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サイアク  作者: 雑魚犬屋
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5-13 自作自演

「『マガル・デザイア』の所有者です」

 そう告げたのは、貼り付けたような笑顔を見せる中年男性の記者、佐藤だった。

 彼の格好はヨレているボーダーのポロシャツにデニムのズボンであり、ただの何処にでもいる中年男性にしか見えない。

 しかし、違う。

 今、死体が幾つもあるこの状況に、佐藤が自ら足を運んだこと。死体が目の前にあるのに平然としていること。

 そして、俺の中の『レッド・デザイア』が断言している。福岡での八木と同様に、こいつは『デザイア』を所有している。俺のような適合者かは分からないが、間違いなくこいつは『デザイア』を持っている。

 前に会った時は反応が無かったのに、何故今は反応があるのだろうか。

「先程の警察の件は失礼しました。『デザイア』の実験で少し遊ばせていただきました」

 佐藤は貼り付けた笑顔のまま、まるで天気の話をするかのように言い放つ。

「……実験?」

 戒刃がそう呟くと、佐藤は意気揚々と話を始める。

「ええ。『マガル・デザイア』の実験です。『マガル・デザイア』は触れたモノを別の存在に変える事ができます。これのようにね」

 佐藤は床に落ちている4つ死体を指差す。

 その死体は元は警察官として現れ、俺が彼らを殺すと、別の人間へ戻った。

 つまり、佐藤の言っていることは筋が通っている。

「私が触れた人間は別の存在へなります。この女性も、他の人間たちも警察官ではなく、私が作り出したものです」

「おい……もう一つあるだろ」

 戒刃は苛立ちを隠すことなく口を開く。

「あの地下駐車場にいた、白い仮面を被った人達。あれも犯人はお前か?」

「あーあれですか? ええ、そうですよ」

 佐藤は悪気もなく言葉を並べる。

「あれは失敗です。お恥ずかしいながら成功率が低いのです。練習の為に警察官を4人作るだけでも、20人ぐらい無駄にしてしまいましたね」

「……あれだけの人を」

 佐藤の言葉に、シロアは小さな拳を握る。戒刃や槍華も、シロアと同じように佐藤に対して確かな怒りを覚えている。

 そして、真弓はこの目まぐるしく変わる状況により、困惑と辟易の間にいた。

「……」

 しかし、俺は四人とは全く別の違和感を抱いていた。

 こいつの、佐藤の行動はあまりにもおかしい。

 ただの間抜けか目的があるのか。どちらにせよ、聞くしかない。

「……おい、佐藤」

「ん? どうしましたか?」

「なんで話した?」

 その言葉に、佐藤は目を丸くする。

 ゲノムさんからは命術戦は情報が要になると教わった。『デザイア』同士なら尚更だろう。なぜ能力を教えた。

 自分の手札を晒す行為など、余程のマゾヒズムじゃなければやらないはずだ。

「なんだ。そんなことですか」

 しかし、佐藤は余裕のある笑みを見せて言葉を落とす。

「私は貴方達を招待したいんですよ。私の物語に」

「物語……?」

「ええ。私が()()になるためのね」

 佐藤はまるで子供が夢を語るように、純粋に言い放つ。

「……」

 しかし、俺はその発言に対して「何言ってんだこいつ……」としか思えない。シロアも戒刃も槍華も真弓も、4人とも例外なく「頭おかしいんかこいつ……」のような顔を隠していない。

