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サイアク  作者: 駄犬
19/32

2.5 回収

「ゲノムさん、契約をしましょう」

 数年前、初めて彼女に会った日。

 安倍晴明の末裔が皆殺しにされたあの日。

 畏怖すべき、嫌悪すべきである『デザイア』を所有した少女、零奈と出会った日。

 彼女が契約を持ちかけてきた時の事を思い出していた。

「あーあ……ほんとにこうなるとは……」

 零奈が死んで数日が経った。

 上には満天の星。下には果てしない草原。

 目の前には、3,000年以上前に建造されたであろう廃棄場。

 自動ドアも監視カメラもセンサーも無い。時代遅れも甚だしい。そんな、3,000年以上前の建物がまだ残っているのは奇跡に近いように思える。

 しかし、この廃棄場は建造の際に魔術的・呪術的な術式が組み込まれている。その為、老朽化は進めど、未だこのような形を保っているのだろう。

 だからといって、こんな廃棄場を使っていた奴等の気が知れない。この建物を使っていた組織には、それだけ資金も立場も余裕も無かったのだろう。

 そんな組織に請負した奴等もかなり頭がおかしいと思うが。

「お邪魔しまーす」

 おちゃらけながら建物の中に入ると、劈くような血の匂いが、私の脳髄を刺激する。

 経験で分かる。この奥には死体がある。それも、ついさっき死んだものが複数。この異世界の人間は、天災により約2,600年前に絶滅している。だから、新鮮な死体がある事はおかしい。

「……いた」

 数秒歩いた後、廊下にそれは転がっていた。

 この建物を、廃棄場を意気揚々と使っていたであろう人間達の死体が。

「あーあー……ひっどいなこりゃ……」

 人の形を忘れた肉塊が床に転がり、削り取られた肉片と飛び出した内臓が、赤黒い液体に染まりながら壁にこびりついている。遠くを見れば、そんな最悪なレッドカーペットが延々と続いていた。

「こりゃもう生存者いないな……」

 私はそう呟いて、建物を後にする。

 殺された彼等に安らかな眠りがある事を願う一方、自業自得だという気持ちもある。

 こいつらは死体の流用だけでなく、人身売買、誘拐ビジネスなど、人体に関わる悪行を成してきた。当然、その悪行に誠実な手段は選ばれない。遅かれ早かれこうなる未来だった。

 問題は、このクズ等を皆殺しにした奴がいること。

 私は遠方にいる二人の生命の気配を感じ取り、そこへ向かって足を動かしながら、あの日の零奈を思い出す。


「私はあなた達の組織の為に命を賭けます」

 それは、私が零奈と初めて会った日に言われたこと。

「戦闘でも防衛でも人体実験でも、なんでもやります。私はあなた達の手となり足となり、全ての命令に従います」

 彼女が放つ言葉は凍えるように冷たい。彼女の眼には冷血そのもので、光なんて灯っていない。

「ただし、私が死んだ時に叶えてほしい願いが二つあります。それが契約条件です」

 零奈は指を二本立てて、脅迫するように言葉を並べる。

「一つ、私のデザイアは必ず回収してください。それと、もう一つは……」

 彼女は言葉を詰まらせた。

 下唇を噛み、握られた手は凍えるように震えていた。

 そして、零奈は首を絞められているような声で願いを述べた。

「もう一つは……」

 その願いはあまりにも馬鹿みたいで、子供じみてて、彼女の全てだった。

 だから必ず叶えると答えてしまった。

 その願いが叶うという事を、死んだ彼女が観測する事はないというのに。


 そして私は今、彼女の願いを叶える為に、こんな辺境の異世界にいる。

 しかし、これも運命というものなのだろうか。

 私は意図せず、零奈の二つの願いを叶えてしまう。

「……いた」

 夜の草原で、二人の生命が倒れている。

 一人は傷だらけ血塗れの黒髪の青年。

 もう一人は見窄らしい外套を着た、傷一つない白髪の少女。

 二人は草原の上で、手を握りながら眠っていた。この状況からして、二人とも体力の限界による気絶だろう。

 しかし、青年の方はいつ事切れてもおかしくないぐらいにボロボロであった。

 そんな死にかけの青年は、白髪の少女を護るように、庇うように覆い被さっていた。

「こいつが……」

 死にかけの青年が、傷ついていない人間を護る。

 この光景で、彼がどのような人間か少しだけ理解した。

 私は彼等の現状に少しだけ気圧されたが、同時に納得してしまった。

 誰があの廃棄場にいた人間達を鏖殺したのか。

 その犯人が誰なのか。どうやって殺したのか。

 その答えは、全て彼の中にあった。

「マジか……」

 彼の身体には、零奈の一つ目の願いが埋め込まれていた。

 零奈は託したのか、呪ったのか、願ったのか。

 その真意はもう分からない。

 でも、零奈が彼を傷つける為にこんな事はしないはず。

 零奈は彼を護る為に、彼に力を与えた。

 その力で、彼は廃棄場の人間達を皆殺しにしたんだ。

 肯定されるべきではない。否定されるべき存在。

 私達の責務に則るなら、今すぐこいつは殺すべきだ。

 でも、これは契約だから。

「……よし」

 契約の条件。二つ目の願い。

 それは「正道暁理の生命保障」だ。

 私はその日、零奈の『デザイア』と正道暁理を。

 そして、彼が命を賭けて護ろうとした白髪の少女を回収した。

お読みいただきありがとうございます。

これ割り込み投稿なんですが、絶対最初からあるべき話ですよね。すみません。

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