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サイアク  作者: 駄犬
29/31

4-4 4人

「そっちゃ〜ん!きたよ〜!」

 ラーメン屋の引き戸の先には、同世代と思われる3人の男女がいた。

 一人は明るい声を放つ、背が低めな女性。髪は肩にかかるぐらいのロブで、透明感のある黒髪に、インナーカラーが緑色になっている。前髪につけられた四葉のクローバーのヘアピンが目立つ。

「そっうっが!!おっす〜!!」

 一人は背の高めな短髪スポーツマン。髪は全て緑色に染まっており、側から見れば一番目立つのは彼だ。

「槍華、お疲れ様」

 淡々とした声色で眼鏡を人差し指で上げる青年。中肉中背で銀色のフレームの眼鏡ををかけている。少しパーマがかかった髪型で、こちらは毛先が緑色に染まっている。

「おー!遅かったじゃん!うんこか!?」

「うんこなわけあるかー!」

 四葉のクローバーのヘアピンを付けた女性は、槍華の背中をバンバンと叩く。そしてそのまま、3人は毎日の動作のようにカウンター席に座る。

「いつものでいいよな?」

「ああ、頼む」

「俺チャーハンと唐揚げも!」

「おー!よく頼むね!」

「そりゃ育ち盛りだからな!」

「はいはーい!てか、今日補修は?もう終わったのか?」

「終わった!!」

「今日は小テストが終わったら帰れたんだよ。サボり魔のお前には分からんだろうがな」

「っせーなー!」

 槍華はカラッと笑いながら、眼鏡の青年の背中を叩く。

 その衝撃に眼鏡の青年は顔を歪ませるが、周りの2人は何も言わず、むしろ楽しそうに微笑んでいた。恐らく日常なんだろう。

「……ふふっ」

 後ろから、笑みが零れた音が聞こえてくる。

 振り返ると、目の前の光景を眺めながら微笑んでいたシロアがいた。

「どうした?」

「あっ、いえ……幸せだなって、思っただけです……」

 シロアは頬を人差し指でかきながら、少し恥ずかしそうに答える。その陽だまりのような瞳には幸福のような、或いは感動のようなものが灯っていたような気がする。

「何が?」

 戒刃が姑のような眼光でシロアに問いかける。怖いって。

「えーっと……あれを……見て……」

「……変だな」

「へ、変ですか!?」

 予想外の回答だったのか、シロアは肩を軽く揺らしながら驚く。

「変だろ。他人だぞ」

「……うぅ、そ、そうなんですね……」

 シロアは顔を真っ赤にしながら俯く。そんなシロアを見て、心の中で頭を抱える。

 確かに、戒刃の言い分は分かる。他人の日常見て幸せになれるかと言われれば、正直NOだ。

 とはいえ、シロアの言い分も感覚としては理解できる。散歩してる犬とかお昼寝してる猫見てる時の感覚に近い気がする。

 なんか両方の気持ちが分かる状況の時が一番気まずいな……

 とはいえ、このままでは流石にシロアが可哀想だ。

 俺はシロアを庇うために口を開く。

「いや、シロアは常識の範疇だろ。虫に刺された箇所が好きな人もいるし、変じゃないと思うぞ」

「なにそれ?虫刺されフェチって事か?」

「そゆこと……ってうわっ!?」

 隣にはいつの間にか槍華が立っていた。

 ついさっきまでカウンターで談笑してた筈では!?

