4-4 4人
「そっちゃ〜ん!きたよ〜!」
ラーメン屋の引き戸の先には、同世代と思われる3人の男女がいた。
一人は明るい声を放つ、背が低めな女性。髪は肩にかかるぐらいのロブで、透明感のある黒髪に、インナーカラーが緑色になっている。前髪につけられた四葉のクローバーのヘアピンが目立つ。
「そっうっが!!おっす〜!!」
一人は背の高めな短髪スポーツマン。髪は全て緑色に染まっており、側から見れば一番目立つのは彼だ。
「槍華、お疲れ様」
淡々とした声色で眼鏡を人差し指で上げる青年。中肉中背で銀色のフレームの眼鏡ををかけている。少しパーマがかかった髪型で、こちらは毛先が緑色に染まっている。
「おー!遅かったじゃん!うんこか!?」
「うんこなわけあるかー!」
四葉のクローバーのヘアピンを付けた女性は、槍華の背中をバンバンと叩く。そしてそのまま、3人は毎日の動作のようにカウンター席に座る。
「いつものでいいよな?」
「ああ、頼む」
「俺チャーハンと唐揚げも!」
「おー!よく頼むね!」
「そりゃ育ち盛りだからな!」
「はいはーい!てか、今日補修は?もう終わったのか?」
「終わった!!」
「今日は小テストが終わったら帰れたんだよ。サボり魔のお前には分からんだろうがな」
「っせーなー!」
槍華はカラッと笑いながら、眼鏡の青年の背中を叩く。
その衝撃に眼鏡の青年は顔を歪ませるが、周りの2人は何も言わず、むしろ楽しそうに微笑んでいた。恐らく日常なんだろう。
「……ふふっ」
後ろから、笑みが零れた音が聞こえてくる。
振り返ると、目の前の光景を眺めながら微笑んでいたシロアがいた。
「どうした?」
「あっ、いえ……幸せだなって、思っただけです……」
シロアは頬を人差し指でかきながら、少し恥ずかしそうに答える。その陽だまりのような瞳には幸福のような、或いは感動のようなものが灯っていたような気がする。
「何が?」
戒刃が姑のような眼光でシロアに問いかける。怖いって。
「えーっと……あれを……見て……」
「……変だな」
「へ、変ですか!?」
予想外の回答だったのか、シロアは肩を軽く揺らしながら驚く。
「変だろ。他人だぞ」
「……うぅ、そ、そうなんですね……」
シロアは顔を真っ赤にしながら俯く。そんなシロアを見て、心の中で頭を抱える。
確かに、戒刃の言い分は分かる。他人の日常見て幸せになれるかと言われれば、正直NOだ。
とはいえ、シロアの言い分も感覚としては理解できる。散歩してる犬とかお昼寝してる猫見てる時の感覚に近い気がする。
なんか両方の気持ちが分かる状況の時が一番気まずいな……
とはいえ、このままでは流石にシロアが可哀想だ。
俺はシロアを庇うために口を開く。
「いや、シロアは常識の範疇だろ。虫に刺された箇所が好きな人もいるし、変じゃないと思うぞ」
「なにそれ?虫刺されフェチって事か?」
「そゆこと……ってうわっ!?」
隣にはいつの間にか槍華が立っていた。
ついさっきまでカウンターで談笑してた筈では!?
「急にこっちくるなよ!びっくりしたわ!!」
「いや、メニュー表開いてたから、追加の注文あるかなって来たんだが……七部の話してるから」
「アニメ化楽しみだよな」
「わかる」
俺と槍華は静かにグータッチをする。わかってんなこいつ。
シロアは顔を横に傾かせ、頭にハテナマークを浮かべている。戒刃は妹の夫の逆鱗に触れた時のような顔をしている。決闘は剣ではなく当然鉄球だぞ。
「……で、あの人たちは?」
意外にも、その質問をしたのは戒刃だった。
「俺の友達だよ」
槍華はさっきのような溌剌な声色とは打って変わって、春風のような穏やかな声色で答えた。
「へー……なんでみんな髪を染めてるの?」
そんな穏やかな槍華に、なんとなく浮かんだ疑問を問いかける。
「ん?ああ、それは……」
「悪友のしるしだよー!!」
まさに元気いっぱいという言葉が似合う、無邪気な大声が店内に響き渡る。
「見た事ない子たちだ!!観光ですか!?あ!!私、月葉!!よろしくね!!連絡先交換しよ!?」
四葉のクローバーのヘアピンを付けた、背の低い女性が濁流のように言葉を並べる。咄嗟に反応できない。アグロデッキみたいな会話。
「あ、ああ。よろしく」
「よろしくね!!うえーい!!」
月葉さんは手をこちらに伸ばして、ハイタッチを要求してくる。
「う、うえーい……?」
俺は恐る恐るハイタッチをすると、月葉さんは満足気に笑う。そして、カウンターの方へ顔を向けながら指を指す。
「うえーい!!で!あそこの短髪が飛鳥!!眼鏡が風雅!!いご!おみしりおきを!!」
月葉さんはそんな勢い100%の雑な紹介をする。
「よろしくな!!誰かは知らんけど!!」
飛鳥さんはスポーツマン特有の爽やかな笑顔を向ける。その台詞はごもっともです。
「……」
眼鏡の風雅さんは無言で椅子に座ったまま丁寧なお辞儀をする。なんて綺麗な礼だ。
にしても、全員タイプが違うな。月葉さんは悪友って言ってたけど……
「悪友ってなに?」
月葉さんに問いかけると、月葉さんはにぱーと笑いながら答えてくれた。
「昔ちょっとヤンチャしてたんだ!その時の名残り!!」
「ヤンチャって……ヤンキー!?」
「違う違う。中学の時、俺ら生徒会だったの」
槍華が少しだけ宥めるように会話に割り込む。
「俺たち4人が生徒会でさ、その時にヤンチャしたんだよ。あの時は大変だったな」
槍華は少しくたびれた様子で、しかし誇らしげに武勇伝を語る。それに不快感がないのは槍華が良い奴だからだろうか。話してる内容が善行だからだろうか。それとも度がすぎる程のイケメンだからだろうか。
「いや〜あの時は大変でしたね〜会長〜?」
月葉さんはいやらしく槍華の肩を叩く。
……会長!?槍華が!?
