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サイアク  作者: 駄犬
30/31

4-5 記憶改変

 数時間前のこと。

 俺達は報告も兼ねて、一旦福岡からサテライトに帰還した。

 報告といっても「『デザイア』見つかりませんでしたごめんなさい」をちんたらと1,000文字以上書いただけなんですけどね初見さん。

 その後、俺達は解散して、サテライトから与えられた小さな部屋で休む事にした。明日も福岡で『デザイア』の捜索を行う為、日付が変わる前には床についた。

 寝つきはあまり良くない方だが、福岡の街中をひたすら歩いた疲労からか、もしくはサテライトから支給されたベッドが信じられない程フカフカだったからか、あまりにも簡単に眠りに落ちる事ができた。

 そして、7月31日2時44分。

 それは起きた。

「───ッア!!??」

 瞬間、内臓がミキサーですり潰されるような激痛が、体内に疾る。その衝撃に耐えきれず、俺はベッドの上で魚のように飛び跳ねた。

「ア……ガァ……」

 そして、ベッドの上でうずくまったまま、動けなくなってしまった。

 い……痛い……動けない……助けて……

 そんな情けない命乞いが脳内を駆け巡っていた時だった。

「暁理!!」

 部屋のドアをバンと開けて、俺の名を叫びながら部屋に入ってくる。その声から分かる。ゲノムさんだ。プライバシーもクソもない。

「暁理!!福岡の『デザイア』が……大丈夫か?」

 ゲノムさんはベッドの上でうずくまっている俺を見て、困惑しながら問いかけてくる。

「だっ……大丈夫じゃないです……」

「なるほど……零奈の時とは違うけど、これも『デザイア』の共鳴か……?」

 ゲノムさんは興味深そうに自身の顎に手を当てる。

 いや……助けてください……

「そんな事より暁理」

「な、なんすか……」

 痛みで言葉を発するのもしんどい。そんなことで片付けないで欲しい。

 しかし、そんな弱音はゲノムさんの発言により、一瞬で消し飛んでしまう。

「福岡の『デザイア』が発動した」

「なっ……」

 体内に疾る激痛よりも、遥かに大きな衝撃が鼓膜を揺さぶる。

 俺は痛みなど無かったかのように上半身を起こす。

「福岡は!?大丈夫ですか!?」

 その叫びは体内を駆け巡る激痛を更に悪化させたが、それをなんとか堪えてゲノムさんへ問いかける。

 しかし、そんな叫びが何かの役に立つ訳もなく、ゲノムさんは苦虫を噛み潰したような顔をしながら応える。

「全く。恐らく、死傷者は千人を超える」

「ッ……!?」

 死傷者……千人以上……!?

「とりあえず、現場行くよ」

 俺は混乱した脳みそのまま、それに頷きで応える。

 そして、サテライトから支給された白を基調とした隊服を羽織り、ゲノムさんの後を追った。


 5分後。2時49分。

 俺はサテライトのワープ技術で、すぐに『デザイア』が発動されたと思われる場所付近へ。

 そこは、まさに地獄であった。

「なんだよ……これ」

 場所は住宅街。

 その中で一番高いマンションの上に俺達はいて、この惨状を見下ろしていた。

 住宅街の中心には、マンションが()()()()()

