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サイアク  作者: 駄犬
23/31

3-4 戒刃から見た暁理という人間

今回は戒刃視点です。

あと一部、前話の会話が出てきます。決して手抜きではないです。信じてください。

「零奈が死んだ」

 ゲノムさんからそれを聞いても、不思議と驚きはなかった。

 あいつは『デザイア』持ちで誰よりも狙われやすい。

 いくら強いからといって、あいつでも勝てない敵はいる。だから、不思議と驚きはなかった。

「そうですか」

「……戒刃、お前はドライだね」

 乱雑に物が置かれた机の前にある椅子に座るゲノムは、呆れたような顔をこちらに向ける。

 ドライと言われても、それが当たり前なのだ。

 死ぬことも殺されることも日常茶飯事な世界で生きてきた俺にとって、死は悲しい事じゃない。ただ喪失感があるだけ。

 しかし、一つ大問題がある。零奈が殺されたということは『デザイア』を奪われたという事。それは間違いなく大問題だ。

「それで……『デザイア』はどうするんですか?奪い返すんですか?」

 その発言にゲノムはため息を吐いて、ゆっくりと話し始める。

「零奈の『デザイア』を継承した奴を回収した」

「なっ……!?」

 その回答は、予測していなかった別の大問題。

 『デザイア』は世界の理を崩壊させる、最悪の存在だ。

 俺の世界も、『デザイア』によって滅ぼされた。

 しかし、零奈は『デザイア』を上手くコントロール出来ていた。だからこそ、俺は彼女を尊敬していた。

 だが……

「そいつは……誰ですか?」

 零奈から継承された『デザイア』を使う奴が悪人なら殺した方がいい。あの力はそれほど異常な力だ。

 俺の質問に、ゲノムさんは少しだけ眉尻を下げて答えた。

「零奈の幼馴染だよ」

「……あぁ」

 心当たりがある。

「暁理って奴ですか?」

「そ」

 ゲノムさんはあっさりと答える。

 零奈と会話したのは数回程度だ。

 しかし、あいつが自分の話をする時、必ず出てきた人物がいる。彼女の幼馴染で、彼女の親友である『暁理』という人間。

 顔も知らないのに名前を覚えてしまった。それほどに、暁理という人間の話を聞いたのだ。

「そいつが……」

 『なぜ?』という疑問が残るものの、ゲノムさんの話を聞く。

「で、その暁理が零奈の後釜に相応しいか、精査してほしいんだ」

「俺が……?」

「そう。暁理はね、零奈から『デザイア』を継承された後、1日で317人を惨殺してる。しかも、その中の半分以上は軍人だ」

「……暁理は実は雇われの傭兵とかではないんですか?」

「違うよ。マジでただの一般人さ」

 一般人が317人も殺した、か。少し驚いたが、不思議な話じゃない。それほど『デザイア』の力は強大だ。

 しかし、だ。

「……何を精査するんですか?」

 一体、俺が何を精査する必要があるのだろうか。

 そもそもゲノムさんの方が審美眼がある。

「暁理がウチに……サテライトに相応しい人間かどうか精査してほしい。ただし、その精査の方法は勝負で」

 ゲノムさんはペン先をこちらに向ける。

「勝負ですか?」

「うん。内容はなんでもいいよ。ただし、戒刃が勝てば暁理を部下に、暁理が勝てば君が部下になる」

「……はぁ」

 俺が部下に?暁理に?一度も会った事もないのに?

 そもそも俺は今、別の隊に所属している。それはどうするんだ?

「今の隊は抜けるということですか?」

「しょゆこと〜」

 黒いペンの端を持ち、フリフリと振りながらゲノムさんは話を続ける。

「まあとりあえず、彼に会ってみなよ。部下にするも部下になるも、どっちでもいいけど」

 ゲノムさんは席を立ち、長い緑髪を耳にかける。

「彼は『デザイア』に選ばれた人間だ。それも、あの一番()()()『デザイア』にね」

 ゲノムさんはその後、「先、病室行ってくるから後で来てね〜」と言いながら部屋から出ていった。

「……はぁ」

 面倒な事になったが……別にいいか。

 俺はただ、上の命令に従うだけ。

 俺はもう、死んでいるも同然なんだから。


 と……思いながら病室に向かい、暁理を一目見て分かった。

 こいつ、一般人だ。

 兵士でも軍人でも戦士でも傭兵でもない。

 話に聞いていた通り、純正のただの一般人。

 いくら『デザイア』が宿っているからといって、こんな奴が本当に300人以上を殺した?にわかに信じられない。

 本当に『デザイア』が宿ってるとは思えない。

 こいつの部下になるとか普通に嫌なんだが。


 そして今、俺たちは訓練室で精査という名の勝負を行ったのだが……

「いっ……たあああああ!!!!!」

 俺は逆刃刀を暁理に振り下ろすと、暁理はそのまま顔面に逆刃刀を喰らった。そして、流れるように地面に倒れ、のたうち回りながら叫ぶ。

「痛い!!クソ痛いんですけど!?」

「うるさっ……」

 うるせぇなこいつ。喚く元気あるなら刀に反応しろよ。

 しかも、こいつ目の前に敵がいるのに、()()が一切ない。典型的な平和ボケした一般人だ。殺意の出し方も知らないのだろう。

 こいつの部下になるのは死んでも嫌だから、さっさと気絶(とば)すか。

「……」

 しかし、やはりというか、こいつはただの一般人ではなさそうだ。

 逆刃刀とはいえ、人間が刀の形をした鉄の塊を振り下ろされたら、普通は頭蓋骨が割れて死んでいる。しかし、軽い出血程度で止まっているという事は、『デザイア』で身体が強化されてるのだろう。