 佐藤は俺たち5人の顔を一瞥した後、笑いながら話を続ける。

「順を追って説明してあげますね。まず、大阪駅に爆弾を仕掛けました」

「……はぁ!?」

 槍華の叫びが廊下中に響き渡る。

 佐藤はその反応を待っていたかのように、話すテンポが早くなる。

「爆弾と言っても、私が作った『マガル・デザイア』の爆弾です。そして、それは私の好きなタイミングでいつでもどこでも発動できます」

「仕掛けた爆弾なんて……俺達なら、サテライトならすぐに見つけ出せるぞ」

 戒刃は淡々と佐藤の余裕を切り捨てるように語る。

 しかし、佐藤は戒刃の言葉に動じる事なく笑みを浮かべていた。

「……」

 疲弊している思考が回る。

 その理由は単純だ。

 俺達の前に立つの佐藤の目には、悪意が満ちている。

 善意の行動は理解ができない時があるけれど、悪意の行動はほぼ理解できる。だって、悪意を持つ人間の行動は自身への利益でしか動かない。

 だから、予想も推測もできる。

 こいつの発言と佐藤が語っていた『マガル・デザイア』の能力が繋がる。

 『マガル・デザイア』は触れたモノを別の存在に変える事ができるらしい。

 そして、それは大阪駅にある。

 つまり、奴は爆弾を仕掛けたのではない。

 もっと単純で、もっと壮大な方法がある。

「……大阪駅自体を爆弾にしたのか」

「正解です」

 佐藤は間髪入れずに、まるでその答えを待っていたかのように言い放つ。

「私は大阪駅を爆弾に変えることに成功しました。見た目はそのままですが、その性質は爆弾そのものです。もしあの面積の爆弾が爆破すれば、どれだけの人が死にますかね?」

 佐藤は俺達を煽るように言葉を続ける。

 確かに、あれだけの大きさの建物が爆弾になり爆発したなら、あまりにも多くの人が死ぬだろう。

 しかし、だからこそ一つの疑念が生じる。

「……じゃあ今、爆破しろよ」

 もし人を殺したいだけなら、今すぐ爆破すればいいだろ。

「なぜ話した。なぜ今、爆破しない。お前の言動に一貫性がねぇんだよ!」

 衝動的に叫ぶと、佐藤は小さく笑いながら答える。

「順を追って説明するっていいましたよね? 我慢できない若者は嫌いです。単純な理由ですよ、貴方達に私の敵となっていただくためです」

「……敵?」

「ええ、私を殺せば『マガル・デザイア』は止まります。つまり、大阪駅は爆弾ではなくなり、ただの駅に元通りです。ほら、戦う理由ができましたね?」

 佐藤はまるでショーの司会のように、軽々しく言葉を踊らせる。

「私は英雄になりたい。そして、英雄に必要なのは『敵』です」

「敵……?」

「私は貴方達を敵に仕立て、貴方達を殺して、英雄になります。この世界に現れた、初めての『異常』を司る貴方達を倒した英雄として」

「……お前、もう一つ理由があるな」

 戒刃は腕を組みながら言葉を続ける。

「この世界に『命術』という概念を定着させる為だろ」

「おや、そこまで分かるとは。さすがです」

 佐藤は戒刃の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべる。

「この世界はつまらない。魔法や超能力……つまり命術がフィクションとして扱われている。本当はノンフィクションなのに」

「ふざけるな。命術が周知されたら、多くの人が犠牲になる」

「ですが命術は進化の象徴ですよ?」

「誰の教えかは知らんが、進化ってのはある程度の所で止まるべきなんだよ。進みすぎたらそのまま破滅しちまう。他の異世界で嫌というほど見た」

 その時の戒刃は珍しく、衝動的な饒舌だった。

 頬には水滴が流れており、いつもの淡々とした声色ではなく、少しだけ震えていたようにも聞こえる。

「全く、若い奴はやはりダメですなぁ。力の素晴らしさを理解できないとは」

 佐藤は両手を広げて演説をするように言葉を放つ。

「とにかく、私は初めて命術を司り、命術を使う敵を倒した英雄……つまりヒーローになって、この世界に名を残したいのです!」

 佐藤は右手を握り、天高く挙げると、そのまま力強く話を続ける。

「しかし、英雄になるには結果だけではダメなのです! それを伝える媒体が必要なのです。歴史書や叙事詩のような媒体が! なので! 私が私を報道します!」

「……自分で自分を報道?」

「ええ! 私が好きなように私を報道し、私が私自身を英雄に! ヒーローに仕立て上げるのです!!」

「自作自演だ!!」

 佐藤の言葉に、槍華が指差して叫ぶ。

「自分がヒーローになる為に、自分で戦わないといけない状況を作って報道とか! 自作自演じゃねぇか!! 最悪じゃんこいつ!」

「あ、はい。ですが、別に普通ですよ?」

 佐藤はさっきとは打って変わって、無機質に言葉を槍華にぶつける。

「私が報道してきた事件や事故には、我々が自作自演があります」

「……は?」

「事件を作る……は、たまにですが、偏向報道はよくします。ただの友人関係の二人を不倫相手としてゴシップを書いたり、ただの会話をパワハラとして晒したり……悪人として報道することなんて普通です」