「急にこっちくるなよ!びっくりしたわ!!」

「いや、メニュー表開いてたから、追加の注文あるかなって来たんだが……七部の話してるから」

「アニメ化楽しみだよな」

「わかる」

 俺と槍華は静かにグータッチをする。わかってんなこいつ。

 シロアは顔を横に傾かせ、頭にハテナマークを浮かべている。戒刃は妹の夫の逆鱗に触れた時のような顔をしている。決闘は剣ではなく当然鉄球だぞ。

「……で、あの人たちは?」

 意外にも、その質問をしたのは戒刃だった。

「俺の友達だよ」

 槍華はさっきのような溌剌な声色とは打って変わって、春風のような穏やかな声色で答えた。

「へー……なんでみんな髪を染めてるの?」

 そんな穏やかな槍華に、なんとなく浮かんだ疑問を問いかける。

「ん?ああ、それは……」

「悪友のしるしだよー!!」

 まさに元気いっぱいという言葉が似合う、無邪気な大声が店内に響き渡る。

「見た事ない子たちだ!!観光ですか!?あ!!私、月葉(つきは)!!よろしくね!!連絡先交換しよ!?」

 四葉のクローバーのヘアピンを付けた、背の低い女性が濁流のように言葉を並べる。咄嗟に反応できない。アグロデッキみたいな会話。

「あ、ああ。よろしく」

「よろしくね!!うえーい!!」

 月葉さんは手をこちらに伸ばして、ハイタッチを要求してくる。

「う、うえーい……?」

 俺は恐る恐るハイタッチをすると、月葉さんは満足気に笑う。そして、カウンターの方へ顔を向けながら指を指す。

「うえーい!!で!あそこの短髪が飛鳥(あすか)!!眼鏡が風雅(ふうが)!!いご!おみしりおきを!!」

 月葉さんはそんな勢い100%の雑な紹介をする。

「よろしくな!!誰かは知らんけど!!」

 飛鳥さんはスポーツマン特有の爽やかな笑顔を向ける。その台詞はごもっともです。

「……」

 眼鏡の風雅さんは無言で椅子に座ったまま丁寧なお辞儀をする。なんて綺麗な礼だ。

 にしても、全員タイプが違うな。月葉さんは悪友って言ってたけど……

「悪友ってなに?」

 月葉さんに問いかけると、月葉さんはにぱーと笑いながら答えてくれた。

「昔ちょっとヤンチャしてたんだ!その時の名残り!!」

「ヤンチャって……ヤンキー!?」

「違う違う。中学の時、俺ら生徒会だったの」

 槍華が少しだけ宥めるように会話に割り込む。

「俺たち4人が生徒会でさ、その時にヤンチャしたんだよ。あの時は大変だったな」

 槍華は少しくたびれた様子で、しかし誇らしげに武勇伝を語る。それに不快感がないのは槍華が良い奴だからだろうか。話してる内容が善行だからだろうか。それとも度がすぎる程のイケメンだからだろうか。

「いや〜あの時は大変でしたね〜会長〜?」

 月葉さんはいやらしく槍華の肩を叩く。

 ……会長!?槍華が!?

「会長だったの!?」

「あぁ……もう二度とやらねー……」

 そう零す槍華の顔には、さっきの武勇伝とは打って変わって、マジモンの疲労と後悔が顔に浮かんでいた。しんどかったんだな。

「にしても生徒会なのにヤンチャしてたんだな」

 戒刃がコップに水を注ぎながら問いかける。

 ……えっ戒刃、生徒会の知識あんの?ラーメンの知識なくて生徒会の知識あんの?なんで?怖っ。

「うん。その時ね、風雅がガチヤンキーでね。他校のヤンキーとめっちゃ喧嘩してたんだよ」

 月葉さんは眼鏡の青年、風雅さんを指差す。

 ……えっ!?あんな真面目そうな人が!?

