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サイアク  作者: 駄犬
26/31

4-1 福岡へ

 時刻は10:12

「それじゃあ、準備はいいな?」

 扉の前。俺は背後にいるシロアと戒刃に声をかける。

「……は、はい……」

 シロアは声と身体を震わせ、青ざめた顔で答える。

 目の下にはくっきりとクマが出来ており、おそらく2時間も寝れていない。緊張しすぎだろ。

「当然だ」

 一方で戒刃には緊張の様子は一切ない。震えもクマもない。

 なんなら、8時間以上寝た人間にしか出せない顔色をしている。こいつはこいつで緊張しなさすぎだろ。

「……行くぞ」

 そう言いながら、古びたドアノブを回す。

「う……」

 扉の隙間から突き刺すような光が差し込んでくる。

 扉の向こうには聳え立つ建物、人々の喧騒、蒸し焼きにされそうな夏の熱気。

 そう、ここが。

「福岡……!」

 世界の理を崩壊させる、そして死者蘇生の力があると言われている存在、『デザイア』を回収するため、俺達は福岡県福岡市へ足を踏み入れた。

―――――――――――――――――――――――

 本日は2025年7月30日。

 一週間の特訓後、一日休みを挟んで、俺たちは福岡に来ている。当然観光ではなく、『デザイア』を回収する為の任務だ。

 ちなみに、福岡へは新幹線や飛行機は使用せず、サテライトから福岡に扉一つでワープした。

 ワープ?と思うが、サテライトにはワープの技術がある。俺も知ったのは一昨日だが。

 今回使用したのは『扉型』のワープ。結構大きな制限はあるらしいが、サテライトの管轄内ならば扉一つで、ある程度の移動できるらしい。まあつまり、某どこでもなドアだ。

 そうして俺達は福岡に突入し、以前『デザイア』の反応があった場所の半径1キロ内で『デザイア』を探している、が……

「マジでアツい……」

 本当に、本当に暑い。気温これ、35度超えてないか?『デザイア』探すどころの話じゃない。

 俺の手元には『デザイア』を感知するスマホのよつな液晶機器があるものの、それはウンともスンとも言わない。反応してるのは、俺の『デザイア』一つのみ。それ以外は一切なし。

 しかも、この暑さで機器に熱が籠り始め、もう握ってるのも億劫になっている。

 てか、そもそも『デザイア』ってなんなんだよ!?結局、ゲノムは『デザイア』がどんな姿形してるのかも教えてくれなかったし!しらみつぶしで福岡を巡れってか!?それもう観光じゃねぇか!!

「暑さでイライラしてきた……」

「大丈夫かお前……」

 隣を歩く戒刃は額にすら一切汗をかいていない。

「なんで汗かいてないの……?」

「そりゃ()()で体温調節してるからだろ」

 戒刃は専門用語をさも当たり前のように言い放つ。

「命術……ねー」

 しかし、俺にとって命術とは聞き慣れない単語だ。

 命術……座学で習ったけど、いまいちよく分かってないんだよな。魔術・呪術・超能力等の総称らしいけど……

「そうだ。お前はまだ出来ないだろうが、いつか教えてやる」

「今すぐ教えてほしい……」

 戒刃は「また今度な」と言い、涼しい顔で歩く。

「にしても人多いな」

 信号待ちの交差点。暑さを紛らわすために、つまらない感想を漏らすと、戒刃は淡々と答える。

「そうだな。人混み嫌いなんだが」

「逆に好きな奴いる?」

「いるかもだろ。ほら、世の中には足がつるのが好きな奴もいるし」

「それ人間としてカテゴリしたらだめだろ。変態という新しい種族だよ」

 そんなたわいのない話をしていると、隣に大学生ぐらいの男二人が並んで信号待ちに割り込んできた。

「でさァ!!その後1万発出てさァ!!」

 その内の一人はかなり声が大きく、俺も戒刃も肩を揺らしてしまった程だ。しかし、もっと過敏な奴はいる。

「……ひっ!?」

 後ろにいたシロアは、その大きな声につい声を漏らす。その肩の大きな揺れは、背中から伝わる程……というか、

「シロア、歩きにくくない?」

 シロアは福岡に来てから、ずっと俺の服の背中を掴んでいる。歩いている時も、信号待ちでも、ずっと背中を掴んで離れない。RPGゲームの仲間ぐらいぴったりくっついて離れない。

「い、いえ……大丈夫です……」

 シロアは顔を青ざめさせながら答える。

 こうなってしまったのには原因がある。

 シロアはどうやら人混みが苦手らしい。福岡の人の多さに驚いて、真夏なのに真冬ぐらい震えていた。

 あと全然関係ないけど、俺と戒刃はサテライト特性のTシャツを着ているのだが、シロアだけ長袖厚手のパーカーを着ている。しかも、フードを深く被った状態だ。暑くないのかな?