「ゲノムさん……これは……」

「見ての通りだよ」

 ゲノムさんは淡々と現実を直視し、受け入れている。

「これは恐らく『デザイア』によって引き起こされた『瞬間移動』か『空間転移』だろうね」

「『デザイア』ってそんな事も出来るんですか……?」

「願いを叶える力を持つのが『デザイア』だ。それぐらい出来てもおかしくないよ」

 ゲノムさんはため息混じりに答える。

「マンションの半分が、住宅街の上に瞬間移動もしくは空間転移されて落下。そんな所だろうね」

 その説明に、俺は理解させられてしまった。

 『デザイア』が世界にとって、どれだけの脅威であるか。

 世界の理を崩壊させる程の力を持つ『デザイア』が、世界にとってどれだけの脅威で、有害であるかを。

 現実を直視しないと、理解できない自分の無能さに嫌気がさす。

「ゲノムさん、お疲れ様です」

「お、お疲れ様です……」

 後ろから聞き慣れた二人の声が聞こえる。

 振り返ると、そこには戒刃とシロアがいた。

 二人とも俺と同じように白を基調とした隊服を羽織っていた。しかし、俺と同じく二人とも寝起きである事は一目瞭然。

 特にシロアは、寝癖でふわふわの髪の毛が爆発している。

「それでは、全員揃ったので、現状を説明します」

「お願い」

 戒刃は空間からタブレットを取り出し、そこに映し出された文字の羅列を読み上げる……待ってその空間から取り出す技術なに?とツッコミたかったが、今はそれどころじゃないので自粛する。

「7月31日2時44分2秒。デザイアの発動を確認。発動時間は4秒。福岡の15階マンションの7階から15階が消失。そして、2km先の住宅街の上空に転送、落下。保守レベル4.0。『デザイア』は発見されてません」

「隠蔽はどうなってる?」

「現場は断絶結界を構築済み。サテライトの隊員以外は接触不可。日本全土の人間の記憶改変は完了。『干渉不可』状態で改変されています」

 戒刃はタブレットを凝視し、ニュースキャスターのようにすらすらと読み上げる。

「死傷者は1,205名で確定。生存者はサテライトで回収後、治療。社会復帰可能な状態まで回復した後は再度記憶改変を行い、この世界に戻す予定です。マンションの瓦礫撤去はあと一時間で終了。現場偽装はその後。結界解除は本日の5時前になる予定です」

 戒刃は当たり前かのように液晶に浮かぶ文章を読み上げる。そしてゲノムさんも報告を当たり前のように受け入れている。

 しかし、俺には半分程度しか内容が入ってきていない。

 保守レベル?結界?記憶改変?情報改変?

 千人以上が死んだのと、『デザイア』が現場で見つかっていない事ぐらいしかまともに理解出来てない気がする。

 隣に立つシロアを見ると、彼女の顔には戸惑いが浮かんでおり、頭の上に疑問符が浮いていた。

 理解できてないやつ、ここにもいた。

「何も理解できてないだろお前ら」

 戒刃はそんな俺達の理解力を見透かしたのか、呆れたように俺とシロアに言い放つ。

「うぐぅ……」

 図星である。言い訳はない。

「はい……すみません……」

 隣にいるシロアも、頭から煙を出しながら、申し訳なさそうに頷く。

 戒刃は小さくため息をついた後、タブレットに目を落とす。

「とりあえず、昨日とは現行が一変した。人死が出たのは最悪だが、これで『デザイア』は()()()()()()()()はずだ」

 タブレットを操作しながら出力されたその言葉は、聞き逃すにはあまりにも異常だった。

「……なんで?」

 しかし、俺はその発言に引っ掛かりを覚えた。

 なんでこんな惨状になって、『デザイア』が探しやすくなるんだ?

 そんな疑問を解消させようとする為か、戒刃が真剣な声色で答える。

「さっき記憶改変したって言ったろ。それだ」

 戒刃はタブレットを操作しながら答える。そして、急に空中に投げたかと思えば、タブレットは虚空に消えてしまった。まるでタブレットだけ瞬間移動したようだ。

「記憶改変が……?」

 隣のシロアも、戒刃の言っていることが分かっていないようで、頭に大きなハテナマークを浮かべていた。

「ああ。記憶改変はそのままの意味だ。人間の記憶を改変する。サテライトにはそういう技術があるんだよ」

「……なんで記憶改変なんてするの……?」

 そんな疑問を呟くと、戒刃は冷淡に問いかけてくる。

「……マンションが落ちてきたのは『デザイア』のせいだろ?」

「うん」

「それは俺達だからそう思えるんだよ」

 戒刃は淡々と話を続ける。

「『デザイア』が元凶だとして、それを世間に公開できるか?」

 戒刃が放ったその理由は、あまりにも至極当然だった。

「……出来ない」

 当然だ。

 死者蘇生・瞬間移動・空間転移、そして俺のように発火したり身体を変化させたりするような、常識はずれの力を持つ『デザイア』の存在を公開してみたらどうだ?そこに生まれるものは一つしかない。