「マジですか!?」

 反射的に風雅さんの方へ顔を向けた。そこには、両手で顔を覆う風雅さんがいた。嗚呼、黒歴史なんですね。

 そんな風雅さんの隣に座る飛鳥さんが、楽しそうに語り始める。

「そうそう。それで、風雅が他校のヤンキーと喧嘩するたびに、俺と槍華で止めてたんだよな。月葉は応援係でな」

「ねー!!」

「周囲からは不良で構成されてた生徒会って認識で、先生達も頭抱えてたな」

 そりゃ頭抱えるわ。

「それで悪友か」

 戒刃は納得したのか、満足気にコップの水を喉に流し込む。

 にしても、俺はまだ納得できてない。

 頭を駆け巡っているある疑問を、彼等に吐き出す。

「なんでヤンキーが生徒会に?」

 そんな疑問に、月葉さんは「うひひ」と笑いながら答える。

「それはね、風雅は生徒会に入ってからヤンキーになったんだよね」

「尚更なんで!?」

 反射的に叫んでしまう。なんでだよ。

 俺の叫びに、風雅さんは耳を赤らめながら小さな声で答える。

「……その時期に四部読んで……」

「……なるほど?」

 確かに、感受性豊かな中学時代に四部読んだらヤンキーに……なるか?主人公は不良だけど、もっと他に憧れる要素ありそうだけど。まあ『クックックッーン』と笑う中学生になるよりヤンキーの方がよっぽどいい。健全だ。

「つまりまあ……中学の時からの友達って事ね」

 俺がそう言うと、槍華は意外にも落ち着いた、大人びた表情で答える。

「……そうだな」

 その顔は現状に満足しているような、既に幸せを掴んだ人間の顔だった。

「……いいな」

 それは、本心から漏れた言葉。

 間違いなく、嘘偽りのない言葉。

 その言葉に、槍華は目をカッと開いた後、満面の笑みを浮かべる。

「……おう!!」

 それは、今日一番の笑顔だった気がする。

 そんな槍華を見て、満足気に月葉さんも笑う。

 それに二人の……いや四人の関係性や歴史が、どれほど大切なのかを、他人事ながら理解した気がする。

 分かる。全部は分からないけど、ほんの少しは分かるよ。

 俺にも、そんな気持ちになる人がいたから。

――――――――――――――――――――――

 その後、俺達は談笑を楽しみながらラーメンや炒飯、餃子や唐揚げを追加注文をし、全て美味しくいただいた。嘘です。シロアが全部食べました。

「またこいよー!」

 ラーメン屋から出る時、槍華はそう笑いながら俺たちに手を振る。カウンターでラーメンを啜る3人も、笑いながら手を振ってくれた。

 そんな光景を目に捉えながら引き戸を閉めた後、俺は満腹感に満たされながら口を開く。

「いやー美味しかったな!」

「はいっ!」

 ラーメンを食べる前とは打って変わって、シロアは元気いっぱい答える。良かった〜元気になったよ〜。

「……ぉぅ」

 戒刃は口を塞ぎ、猫背になりながら答える。

 ダメだ!今度は戒刃が体調不良だ!プラマイゼロ!

「と、とりあえず『デザイア』探し、再会すっぞ!」

「はい!」

「……ぁあ」

 二人は昼食を食べる前とは真逆のテンションで呼応する。

 そうして再会された『デザイア』探し。

 しかし、結局夜まで福岡を練り歩いても、俺達は『デザイア』を見つける事はできなかった。

「……今日はここまでだな」

「だな」

 戒刃はペットボトルの水を喉に流し込みながら答える。

 シロアは無言で頷いた。

「……どうしようかな」

 危機感はあった。間違いなくあった。

 けれど、どこか楽観的だったんだろう。

 一度しか『デザイア』の反応がなかったなら、今日もきっとない。そんな楽観的な願いが、深層心理にあったのだろう。

 そのせいなのかな。

 その日の夜、最悪が起きた。

――――――――――――――――――――――

 7月31日。2時44分。

 大阪に『デザイア』の反応・発動が確認された。

 15階建てマンションの7階から15階が、2km先の住宅街の上空に転送、落下。

 死傷者は1,000人以上。

 そこには、槍華の友達である風雅さんの名前もあった。

お読みいただきありがとうございます。

なんで今回こんなジョジョネタ多いんですかね。

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