表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイアク  作者: 駄犬
17/32

2-8 私の名前は

今回だけ趣向を変えてみました。

専門用語が出てきますが、話の本筋には関係ないので特に気にしないでください。そういうノリです。

 私の名前は『グリンア・デメア』

 『高貴な傑物』という意味を持つ。

 私の身体は人型であり緑色の肌と4本の腕を持つ。

 種族名は『デムグリア』であり、人間のカテゴリーに属している。

 しかし、私が生まれた世界では人間ではなく、悪魔と同種として扱われた。

 肌が緑色であるだけで、腕が4本であるだけで、人間としては扱われなかった。

 差別された。冷遇された。迫害された。

 一番苦しかったのは、妹を目の前で甚振られた後に殺された事。

 この姿として生まれただけで、どうしてこんなに苦しまなければならないのか。理解ができなかった。

 私は何年も世界を練り歩いた。

 心の平穏を迎え入れる事が出来る場所を見つける為。

 ただ、幸せを望んでいた。

 

 そして、ある世界に辿り着いた。

 そこは私の種族名である『デムグリア』が普通に生活している世界だった。

 差別も冷遇も迫害も無い。

 私の幸せは此処にあると、そう確信した。

 

 数年が経った。

 職を得た。友を得た。

 妻ができた。娘ができた。

 私の幸せは此処にある。この世界にある。

 だから護りたい。大切な人たちを護りたい。

 その為だったら、どんな汚れ仕事だって構わない。

 かつて私を差別した種族達の死体を運ぶ事も厭わない。

 娘と同じ年齢の女の子が家畜として扱われていても構わない。

 そう思いこの船に乗って5年が経ったある日だった。


 それは、家畜が生きた人間を檻に匿っていたと発覚し、少し騒ぎになったその日だった。

 私は部屋にいる同僚3人と『誰が殺しにいくか』という、たわいのない話をしていた。

 同僚3人とも、私を差別しない善人達だ。

 この人たちと共に働ける事を、敵を倒せる事を誇りにすら思っていた。そして、同僚3人と共に武器を装備して、いざ向かおうとした。

 

 そんな時だった。


 ────ギイッ……

「ん?」

 扉が開いた。

 誰も手すりに手をかけていないのに、勝手にドアが開いた。誰か来たのか?そう思う暇もなく、俺たちはドアの方向へ顔を向けた。


 ────バンッ


 無機質な音が部屋に響く。


 同僚の頭が弾ける。

 

「えっ」

 肉と脳味噌と眼球と歯と血が、子供がこぼしたジュースのように落ちる。

 その現実を脳にインプットした瞬間に、理解する。

 

 ────敵襲だと。


「ッ……!」

 私は手元にある銃火器を4本の手で持ち、ドアの向こうに向けようとした。

 その瞬間には、残された二人の同僚は既に殺されていた。

 片方の同僚は『赫い焔』で焼き尽くされており、もう片方の同僚は首から頭が切断されていた。


 私はどこにいるかも分からない犯人に、銃を向け発砲しようとした。しかし、出来なかった。その瞬間には、私の手から銃は離れていたから。

 いや、違う。

 私の手が()()()()()()()()()()()

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」

 4本の手。その全てが均等に切断されていた。

 銃火器と4本の緑色の手と血。それが子供が散らかしたおもちゃのように床に転がる。

「グァッ……」

 何処かに敵がいる。敵を捕捉すら出来ていないのにも関わらず、こちらは既にに手を失っている。一刻も早く敵を捕捉し、排除しなければならない。

 しかし、()()()()()()()()が、私の行動を阻害した。敵の捕捉など出来なかった。

 この流れてくる激痛に悶えるしか出来なかった。

 瞬間、ドンッと胸に衝撃が疾る。

「ッ……」

 気がつくと、私は床に押し倒されていた。

 胸には痺れるような痛みが疾り、それが目の前の現実を鮮明に映し出す。

 

 そこにいたのは、ただの黒髪の少年。

 娘と歳が近い、なんてことのない普通の少年だった。

 しかし、彼の状況は普通とはかけ離れたものだった。


 その右手は黒く染まった鎧を纏いながら()()()を放出しており、左手は()のような形に()()していた。

 そしてなにより、彼の身体は血を入れた鍋をひっくり返したのかと思う程に、返り血塗れであった。

 その姿で瞬時に理解する。こいつが敵だと。

 同僚を殺した敵だと理解した。

「ッ……!」

 許せなかった。

 優しくて頼りのある同僚を殺した事。

 しかし、最も許せなかったのはそこではない。

 ()()()()()()()()()()()()()が、私を()()()()()()こと。

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!」

 許せなかった。許すわけがなかった。

 私は必死に身体を起こそうとする。

 しかし、男は右手で私の身体を抑えながら、左手の変形した剣を躊躇する事なく私の胸に刺した。

「アガァッ……!!」

 胸から激流のような鋭い痛みが流れ込んでくる。

 私の身体を抑える彼の右手からは、肉が焦げるような匂いと痛みが全身に伝わる。

 それは私の死を連想させるには、十分すぎる程の痛みだった。

「死ねないッ……」

 それは、無意識に出た意思だった。

 魂からの叫びであり、私の確かな願いだった。

「頼むッ……」

 私は目の前にいる男に懇願する。

「私にはッ!!妻がッ!!娘がいるんだッ!!」

 必死に懇願する。妹が目の前で殺されたあの時ですら、こんなに懇願する事ななかった。

「死ねない……!!死にたくないんだッ!!」

 同僚を殺した種族に、私を迫害し続けた種族に、私は一心不乱に懇願する。

 しかし、男はまるで聞こえていないように、私の身体にさらに剣を深く刺し込む。

「ガッッ……!?」

 痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。

 頭が締め付けられる。眼球が飛び出そうになる。

 それほどの激痛と憤怒が、身体中を駆け巡った。

「ふざけるな()()()がッ!!お前達は悪だッ!!」

 血を怒りを敵に吐く。必死の抵抗のように吐き出す。

「お前達のせいで妹が死んだ!!仲間が死んだ!!穢らわしいッ!!許さないッ!!私は絶対にお前達を許さないッ!!絶対に呪い殺してやるッ!!」

 それは火事場の馬鹿力のように、輝く程に部屋中に響き渡った。この男に後悔させるために。一つでもなにか傷を残せるように。いつかこの瞬間を思い出して、眠ることすら出来なくさせるために。

 そんな陰湿な願いが、咆哮のように吐き出される。

 

「そうか」


 氷が落ちたように感じた。

 目の前の男が吐き出した声は、あまりに冷たく、淡々としていた。血が通っていない、まるで人間ではない別の存在かのように、その声には熱など籠っていなかった。

 それだけで、私の主張など一切響いてないことを理解する。


 男は赫い焔を纏った右手で私の頭を掴む。

 焼けるような痛みと、五指から潰されそうな程の力を認識する。

 頭が焼ける。頭が潰される。

 しかし、叫ぶ事などしなかった。出来なかった。

 目の前を覆う赫い焔。

 そのゆらめく焔の隙間から見えた彼は笑みを浮かべる事もなく、その眼は命がある生物とは思えない程、酷く冷え切っていた。


「殊勝なことだな」


 その言葉を最後に、私の()()は終わりを告げた。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