表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイアク  作者: 駄犬
31/31

4-6 命術

「『命術』を使える人間は記憶改変が効かない?」

 俺は無意識に、ゲノムさんの発言をそのままおうむ返ししてしまう。そもそも、命術って確か……

「暁理、この前教えた『命術』について覚えてる?」

 ゲノムさんはまるで教壇に立つ教員のように、俺を名指しする。俺は若干緊張しながらも、座学で習った事を思い出してなんとか答えを出力する。

「ええと……魔術や呪術、超能力などの総称みたいなもの……ですか?」

「そ、正解」

 ゲノムさんは満足そうに笑う。

「命術は魔術や呪術、超能力の総称。そして、暁理は分かるだろうけど、この福岡……てか暁理が生きてたこの世界で命術を使える人間は殆どいない」

「待って、ちょっとはいるんですか!?」

 つい叫んでしまった。いや叫ぶだろ。

 魔術とか呪術とか超能力なんてファンタジーの産物だろ。この現実で使える奴なんて見た事も聞いた事もない。

 てか、そもそも現実で「私、魔法が使えまーす⭐︎(キラッ!!)」とか言う奴いたら絶対に関わりたくない。

 そんな狼狽える俺を見て、ゲノムさんはケラケラと笑いながら応える。

「いるよ。いるけど、0.01%にも満たない。それに、命術を使う人達は立場を弁えて、誰の目にも届かない場所に隠れてるものだからね」

 なるほど。それなら見た事ないのも納得だなってなるか!

 しかも0.01%って10,000人に1人だろ!?結構いるじゃん!

「つまり命術……魔術や呪術、超能力などを使える人間は記憶改変の影響を受けないの」

「……違くないですか?それ」

 唐突に、戒刃が困惑しながら話に介入する。

「えっ違うの?」

 俺がそう零すと、ゲノムさんは焦りながら戒刃を宥めるように言葉を並べる。

「この世界ではそれでいいでしょ。これ以上詳しく説明したら、二人パンクするから」

「えぇ……」

 納得がいっていないのか、戒刃は眉をひそませながら唸る。

 ゲノムさんは咳払いをして、先程の話を再開する。

「で、ここからが本題。今回の『デザイア』によるこの反応は拒絶反応によるものの可能性が高い」

 ゲノムさんは声色も速度も変えず、断言する。

「そして、今回の拒絶反応は意図的なものだ」

「……意図的?」

 それはにわかに信じ難い発言であった。

 だって、『デザイア』は触っただけで死ぬ劇物らしい。

 それを、意図的に?可能なのか?

 そんな思考が顔に浮かんでいたのだろう。ゲノムさんは真剣な声色で口を開く。

「今回、マンションの一室で『デザイア』の拒絶反応が確認された。その拒絶反応を起こした人間の死体を検査したから、間違いはない。でもね、肝心の『デザイア』は見つかっていないの」

「……え」

 一瞬、嫌な思考が過ぎる。

 しかし、さっきの命術の説明からして、あり得ない話ではない。むしろ、可能性としては高い。

 でもそれは、この惨劇が事故ではなく悪意に満ちたものだという事になる。

「つまり……」

 俺の顔を見たゲノムさんは、何かを察したのか真剣な面持ちで、俺と同じ思考を出力する。

「つまり『デザイア』の拒絶反応をわざと起こし、その後、『デザイア』を回収した奴がいる」

 それは、やはり俺の脳内の考えと同一。『この事件を故意に起こした人間がいる』という考え。

 つまり、

「犯人がいるって事ですか?」

「……」

 ゲノムさんは俺の発言に何も言わず、ゆっくりと頷く。

「……なんで」

 訳が分からない。

 なぜ?どうして?何が理由で?

 テロ?愉快犯?それともただの事故?

 そんな思考が濁流のように止まらない。

「そして、こんな事を命術なしで出来る訳がない。ましては『デザイア』だしね。そして、命術を使えるという事は、記憶改変も効かないはずだ」

「なるほど」

「つまり福岡で俺達以外に記憶改変が効いていない人間がいたら、そいつが『デザイア』の拒絶反応を起こした犯人の可能性があるという事だ。分かったかお前ら」

 戒刃が俺とシロアを指差す。

「は、はいっ」

 シロアは少しぎこちなく答える。

 俺もある程度は理解できたと思う。ただ……

「あのさ……」

 俺はゆっくりと、怯える犬のように手を挙げる。

 一つだけ、一つだけわからない事がある。

 戒刃はさっきこれで『デザイア』を探しやすくなったと言っていた。でも……

「これ、探しやすくなります?」

 素直な感想が漏れてしまう。

 だって、記憶改変をしたとして、自分だけ記憶改変されてなかったら、周りに話を合わせないか?