 佐藤は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 それは貼り付けたような笑みではなく、心からの笑みであったのは誰の目から見ても明らかだった。

「それをあっさり皆信じるんです。民衆は馬鹿ばかりですよ。本当は誰が悪くて誰が悪くないかなんて関係ない。誰も真実なんてどうでもいい。ただ、自分が一番気持ちよくなれる結果が欲しいだけです」

「……」

 その発言に、俺は言葉が出なかった。

 誤りの報道や偏向報道に関しては、テレビやSNSでたまに見る。

 正直、俺はゴシップとかそこまで興味はないが、流れてくる情報を疑わずに受け取っていたはずだ。

 その中に真実はどれだけあったのか、俺にはわからない。

 もし目の前の佐藤のように、悪意を込めた報道があったとしても、俺には判別がつかない。

「その証拠にそこの彼女」

 俺の思考を他所に、佐藤は見下すような目で、地面に這っている真弓を指差す。

 

「彼女の母親を殺したのは私です。そして、彼女の父親を犯人に仕立てて報道したのも私です」


 佐藤の言葉に、真弓は腫れた碧い眼を大きく開く。

「………………ぇ」

 廊下に絞り出したかのような声が落ちる。

 彼女の口から零れたのは驚愕や動揺なんてものじゃない。

 自分を苦しめてきたものの正体があっさりと判明したのだ。

「なんで……なんで……」

 真弓は霧のように掠れた声で問いかける。

 すると佐藤は嫌味ったらしく、嘲笑うかのように答える。

「さっき言ったじゃないですか。自作自演の事件を起こして、それを報道する……ですよ。その方が数字が取れる」

 そのまま佐藤は真弓の目線の高さまでしゃがみ、告げる。

「そして、貴女が母親を殺したと噂を流したのも私です」

「っ……!」

 その言葉に真弓は再び眼を大きく開き、雫を浮かべる。

「それで彼女の家に落書きやゴミを捨てるんですよ? 本当は誰も殺してないのに!! 嗚呼、可哀想に!! 民衆の醜さに貴女は傷つけられたんです!」

 佐藤は真弓の頭を掴んで叫ぶように吐き捨てる。

 

「悪いのはこの世界だ!! 人間達だ!! 誰も真実なんて求めてない!! だから貴女は傷ついて、苦しめられた!! 全部、馬鹿で醜い愚民のせいなんですよ!!」


「───悪いのテメェだろうがッ!!」


 俺は叫びながら『鎧躯』で武装した右脚を佐藤の頭めがけて振り抜く。

 ───バシッ!!

「っ……!」

「おやおや……危ない危ない」

 しかし、佐藤は俺の蹴りを左手で軽々と受け止める。

 しかも、その掴む力は異常な程に強い。『デザイア』の能力の一部、膂力強化である『業雷』を使ってるとしか思えない……

「やめましょうか。ここでやるべきじゃないです」

 佐藤は俺の脚と真弓の頭から手を離して、後退りする。

「ぅ……ぁ……」

 真弓はそのまま地面へ倒れ込み、シロアが焦りながら彼女の背中を摩る。

 俺は脚を地面へ戻しながら口を開く。

「……そんな世界の英雄になりたいなんて、馬鹿みたいだけどな」

「ふふっ……それもそうですね。ですが、意外と悪くないかもしれないじゃないですか。愚民に崇められるのは」

 佐藤は俺達から目線を話す事なく、軽快に言葉を並べる。

「予告します。明日の午前8時に、()()は爆破をカメラに収めるために、大阪駅に現れます。止めにくるならその時です」

「8時……」

「止めに来れば我々と戦い、私の英雄譚の一部となれますが命はありません。止めに来なければ、多くの人が爆発で死にます。まぁどちらにせよ、私には報道するネタが出来るので勝ちなんですが」

