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サイアク  作者: 駄犬
15/32

2-6 目を瞑る

「そういえばさ、なんで俺を死体置き場から連れてきたの?」

 初めてこの船で目覚めてから、五回目の朝が来た。

 毎日定時に肥やされた動物達が肉を削り取られ、毎日定刻にシロアは連れて行かれる。

 そんな光景を小部屋から四回眺め、本日五回目が行われる予定だ。そんな日に、俺はシロアにふと思いついた疑問を投げかける。

「ゔぅ……」

 しかし、大した疑問ではないはずなのに、なぜか彼女は冷や汗を流しながらうめき声をあげた。

「別にやましい事がある訳ではないんだろ?」

「えっ、いやっ、はっ」

「……やましいことあるの?」

「あっ、いえ!」

 シロアは両手を振り、やましいことはないと否定する。

「それで、なんで俺をここへ連れてきたの?」

 再び疑問をシロアに投げかけると、彼女はなぜか怯えながら言葉を発する。

「……暁理さんが、生きてたからです」

 その答えは、あまりにも拍子抜けだった。

「それだけ?」

「はい……あのままだと、死体置き場の死体は焼却処分されます。ですが、暁理さんは生きていました。なので、こちらへ連れてきました……」

 シロアはビクビクと怯えながら語る。その姿は、裁判中の容疑者のようだった。

「うーん……」

 焼却処分……違和感が頭を離れない。

 その回答なら尚更おかしい。

「……生きてたからって、わざわざここまで連れて帰る?デメリットしか無いような……」

「えっ」

 シロアは驚いたような表情をしているが、その表情にとぼけているのかと思ってしまう。

 そう。シロアが俺をここに連れてくる事はデメリットしかない筈だ。

「だってさ、もし俺のことがバレたら、シロアめっちゃ怒られそうじゃない?怒られるどころの騒ぎじゃないかもだけど」

 怒られるだけならいい。俺は本来廃棄される筈だった。それならば、現状がバレた瞬間に俺は殺処分されるのでは?そして、シロアは相応の罰を受けるのでは?そんな想像が頭を巡る。

「それは……はい……」

 しかし、彼女は怒られた小動物のようにシュンと身体を縮こませるだけで、理由を答えることはしない。まあ別に、本気で聞きたい訳ではないが……

「ごめん、責めてる訳じゃないんだ。ただ、理由を知りたくて……」

 そんな顔をされたら、少し申し訳なくなる。

 そんな事を考えていると、彼女は何かを決心したように言葉を発する。

「実は……」

 ───バンッ!!!

「「!?」」

 シロアの言葉を掻き消すように、ドアが蹴破られた鋭く大きい音が響く。その音が、家畜部屋のドアの音だという事を、俺もシロアも瞬時に理解する。

「やばっ……」

 瞬間、すぐにでもトイレに隠れなければならないという目的意識がアラートのように脳内に響く。

「暁理さんっ……かく───」

「止まれクズ共」

 それは、俺でもシロアでもない。第三者の人間の言葉だった。

 鉄格子の向こうへ顔を向けると、そこには人間がいた。無精髭を生やし、腰に銃火器を備えた中年男性。その顔には確かな怒りと蔑み。その言葉と態度、それだけで俺の存在がこいつらにバレた事を理解する。

「おい、こいつ誰だ?」

 中年男の問いは俺に向けたものではなく、シロアに向けたものなのは火を見るより明らかだった。

「おい、返事しろ!!」

 男の叫び声が家畜部屋に響き渡る。

「あのっ……そのっ……」

 シロアは肩を震わせながら、小さな声で理由を必死に述べようとする。しかし、言葉が続かない。それが恐怖から来るものなのは、部外者の俺でも理解できた。

「はぁ……」

 男が呆れたようなため息をつくと、檻の鍵を開ける。

「なっ……」

 シロアが驚く暇もなく、男は檻の中に勢いよく入ってくる。

 そして、腰に備え付けられた銃火器を取り出して、俺に向ける。

「死ね」

 ───パンッと激しく鋭い音が鳴る。

 その行動に俺は何も動けなかった。

 零奈が俺を護ってくれていたあの時のように。

 俺はまた、何もできなかった。

 そして、そのまま俺の眉間を撃ち抜かれた。

 その筈だった。

「ゔぐっ……」

「……え」

 銃弾が俺の眉間に届くことはなかった。

 代わりに届いたのは、シロアの肩だった。

 起こった現実を羅列するならば、シロアは俺を庇った。それだけだった。

「シロアッ……!?」

 無意識に叫びが漏れる。

 しかし、そんなものがシロアの傷を癒すはずもなく、シロアは悶えたまま地面に倒れる。

 シロアの肩から流れる血が牧草を赤く染め上げる。

「あのっ……!」

 俺は攻撃をやめてもらうよう、無精髭に訴えようとした。

 しかし、次の瞬間。

 ───バンッバンッバンッ!!!

 シロアの身体に、三発の鉛が打ち込まれた。

「あ゙あ゙っ……!」

 シロアが着ていた外套には穴が空き、そこから綺麗な程赤い液体が大量に漏れ出していた。

「シロア!シロア!」

 俺はシロアに駆け寄る。

 心臓付近と首と腹、そして肩。

 計4箇所に小さな穴が出来ており、一切の例外なく赤い血が吹き出していた。

「クソッ……」

 俺はシロアの止血を考えていた。シロアの命を繋ぐ為に。何をするべきか考えていた。

 しかし、その思考は男の発言で停止する。

「おい、なにしてんだ」

 男は淡々とシロアを蔑むような声色で言葉を発する。


「───さっさと再生しろよ」


「え」

 再生。再生?

 その言葉を聞いて、無意識に檻の向こうにいる牛へ勢いよく目線を向けた。牛は相変わらず惰眠を貪っている。しかし、その床は赤黒い血で染まっていた。

「あ」

 最悪な推理が頭に浮かぶ。

 違う。既にあった推理が脳の中心を侵食する。

 この家畜部屋にいる生物は例外なく()()する。

 しかし、俺はまだその光景を見ていない生物がいる。

 その生物に目線を落とす。

 そこには、予想していた最悪があった。


「うぐっ……」

 呻き声を上げるシロアの身体からは、血は止まっており、外套の穴からは白い肌が見えていた。

 そこに傷など一つもない。傷つけられた後など一つもない。


 つまり、シロアは()()したのだ。

 

「再生……」

 理解する。シロアが人間ではないと。

 あの牛達と同じように、家畜であると。再生する異常生物であると。

「作り物のくせにこんなくだらないことしやがって……」

 俺の混乱を他所に、中年男性は悪意を剥き出しにしながらシロアの身体を踏む。

「あー……これはお仕置きだな」

 その言葉と同時に、中年男性は俺に銃を向ける。

「かわいそうにな。こいつのせいで死ぬんだから」

 その言葉は、俺に向けた言葉だった。

 しかし、それが上っ面の哀れみなのも瞬時に理解した。

 それに苛立ちを覚えるよりも早く、再びバンッと激しく鋭い音が響く。

「───」

 俺はその音が鳴ると同時に、反射的に目を閉じた。

 何も考える事もせず、何も願う事もせず、ただ閉じた。

 暗闇の中、抵抗する事なく死を待った。


「───になってね」


 銃弾の中に微かに聞こえた気がした。

 貴方の最後の言葉が、聞こえた気がしたんだ。

お読みいただきありがとうございます。

今回短くてすみません。

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