 しかし、こいつは何故……

「なんで『デザイア』を使わない?」

 俺は純粋な疑問を投げかける。すると、

「えっと……使い方が分かんなくて……」

 暁理は怒られる前の子供のように、気まずそうに答える。

「……チッ」

 身体の芯から、苛立ちが湧き上がる。

 こいつは、何の努力もしていないのに強大な力を得た。

 零奈を見ていたらわかる。『デザイア』は間違いなく、良い意味でも悪い意味でも世界を変えてしまう力がある。

 なんでこいつなんだ。

 俺に宿っていたら、きっと護れた。

 あの時、あの瞬間。

 きっと俺は変わらず、あの世界に、あの場所にいられたのに。

「こんな奴のせいで、零奈は死んだのか」

 それから、俺は暁理に対してひたすら、神経を逆撫でするような言葉を吐いた。

 本当は怒っていない。暁理に対しては怒っていない。

 本当は何に怒っているのか分かっていた。

 だけど、今は目を背けたかった。

 だって理不尽じゃないか。

「それをお前は殺したんだ。お前のせいでな」

 俺にも、大切な人はいたのに。


 数秒、沈黙が続いた。

 暁理は顔を床に向けたまま動かない。

 この後、暁理は激情に身を任せて俺に向かってくるのか。それとも、現実に絶望して動けなくなるのか。

 どちらであろうと、斬る。

 そう思いながら、暁理の解答を待ち、さらに数秒後。

 暁理はゆっくりと顔を上げ、口を開く。

「……そうだな」

 握った刀が指から溢れ落ちそうになる。

「その通りだ」

 暁理のその眼には、怒りも悲しみも込められていた。

 けれど、その感情は全て俺に向けたものではないと瞬時に理解する。

「……反論はないのか?」

「だって嘘でしょ?その言葉……本心から俺に向けた言葉じゃないでしょ?」

 見透かされていた。

 俺の怒りも八つ当たりも、全てを見透かされていた。

「俺に発破かける為に、わざと煽ったんでしょ?」

 なんなんだこいつは。

 戦士でも兵士でもない。平和ボケした、一般人だろ。

 なのにどうして、見透かされた?

「……分かるのか?」

 無理矢理捻り出した言葉に、暁理はどこか哀しそうな顔をして答える。

「うん。本気で人に悪意を向ける人の顔は、そんな真剣じゃないよ」

 そう言うと、暁理はゆっくりと立ち上がり、()()のような笑顔を浮かべる。

「良い奴だな、あんた」

 その笑顔で、零奈と暁理の面影が確かに重なった。

 瞬間、理解する。

 零奈の『デザイア』がどうして暁理を選んだのかを。

「逆刃刀じゃなく、真剣で来い」

 暁理はゆっくりと瞼を閉じながら、言葉を放つ。

「ッ……!?」

 身体の奥から、身の毛がよだつような感情が噴火のように湧き上がる。

 逆刃刀を鞘に納め、真剣を抜く。

 病室のベッドにいた時も、逆刃刀を振り下ろした時も無かった()()()()

 それが、暁理を埋め尽くしていく。

「殺してやるから」

 暁理がその言葉を吐いた瞬間、目の前の暁理は殺意に満ちていた。四肢が『黒い鎧』に纏われ、『赫い焔』が放出される。

 それは間違いない戦闘体制。そして、俺の一挙手一投足が死に直結する程の隙のなさ。

 手の中にある刀がまともに握れない。

 目の前の殺意に怯えることしか出来ない。

 そんな時だった。

 ───ブゥンと音が鳴ると同時に、暁理の右手が俺の心臓へ迫っていた。

「ッ!?」

 暁理の右手は黒い鎧と赫い焔に纏われていた。

 暁理の両足も黒い鎧と赫い焔に纏われていたが、赫い焔は逆噴射をして推進力の役割を担っていた。

 焔と鎧、そしてその動きは間違いなく、俺の心臓を撃ち抜く為の動作だった。

 これが『デザイア』の力。

 直撃すれば、間違いなく死。

 俺は指からこぼれ落ちそうだった真剣を握り直し、暁理に斬りかかる。そして、

 ───ザシュッ!!

 ───バキッッ!!

 二つの衝撃と轟音が部屋に響き渡る。

 そして、

「ガハッ……」

「ッア……」

 両者、後退りをして立ち尽くす。

 目の前にいる暁理の身体は、上半身から斜めに切れ込みが入っており、そこから赤い血がダラダラと流れ落ちていた。

 一方で、俺の身体は右脇腹を拳で抉り取られ、そこから血液と内臓が溢れ落ちていた。

 そして何より、俺の刀は刀身の殆どを失っていた。

「ヴッ……」

 俺と暁理は、身体中を駆け巡る激痛に耐えきれず、流れ落ちるように地面に倒れる。

「ッ……ァ……」

 地面に倒れた俺は、何が起きたか冷静に思い出す。


 先手を取ったのは俺だ。

 先に俺の刀が暁理を斬り裂いた。

 その後、俺はそのまま暁理を袈裟斬りにしようとした。

 しかし、暁理は斬られている事を無視して、真っ直ぐにその拳を俺に向けた。

 その拳は俺の刀を折り、そのまま俺の身体を抉った。

 幸いな事に、刀を折った際の衝撃で拳の軌道が変わり、心臓ではなく横腹を貫く事になった。


 そして、この勝負の決着は生死ではない。

 俺の刀を折るかどうかだ。

 

 つまりまあ、情けない話だが。

「……クソッ」

 俺の負けだ。

お読みいただきありがとうございます。

風邪でも出勤しなければならないこんな世の中じゃPOISON

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