 佐藤の言葉に、俺は瞬間的に理解する。同時に胎の奥から吐き気がする。

 そうか。こいつは俺達と戦っても、大阪駅爆破でも佐藤の利益になるんだ。

 俺達と戦って英雄として崇められるか、誰も予測していない爆発を最速で報道できる記者として成功するか。

 どちらに転んでも、こいつの利益になる。

 こいつは他人の死を報道のネタにしか思ってない。

 クズ以下の、ドブ以下の悪人だ。

「どちらも最悪の二択ですが、選ぶのは貴方達ですよ」

「……違うだろ」

 俺は佐藤の言葉に対して、全霊の殺意を込めて反論する。

「お前がさっき言っていた。お前を殺せば『マガル・デザイア』は止まるんだろ?」

「……えぇ」

「なら、三択じゃねぇか」

 俺は深呼吸をして、力強く告げる。

 

「お前を殺せば、お前が英雄になることも、爆発することも起きない。迷うまでもない、俺達はお前を殺す」

 

 佐藤は俺の言葉に一瞬だけ眼を丸くする。

 そして、佐藤は後ろで手を組みながらどこか苦しそうに、呆れたように言葉を口から落とす。

「……やはり、貴方達は馬鹿で醜い」

「馬鹿で醜いのはテメェだろ」

「いいえ、貴方達です。さっき言いましたよね? ()()と」

 それは、佐藤のその言葉が反響し終わると同時だった。

 ───ピシッ

 天井から、建物が軋む音が聞こえる。

 俺はその音に反応して、反射的に天井を見上げた瞬間。

 ───割れるように天井が落ちてきた。

「っ……!」

 落ちてくるのは屋根や木片、コンクリートなどの瓦礫。

 俺は真っ先に真弓の側に寄り、庇うように両手を交わらせ、盾となる。

 彼女は命術を使えない、ただの一般人だ。だから、守る必要がある。

 それを理解してるシロアや戒刃、槍華も自然と真弓の盾になるように上に覆い被さる。

 瓦礫が体中に当たるが、命術で強化している体なら余裕で耐えられる。痛いけど。

「大丈夫か!?」

「はいっ……」

「問題ない」

「大丈夫!!」

 シロアと戒刃、槍華の回答が順番に聞こえて小さく安堵する。

「……」

 俺達の下で守られている真弓は答えはしなかったが、体の状態からして、瓦礫による傷はなさそうだった。

 それよりも、彼女には佐藤につけられた心の傷の方がよっぽど深刻そうであった。

 そんな思考の中。

「おい佐藤!! 来てやったぞ!!」

 建物が崩れていく音と同時に、低音で軽快な声が聞こえてくる。

 5mを悠に超えたその赤い躯体と頭部にある二本の角。

 その姿と声を、俺達は知っている。

「鬼兵、よく来てくれました」

 眼前にいるのは地下駐車場で俺達を圧倒した鬼の姿をした大男、『鬼兵』だった。

「当たり前だろ! あとこいつ、お土産!」

 鬼兵は捕まえた虫を親に自慢するように、右手に掴んだ()()を佐藤に見せつける。

「ガハッ……!」

 鬼兵の右手に掴まれていたのは、短い金髪に碧眼と長い睫毛、青色の眼鏡をかけた青年。

 そして、そこにある死体と同じ姿をした人間。

 真弓の双子の弟。

「雷矢っ……!!」

 真弓はそう叫びながら勢いよく起き上がり、駆け寄ろうとする。

「ばかっ……!」

「ダメダメ!」

 戒刃と槍華が慌てて真弓の身体を掴んで静止させる。

「雷矢……雷矢ぁ……!!」

 しかし、真弓は二人の制止の中で力強くもがき、手を伸ばす。

 それを見ていた佐藤は、今日一番の嬉々とした声色になる。

「ご存知ですよね。私には味方がいるのです」

 続けて放たれたその言葉は、佐藤の明確な勝利宣言であり、俺達が敗北する未来を決定づける言葉だった。

「貴方達が負けた鬼兵。彼が私の相棒であり、貴方達の敵となる存在ですよ」

お読みいただきありがとうございます。

なぜか今、爪が3つ割れてます。意味わからん。

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