「会長だったの!?」
「あぁ……もう二度とやらねー……」
そう零す槍華の顔には、さっきの武勇伝とは打って変わって、マジモンの疲労と後悔が顔に浮かんでいた。しんどかったんだな。
「にしても生徒会なのにヤンチャしてたんだな」
戒刃がコップに水を注ぎながら問いかける。
……えっ戒刃、生徒会の知識あんの?ラーメンの知識なくて生徒会の知識あんの?なんで?怖っ。
「うん。その時ね、風雅がガチヤンキーでね。他校のヤンキーとめっちゃ喧嘩してたんだよ」
月葉さんは眼鏡の青年、風雅さんを指差す。
……えっ!?あんな真面目そうな人が!?
「マジですか!?」
反射的に風雅さんの方へ顔を向けた。そこには、両手で顔を覆う風雅さんがいた。嗚呼、黒歴史なんですね。
そんな風雅さんの隣に座る飛鳥さんが、楽しそうに語り始める。
「そうそう。それで、風雅が他校のヤンキーと喧嘩するたびに、俺と槍華で止めてたんだよな。月葉は応援係でな」
「ねー!!」
「周囲からは不良で構成されてた生徒会って認識で、先生達も頭抱えてたな」
そりゃ頭抱えるわ。
「それで悪友か」
戒刃は納得したのか、満足気にコップの水を喉に流し込む。
にしても、俺はまだ納得できてない。
頭を駆け巡っているある疑問を、彼等に吐き出す。
「なんでヤンキーが生徒会に?」
そんな疑問に、月葉さんは「うひひ」と笑いながら答える。
「それはね、風雅は生徒会に入ってからヤンキーになったんだよね」
「尚更なんで!?」
反射的に叫んでしまう。なんでだよ。
俺の叫びに、風雅さんは耳を赤らめながら小さな声で答える。
「……その時期に四部読んで……」
「……なるほど?」
確かに、感受性豊かな中学時代に四部読んだらヤンキーに……なるか?主人公は不良だけど、もっと他に憧れる要素ありそうだけど。まあ『クックックッーン』と笑う中学生になるよりヤンキーの方がよっぽどいい。健全だ。
「つまりまあ……中学の時からの友達って事ね」
俺がそう言うと、槍華は意外にも落ち着いた、大人びた表情で答える。
「……そうだな」
その顔は現状に満足しているような、既に幸せを掴んだ人間の顔だった。
「……いいな」
それは、本心から漏れた言葉。
間違いなく、嘘偽りのない言葉。
その言葉に、槍華は目をカッと開いた後、満面の笑みを浮かべる。
「……おう!!」
それは、今日一番の笑顔だった気がする。
そんな槍華を見て、満足気に月葉さんも笑う。
それに二人の……いや四人の関係性や歴史が、どれほど大切なのかを、他人事ながら理解した気がする。
分かる。全部は分からないけど、ほんの少しは分かるよ。
俺にも、そんな気持ちになる人がいたから。
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その後、俺達は談笑を楽しみながらラーメンや炒飯、餃子や唐揚げを追加注文をし、全て美味しくいただいた。嘘です。シロアが全部食べました。
「またこいよー!」
ラーメン屋から出る時、槍華はそう笑いながら俺たちに手を振る。カウンターでラーメンを啜る3人も、笑いながら手を振ってくれた。
そんな光景を目に捉えながら引き戸を閉めた後、俺は満腹感に満たされながら口を開く。
「いやー美味しかったな!」
「はいっ!」
ラーメンを食べる前とは打って変わって、シロアは元気いっぱい答える。良かった〜元気になったよ〜。
「……ぉぅ」
戒刃は口を塞ぎ、猫背になりながら答える。
ダメだ!今度は戒刃が体調不良だ!プラマイゼロ!
「と、とりあえず『デザイア』探し、再会すっぞ!」
「はい!」
「……ぁあ」
二人は昼食を食べる前とは真逆のテンションで呼応する。
そうして再会された『デザイア』探し。
しかし、結局夜まで福岡を練り歩いても、俺達は『デザイア』を見つける事はできなかった。
「……今日はここまでだな」
「だな」
戒刃はペットボトルの水を喉に流し込みながら答える。
シロアは無言で頷いた。
「……どうしようかな」
危機感はあった。間違いなくあった。
けれど、どこか楽観的だったんだろう。
一度しか『デザイア』の反応がなかったなら、今日もきっとない。そんな楽観的な願いが、深層心理にあったのだろう。
そのせいなのかな。
その日の夜、最悪が起きた。
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7月31日。2時44分。
大阪に『デザイア』の反応・発動が確認された。
15階建てマンションの7階から15階が、2km先の住宅街の上空に転送、落下。
死傷者は1,000人以上。
そこには、槍華の友達である風雅さんの名前もあった。
お読みいただきありがとうございます。
なんで今回こんなジョジョネタ多いんですかね。