「……もしかして!ご迷惑でしたか……!?」

 シロアはハッとした顔をした後、焦ったように問いかける。

 迷惑ではないけど、単純に心配。

「いや大丈夫だけど……むしろ、シロアは大丈夫?汗もすごいかいてるし、顔色悪いけど……」

「あっ……それは大丈夫……です。ただの寝不足と暑さです……」

 シロアは地面に視線を落とす。

 本当に大丈夫かな……普通に心配だ。

「おい、信号変わるぞ」

 戒刃のその言葉と同時に、周囲の人間が歩き出す。

「歩ける、シロア?」

「は、はい……ごめんなさい……」

 シロアはまるで借金を億円背負った人間の声色で答える。やっぱ大丈夫じゃなさそう……しゃーない。

 俺は信号を渡らず、二人に話しかける。

「……よし!どっかで休憩するか」

「はやくないか?」

「はやいけど、もうすぐ昼だからご飯食べよ。お腹空いた。それに『デザイア』のアテもないし」

「それも……そうか」

 戒刃は納得した様子で腰に手を当てる。

「で?何処行くんだ?」

「何食べたい?」

「湯豆腐」

「この暑さで?」

「暑い日に熱いのが良いだろ」

「冗談じゃないよ」

 暑い日に熱いものは美味しいけど、この暑さで湯豆腐はシンプルに気分じゃない。てか、福岡に来て最初に食べるのが湯豆腐はちょっと……という気持ちがある。俺は湯豆腐を回避する為に、シロアに助けを求める。

「シロアは何か食べたいものある?」

「……なんでも食べます」

 シロアは憔悴しきった顔でそう答える。

 助けは得られず。あと答えになってない。

「……とりあえず、近場で良さそうな所探すか」

 俺達は近くにある飲食店で、昼飯によさそうな場所を物色する。

 しかし、お昼時だからだろうか。周りにある飲食チェーン店はどこも人が多い。

 シロアの事を考えると、あまり人が多くない場所で食事を取った方がいいだろう。その方が、シロアも安心して食べられるはずだ。

「あっち行ってみよう」

 俺は住宅街の方へ指をさす。

「そっち、店なさそうだが?」

「意外とある!多分!」

「不安だ」

 戒刃がそうこぼして約3分後、ある看板を見つける。

「あ、ラーメン屋あんじゃん」

 左手に自然界では中々みないコッテコテの黄色と、『博多ラーメン』と黒色で表記された看板があった。

 看板付近を凝視すると、そこには昔ながらのラーメン屋があった。結構な年月が経っていそうだが、逆に言えば、それだけ長く続いており、地元に愛されているという証拠。そして、福岡は博多ラーメンが有名。

 ラーメン屋に近づいて、扉の前の開店時間表記を見ると、開店が11時30分。そして現在時刻は11時32分。

 扉のガラスから店内を覗くと、カウンターの向こうに店員さん一人だけがおり、それ以外に人はいない。これは天啓!勝ったッ!第3部完!

「ここにしよ!」

 俺はラーメン屋を指差して提案する。すると、二人とも不安そうな顔を浮かべる。

「……ラーメンってなんだ?美味いのか?」

 戒刃は少しの興味と大きな憂慮を抱えた声色で問いかける。

「ラーメン知らないの!?シロアは!?」

 シロアは呼応するように頭を横に振る。

 その反応から、二人がラーメンを食べたことがない、むしろラーメンの存在自体を知らないのは一目瞭然だった。

「うそだろ!?じゃあ尚更食おう!」

 ラーメン食べた事ないとか、マジで人生の5割は損してる!俺は二人から承認を得る前に、引き戸に手をかける。

「まて……まだここにすると決めた訳じゃ……」

 俺は戒刃の言葉を遮るように、ガラガラと音を鳴らしながら引き戸を開ける。

「おい」

 後ろから若干の殺意が混じった反応が聞こえた気がしたが、無視しよう。今振り返ったら多分殺される。

「いらっしゃーせー!!」

 引き戸を開けた瞬間、ラーメン屋特有の肉と油の匂い、エアコンの冷房が良く効いた冷たい風、そして厨房から発せられた元気の良い声が流れ込んでくる。

 厨房から聞こえてきた声の正体は、俺達と同じぐらいの年齢の男だった。

 彼はカウンターの向こうにいても分かるほどの高身長であり、スポーツをしている奴の筋肉のつき方をしていた。そして何よりめっちゃイケメン。彼の短い髪には緑のメッシュが入っており、その髪型と髪色はイケメンの中でも上澄みでしか許されない。俺がやれば魑魅魍魎。彼がやれば天衣無縫。許せん。

