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サイアク  作者: 駄犬
11/31

2-2 檻の中で

 右手に小さな温もりが絡まる。

 この温もりが貴方のものかと錯覚する。

 でも、聞こえない。

 貴方の声が聞こえない。

 聞こえるのはカタカタと回る換気扇の音。

 草と鉄と何かが擦れる音。

 そして、微かな誰かの寝息。

 たったそれだけのこと。

 けれど、それは夢から覚めるには十分すぎる程の違和感だった。

 

「……ん」

 かすれた視界に始めに映ったのは鉄の天井。

 目線を左に向けると、そこには鉄の檻。

 目線を右に向けると、そこにはフードを被った()()()()()

「……」

 床につくほど長くふわりとした白髪を持つ彼女は、赤黒いシミで染まったボロボロの外套を身にまとい、靴も履いていない。外套のフードを被って眠る彼女は、路上生活者のように見えてしまう程に、見窄らしいという言葉があまりに似合う格好をしていた。

 そしてなぜか、彼女は体育座りで眠りながら、俺の右手を握っていた。微かな温かさの正体はこれかと理解する。しかし、この行動の意味も理由も分からない。

 そんな彼女を見ながら、脳みそが1秒毎に1%ずつ覚醒する。

 違和感と異常性が、既に壊れた筈の脳を回転させる。

 そして、脳が最低限の能力を発揮させるレベルまで回った瞬間、閃光のように彼女の事を思い出す。


 ────零奈


 反射的に飛び起きる。その拍子にいつの間にか被されていた薄く小汚い毛布が、少しだけふわりと宙に舞った。

 そんな事はお構いなしに、衝動的に彼女の名前を叫ぼうとする。

「れっ────」

 瞬間、喉が細い刺されたかのような痛みが疾る。

「ガハッ……!ハッ……!」

 理解する。

 この痛みは喉の渇きによるものだと。

 咳き込みをしながら、必死に頭を回す。

 俺は何日寝ていた?零奈は何処だ?

「ガハッ……!」

 今は何日だ?零奈は何処だ?

「ゲホッ……!」

 ここは何処だ?零奈は何処だ?

「ゲホッ、ゲホッッ!!」

 違う。そんな事考えても無駄だ。

 

 ───零奈は殺された


 咳き込みが止まる。

 そうだ、殺されたよな。

 俺を護る為に、あの氷の男に目の前で殺されたよな。

「あ」

 目から一滴の雫が零れ落ちる。

 身体そのものがどこかに消えてしまったかのような喪失感。

「……」

 しかし、目からはそれ以上の雫は零れ落ちる事はなかった。その理由も原因も分からない。けれど、これだけは確信する。

 俺にはもう、何も残ってない事を。

 

「ぁっ……」

 か細い声と同時に、右手に綿のような刺激が伝わる。

 それが手を再び握られた事だと理解するには時間を要した。

 俺はゆっくりと右へ顔を向ける。

 そこには、赤い目をした白髪の少女がいた。

「……あ、あ、あの……」

 眠りから覚めた彼女は赤い目に白く長いまつ毛、小さな口に幼さを捨てきれていない整えられた顔立ち。その姿はまるで怯えた白うさぎを連想させた。

「……なに?」

 その言葉に彼女は大きく肩を揺らす。

 そして、露骨に怯えながらゆっくりと口を開く。

「……大、丈夫、です……か」

 それは、彼女なりの気遣いだったんだろう。

 しかし、俺はその言葉に酷い苛立ちを覚えた。

 大切な幼馴染が死んで、大丈夫な訳あるか。

 そう思ってしまって、俺は最低最悪な八つ当たりをしてしまう。

「……知るかよ」

 俺は彼女の手を払い、拒絶するように立ちあがろうとする。

「ッ……!?」

 瞬間、子供の手から離された玩具のように膝から崩れ落ちる。

 身体に力が入らない。あまりにも入らない。

「あっ……ダメですッ……!」

 彼女は俺の元に駆け寄り、背中をさすりながら身体を案じてくれる。

「うる、さい……」

 しかし、必死に彼女の優しさに抵抗しようとする。

 意味のない意地が心の奥底から湧き上がってしまう。

 そんな時だった。

 ガチャッ……と遠くから扉が開く音がする。

「ッ……」

 その音を聞いた白髪の少女は途端に顔を青ざめる。そして、切羽詰まるような顔で、部屋の隅にある小さな部屋に俺を押し込もうとする。

「なッ……!?」

 押し込まれた小部屋には、床に小さな凹みと蛇口があった。恐らく、ここはトイレだ。そんな所に押し込んだ事に更なる苛立ちを覚えたが、彼女は俺を小部屋もといトイレに押し込んだ後、小さな声で言う。