 例えば、今回の事件がガス爆発として記憶改変されたとしよう。その場合、周りはガス爆発で多くの人間が死んだという認識になる。犯人は記憶がそのままの場合でも、周りが記憶改変がされていると理解すれば、自分が犯人とバレないために話を周りと合わせるはずだ。てか、俺が犯人だったらそうする。

 ゲノムさんはそんな俺の思考を読んだのか、得意げな顔で告げる。

「そうね。だから、今からそいつを炙り出す為に、もう一度、記憶改変を福岡に行う」

「……え?」

 驚嘆が漏れる。

「そ、そんな事していいんですか?」

「大丈夫。先っちょだけだから」

「なんの先っちょだよ前頭葉?」

 ゲノムさんはニヤニヤと笑いながら続ける。

「で、その記憶改変だけど……」

 ゲノムさんが告げた記憶改変の内容は、理にかなっているとは言い難い、あまりにも力技な内容であった。


―――――――――――――――――――――――

 

「おい」

 数分後。

 事件現場の隠蔽と記憶改変に時間がかかる為、一旦サテライトに戻って解散した後、戒刃から声をかけられる。

「どうした?」

 俺が振り返ると、戒刃は少しだけ哀しそうな顔を浮かべた。

「……風雅って覚えてるか?」

 俺はその名前から、昨日の出来事を思い出す。

「風雅って……風雅さん?槍華の友達だろ?」

 そうだ。昨日行ったラーメン屋の店員、槍華の友達だ。

 俺がそう気楽に答えると、戒刃は真剣な面持ちで告げる。

「ああ。そいつなんだが、拒絶反応を起こした人間が風雅なんだ」

「……は?」

 戒刃の発言に一瞬、思考が停止する。

「風雅の死体を検死した結果、拒絶反応の発信源である事が分かったらしい」

 淡々と話を続ける戒刃の両肩を掴む。

 そして、衝動的に叫んでしまう。

「風雅さんが、死んだのか……?」

「そうだ」

 戒刃は俺とは対照的に、冷静に答える。

 死んだ。風雅さんが、死んだ。

「そ、そうか……」

 俺は戒刃の両肩から手をゆっくりと離し、後退りする。

 死んだ。死んだ。さっきまで生きてた風雅さんが、死んだ。

「それで、風雅については何か調べる必要がある」

 戒刃は俺の動揺を他所に、冷淡に言葉を続ける。

「犯人がいるならば、たまたま拒絶反応に風雅が選ばれたのか。それとも、意図的に風雅を選んだのか。それだけで、俺達の対応は大きく変わってくるからな」

 戒刃はまるで感情がない機械のように話を続ける。

 でも、こいつがそんな冷血な人間ではないことも理解してる。

 こいつは、余計な感情や思考を、私情や私怨を表に出さないようにしているだけだ。

「今日は風雅について調べるぞ。風雅の家族や深い交友関係について、どんな人間関係があったのか。それを知る必要があるからな」

 戒刃は冷静にそう言い放つ。

「ちょっと待ってくれ」

 しかし、俺はそれどころじゃない。

「なんだ」

「……槍華は、大丈夫なのか」

 呼吸を荒くしながら、戒刃に問いかける。

 槍華だけじゃない。月葉さんや飛鳥さんだって、大丈夫じゃないはず。

 彼等がどのような関係か、全ては知らないし、知ることもできない。

 けれど、彼等は互いが互いを大切だと思っているだろう。

 そんな大切な存在が失われたなら、それは……

「……さあな」

 戒刃は哀しさを含ませた声色で答える。

 俺は戒刃の反応に、俺は何も言えなかった。

「とりあえず、早く寝ろよ。数時間後には任務だからな」

 戒刃はそう言うと、俺に背を向けて自分の部屋に帰っていった。

 

――――――――――――――――――――――

 

 その後、俺も自分の部屋に帰り、布団の中に入った。

 しかし、俺は一向に夢に落ちる事ができなかった。

「はぁっ……はあっ……」

 呼吸が上手く出来ない。無意識に胸をギュッと抑える。

 風雅さんが死んだ。

 つまり槍華、月葉さんや飛鳥さんはこれから、大切な人を失う痛みを得る。それが確定している。

 ただそれだけの事実。

 その事実が、呼び起こしてしまった。

 世界で一番無駄な痛み。存在価値の無い痛み。

 烙印を押されたかのような、切り裂かれたかのような激痛が俺の中を蟲のように這っていく。

 一度だって和らいだ事はない。

 でも、感じないように努めてきた。目を逸らしてきた。

 そうしないと、呼吸すら出来ないから。

「はあっ……はあっ……う……あ……」

 呼吸は浅く、痛みは収まらない。

 いつまで経っても、俺は零奈を失った痛みを引きずり続けている。

 俺はそのまま、浅い呼吸で暗闇の中、夜明けを迎えるのを待つ事しか出来なかった。

お読みいただきありがとうございます。

話を書く難しさを痛感してます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