「混乱だけ」

 戒刃は俺の考えを見透かすように答える。

「『デザイア』の存在が知れ渡れば、『デザイア』を巡って戦争が起きるのは確実。それだけならまだしも、『デザイア』の拒絶反応で世界が滅んだら洒落にならない」

「まー『デザイア』以外にも、魔術とか呪術が存在してるのバレたら、大事でしょ?」

 戒刃の話を無言で聞いていたゲノムさんが会話に交じる。

「だから記憶・情報改変をするの。この世界が平和でいられるように」

 ゲノムさんは新機種のプレゼンを行う社長のように両手を広げる。

「そうなんですね……」

 なんとなく、腑に落ちた。

 『デザイア』は間違いなく危険であり、人の手に余る程の力がある。そんなものを公開したら、世界は間違いなくパニックになる。だから、それを公開しない。そもそもなかった事にするのは良い事なのかもしれない。

 ただ……

「納得はできないよね」

 ゲノムさんが腕を組みながら呟く。

「だって、自分が知らない内に世界が変わってたり、大切な人が死んだ事に気付けなかったりするだもん。改変された人達はたまったもんじゃないよね」

 ゲノムさんは哀しそうに失笑する。

 見透かされた。心が納得できていない事を見透かされた。

 顔に出てしまっていたのだろうか。言葉に出来ない不満や不服が。

「でもね、こうするのが一番平和なの。世界に情報を拡散して下手な混乱を起こすより、誰も知らないままの方がいいの」

 ゲノムさんはどこか哀しそうな目をしながら呟く。

 言い訳のような、懺悔のような。

「……そうなんですね」

 そう答えるものの、全ての話を聞いた上で俺はやっぱり心が納得できてない。

 でも、新人で下っ端の俺が「はいはい!記憶改変ダメだと思います!」なんて手を挙げた所で正当性も生産性もない。

 そもそもの話、記憶改変の代替案がない。

 『デザイア』を公開すれば、そのファンタジーな力がある事で混乱が生まれる。最悪、『デザイア』の奪い合いによる戦争が起こるかもしれない。飛躍しすぎかもだが。

 ならば、存在していない事にするのは理にかなっているのではないだろうか。

「てか『デザイア』以外でも、そういった記憶改変とかあるよ。暁理さ、学校で異世界の人間達が攻めてきたでしょ?」

 俺は記憶の奥底……でもないけど、割と奥の方まで記憶を呼び起こす。7月7日。あったね、そんな事。最近色々ありすぎて忘れてた。零奈とか零奈とか零奈とかでそれどころじゃなかったんだよ。

「ああ……ありましたね」

「それも記憶改変してるよ。あの学校にいた人達は、異世界からの侵攻なんて覚えちゃいない。生存者は全員、今はしっかり社会復帰してるよ」

「そうなんですね。安心しました」

「今の今まで忘れてた奴が言うセリフじゃないぞ」

「うっ……」

 またもや図星。やっぱ見透かされてるよねこれ。

 見て聞く色の覇気使えるんですか?

「ただ……記憶改変が効かない人間もいるんだよね」

 ゲノムさんは眉を潜ませながら呟く。

「そうなんですか?」

「そう、それが本題。さっきの探しやすくなったに繋がるの」

 ゲノムさんはパンッと手を叩き、意気揚々と言葉を並べる。

「『命術』を使える人間は記憶改変が効かないの」

お読みいただきありがとうございます。

本当は一話にまとめるつもりができませんでした。実力不足を痛感します。

命術については明日投稿の話で語られるので、少しだけお待ちいただければ幸いです。

あと、2.5話「回収」を割り込み投稿しました。余裕があればお読みください。

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