「3名様ですか!?」

「あっはい」

 そんな八つ当たりの恨みを持っていることなどお構いなしに、彼は明るく元気に接客をする。その明るさに少しだけ

「どうぞこちらへー!」

 そのイケメンは俺達をスムーズに4人席へ案内する。

 店内はやはり冷房が良く効いている。嗚呼、技術の進歩は素晴らしい。エアコンは神だ。エアコンに宗教があったら多分入信してる。

 案内された4人席は、カウンター側と壁側に席が分かれていた。エアコンの風は壁側の席へ真っ直ぐ伸びていた。

「先、座りな」

 俺は手のひらを上へ向け、シロアと戒刃を壁側に座るよう促す。エアコンの位置的に、壁側の方が直接風が当たるだろう。

「あ、ありがとうございます……」

「どうも」

 シロアと戒刃はそう言いながら、ゆっくりと腰を下ろす。

 俺も呼応するように、カウンター側の席に座る。

「こちら、メニューになります!お決まりになりましたら、お声がけください!」

 イケメンの彼は、慣れた手つきで3人分のメニュー表を机に置く。

「ありがとうございます」

「いえ!!」

 イケメンは爽やかな笑顔で応える。

 すげえ。イケメンは接客ですらイケメンなのか。

「どうも」

 戒刃は淡々とお礼を言う

「…………す」

 シロアはパーカーのフードを被ったまま、深くお辞儀をする。多分「ありがとうございます」と言ったんだろうけど、緊張で声出てなかったな。

「さて……何食べようかな」

 俺はメニュー表を広げる。そこには、王道な博多ラーメンの写真があった。次のページを捲ると、炒飯や餃子、唐揚げなどのサイドメニューも記載されていた。やばい、全部美味そう。

「シロア、何食べる?」

「えっと……その……」

 シロアはオドオドしながら、俺に問いかける。

「暁理さんの……オススメは……?」

「えっ?」

 そんなこと言われても、俺もここ初めて来たんだが……?

「オススメはシンプルな博多ラーメンですねー!ウチの看板メニューです!」

 元気な声と共に、水の入ったコップを3つ机に置かれる。その正体はやはり、イケメンの彼だ。

「あ!がっつりいきたいなら、全部盛りがオススメです!」

 そして、イケメンの彼は俺の隣の椅子を引き、座る。

「あ!あとチャーハンも餃子も美味しいですよ!セットで頼むとお得ですので是非是非!」

「……」

「ん?どうしました?」

「……なぜ隣に?」

「え?」

「いやなぜ座って……?」

 その言葉に、彼は「何の事?」と、とぼけたような顔をしている。いやわかるだろ。

 緑メッシュのイケメンはなぜか厨房に戻らず、俺の隣の席に座っている。しかも、肩がぶつかる程の接近。まるで10年来の親友かのような距離感。顔近っ。顔良っ。

「ダメ……?」

 イケメンは怒られた犬のようにシュンとする。クソッ!イケメンはなにしても映えるな!

「ダメではないけど……」

 戒刃はコップの水を少し飲んだ後、不思議そうに問いかける。

「福岡は客の隣で接客するのが普通なのか?」

「そうなんですよー!」

「しねぇだろ」

 隣のイケメンはあまりにも活発に冗談を放つ……いや、冗談じゃないのか?俺が知らないだけで福岡って一緒に座って接客するの?

「君たちこの店来るの初めてでしょ?17歳ぐらいだよね?旅行?」

 隣に座る彼は、爽やかな笑顔でなめらかに敬語からタメ語に移行する。これは店員と客から同年代の会話に移行したという事だ。というかなんで17歳バレた?怖っ。

「な、なんで分かるの?」

「分かるよ!だって見ない顔だもん」

 彼は困惑している俺達を気にする様子はなく、机に肘をたてながら手のひらをこちらに向ける。

「俺、『槍華(そうが)」』!よろしく!」

 それが俺達と槍華の出会いであり、福岡で起きた『デザイア』による大事件の発端だった。

お読みいただきありがとうございます。

もしかしたら、今年ラストの投稿です。

皆さま、良いお年を。

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