「隠れて、ください……!」

 そうして彼女は檻の真ん中に戻り、一人しかいないことを主張していた。

 理由も分からず姿を隠すことになった俺は、トイレの壁から少し身体を乗り出し、外の様子を伺う。

 

 瞬間、やっと気がついた。俺たちの現状を。

 

「え……」

 俺たちがいるのは、典型的な牢屋。檻の中だ。

 そして、檻の先にいるのは牛・豚・鳥・羊・龍・一つ目の化け物・目が無い化け物。そして、その全てが例外なく()()の形をしていた。

 足や尻尾は肉に覆われており見えない。目や口まで肉に覆われており、辛うじて顔と思われる箇所を認識できるほど、露悪的に肥やされている。

「なんだよ……あれ……」

 その光景を見て、露骨に動揺してしまう。

 こんな異常な光景がこんな近くにあったのに、なんで気がつかなかった?動揺してるのか?視野が狭窄してるのか?

 そんな事を考えていると、ギィィィと扉が開く音がする。

「よし。やるぞ」

「はい」

「はい」

 3人の人間らしき声が聞こえる。

 トイレの壁に隠れながら牢屋の向こうを凝視すると、そこには人間らしき生命が3体。

 1人は短い黒髪の30代ぐらいの片目が無い男。

 1人は肌が緑色で4本の腕を持つ人間。

 1人は大きな四角形の機械を持った3m以上の背丈を持つ、角を生やした男。

 異様な光景ではあったが、精神は酷く落ち着いていた。声を荒げる事も無く、衝撃により動揺する事も無い。

 ただただ、起きる現実を受け止める事が出来た。

「おし。そっち持て」

「はい」

 隻眼の男が緑の人間に指示をする。緑の男が4本の腕で牛の身体を掴むと、角を生やした巨漢は四角形の機械を牛に押し付ける。

 瞬間、ザシュッと音が鳴る。

「……」

 血が滴り落ちる。敷かれた草と鉄の床を血で染める。

 巨漢が持つ四角形の機械の中には、牛の肉がびっちりと詰まっていた。

 恐らくあれは、牛の肉を取り出す機械のようだ。

 牛は悲鳴を上げる事も無く、ただただ自分の肉が削られるのを待っていた。

 角を生やした巨漢は隻眼の男が持つ袋に肉を入れると、再び牛を四角形の機械で削る。

 その光景の()()()を、俺はただただ眺めることしかできなかった。

 そして、丁度12回目の音が鳴った後。

「よし、いくぞ」

「はい」

「はい」

 3人の人間達はその言葉を最後に、部屋を後にする。


 あれから何分経っただろうか。

 呆然と牢屋の向こうを眺めていると、毛布が少しだけ上がり、視界が広がる。

「……もう、大丈夫……です」

 檻の真ん中で、俺の方を向きながら白髪の少女は、どこか申し訳なさそうに言う。

「……」

 俺は広がった視界の先にある異常を捉える。

 異常……それは()()()()()

 牛の身体には、()()も無い。()()なのだ。

 あの牛は肉を削られた後、即座に再生した。まるで全て無かったかのように。

 しかも、自身の肉を削られた当の本人である牛は、草や床は牛の血でぐちゃぐちゃなのに、何も無かったかのように惰眠を貪っている。異常。異常すぎる。

「……クソッ」

 本能的に頭を抱える。

 零奈が死んだ事ですら脳がもう限界を超えているのに、牢屋に閉じ込められている現状や再生する牛のせいで、さらに頭が混乱する。

「あっ、あの……」

 その声に反応して、俺は顔を少しだけ上げる。

 当然、そこにいるのは白髪の少女。

 彼女はこちらを心配する顔をしながら、俺の様子を伺っている。

 そんな彼女の顔を見ながら、俺は脳を回転させて一つの質問を投げかける。

「……ここは?」

 そもそもここが何処なのか。

 それを知らないとまともな話もできない。

「えっ、あっ、はい」

 彼女は少し呂律が回らない状態で、焦りながらゆっくりと答える。

「ここは……家畜部屋です」

「……家畜?」

「……はい」

 彼女は少し悲しそうな顔で答える。

 瞬間、嫌というほどに頭が回ってしまう。

 彼女の言葉を信じるならば、ここは家畜部屋。

 そして、そんな場所に彼女はここにいる。

 人間が与えられるべきではない服装。靴すら与えられていない現状。

 混乱する頭でも、単純な事はわかるみたいだ。

「……君も?」

 その言葉を聞いた彼女は大きく肩を揺らした後、なにかを諦めたような顔で答える。

「……はい」

 彼女は唾を飲み込み、ゆっくりと断言する。

「私も……家畜です」

お読みいただきありがとうございます。

投稿遅くなり、申し訳ございません。クソ残業しました。

今回、過去一執筆に苦戦しました。

そのくせ、地の文多い上に回りくどい表現ばっかりですね。反省です。いつか修正するかもです。

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