妹の場合
いつか、こんなことになる気がしていた。それが気のせいであることをずっと願っていた。
見覚えのない番号からの電話を見て、怖気が全身を走り抜けた。トラックに轢かれたらしい。病室の番号、105。開けてみると、いつも通りの、仮面のような微笑みが貼り付けてあった。
「来たんだ。」怪我人は言った。
「来なくてもよかったのに。」
「来なかったら、連絡くれてたの?」
「それもそうだ。」
気持ち悪い。昔からそうだ。自分の片割れのはずのこの女からは、得体の知れない気味悪さしか感じない。
「遠かったでしょう?」
そこにいるのに、
「早かったね。」
いるはずなのに、
「かずきくんは元気?」
「ねぇ」
掴めない。
「なんでこんなことになったの」
「事故だよ。」
「嘘」
「嘘じゃないよ。」
「じゃあ、都会の真ん中で信号無視したのも、事故?」
「事故だよ。」
嘘だ。無意識だったかもしれないけれど、こいつは、意思を持って車に轢かれに行ったはずだ。
だって、この女は
「生きてないからでしょ」
「え?」
「死んでないだけでしょ」
「…誰に言われたの?」
何を言っているんだ。やっぱり、こいつは、私のことをわかっていない。何も。
「誰にも言われてない。ただ、そう見えただけ」
「そう。やっぱり同じ人間だからかな。」
同じなものか。私は、こいつの感性も、努力も、諦めも、何も知らない。同じ人間なわけがない。きっと、分裂する時に欲しかったものを全て奪われたんだ。ただそれだけだ。
「全部頑張ったんだけどね。全部上手くやったはずだったんだけどね。」
それなのに。
「死にたいわけじゃないんだよ。生きたいわけでもないけど。」
なんでこいつは、
「ただ、もう疲れた。」
なんで私は、
「ねえ、あなたは私にならないでね、璃。」
自分を奪い合っているんだろう。
「なるわけないでしょ、美」




