから、箱を持って座敷に戻った。

「祀煙」

「何だ」

「これ」

 箱を差し出す。

 祀煙は箱を見る。

「……そうか」

「そうかじゃないだろ」

「何がだ」

「お前の部屋にあったぞ」

「そうか」

「自分で探せよ」

「忘れていた」

「忘れてたのかよ」

 鬼たちは呆れたように祀煙を見る。

 祀煙は気にする様子もなく、箱を受け取った。

「ご苦労だった」

「はいはい」

 鬼たちは去っていく。

 祀煙は箱を開けた。中には、いくつかの菓子が並んでいる。

 祀煙は包みを一つ取り上げ、そのまま立ち上がった。

 向かった先は、座敷牢だった。格子の前で足を止める。

 中にはキミコがいる。いつものように、座ったまま正面を見ていた。

 祀煙は包みを開いた。中から菓子をひとつ取り出し、包み紙の上にのせる。

「こちらをどうぞ」

 キミコは菓子を見る。

 何も言わない。

「お食べになりませんか」

 返事はない。

 祀煙は少し考えた。

「……そうですか」

 祀煙は、包み紙にのせた菓子をキミコの前へ置いた。

「では、こちらに置いておきます」

 それだけ言って、祀煙は立ち去った。

 しばらくして、渡殿に戻った祀煙の前へ、乱霧(らんぎり)が現れた。

「ねえ」

「何だ」

「菓子は?」

「キミコにやった」

「……お前が食べたかったんじゃないの?」

「違う」

「じゃあ、どうして探させたの?」

「必要だったからだ」

「何に?」

「キミコに」

「…………」

 乱霧は黙った。

 しばらく祀煙の顔を見つめる。

「……そう」

 そう言った乱霧の顔には、馬鹿じゃないの、こいつとありありと書かれていた。


 その頃、座敷牢では。

 キミコの膝元に、ひとつの菓子だけが残されていた。


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