2話 原因
この学校に来た最初の頃は嫌がらせを受けていなかった。けど、私にシラズ・ルナという従妹がいることをイレーヌさん含め教室中の皆が知ったことがきっかけだった。
自己紹介の時にシラズ・ユウと名乗った瞬間、驚いた顔でこっちを見てくる人や戸惑っている様子の人がいたりでどよめいてる教室の中イレーヌさんが確認をするようにルナの姉か聞いてきた。
姉……と言っていいか分からなかったけどか細い声で「はい」と答えると教室中の人たちから質問攻めにあった。
私が人見知りなのもあって固まっていると、教師が流石に騒がしいと思ったのか一旦その場を収めた。
一通り自己紹介などが終わって休み時間に入ると私を囲うように人が集まってきた。理由は勿論ルナのことについてだ。
「小さい時はどんな感じだったの?」「好きなものとかってあるの?」「苦手なものとかことってある?」「普段はどんな感じなの?」……聞かれたことに対して私は分からないとしか言えなかった。
小さい時のことや好きなもの、苦手なことを聞かれても叔母の家に引き取られてすぐに嫌われて距離を置かれて一緒にいることも話したりすることもほぼなかった。
離れて暮らしてるからルナが普段どんなことをしてるかも分からない。
場の雰囲気がかなり気まずくなって、ここから一刻も早く抜け出したいと思い、ルナとは仲良くないことを集まってきた人達に伝えた。
集まってきた人達に申し訳ないと思いながらも、これでここから抜け出せると一安心していた。
「なんだ、仲良くないんだ……もしかして嫌われてる?」
がっかりした様子で席に戻っていく人が多い中、イレーヌさんが聞いてきた。
いきなりの質問に少し驚きつつも「はい」と答えた。
「え! 嫌われてんの? なんで? なんかしたの?」
イレーヌさんの友達の一人が続けざまに聞いてきたが、この問いかけにも分からないとしか言えずにいた。
嫌われてる理由……突然家に来て今日から姉だと言われた人が何も出来ない役立たずだったから……色々考えはしたけど結局答えは見つからなかった。
「はぁ……何も分かんないじゃん、せっかくあのルナの話を聞けると思って期待してたのに」
「仕方ないよ、嫌われてんだから」
「そろそろ授業始まるし戻ろう、ここにいても分からないしか言われないし」
「確かに、戻るか」
「時間の無駄だったね」
不満気にイレーヌさんと友達たちが席に戻っていった。ここからだった、嫌がらせを受けるようになったのは。
私の成績が悪かったり、魔力の量が同年代の人達よりも少なかったりで落ちこぼれと言われるようになって嫌がらせが酷くなっていき、とある日のことを境にさらに悪化していった。
嫌がらせを受けても何もすることが出来ずただ泣くのを堪えてる日々が続いてたある日のことだった。
いつよのように憂鬱な気持ちで学校に行くと一人の生徒の周りにイレーヌさん達が集まっていた。
ぱっと見だけだったら楽しそうに集まって話している状況だった。けど、聞こえてくる言葉がその状況には似合わない言葉だった。
「ごめんねー最近ミアと遊んであげられなくて、新しい玩具が来たからそっちで遊びっぱなしで」
「ありがとうございますは? 誰も友達がいないあんたに構ってあげてんだから」
「あ、ありがとうございます……」
「良く言えたね、はいこれご褒美」
そう言って差し出されていたのはボロボロになった教科書だった。
「あ……ありがと……う……ございます……」
私以外にも嫌がらせを受けてる人がいた……どうしたらいい……止める? 怖い……でも私が行っても……そもそも止める勇気が……怖い……私が行っても無駄……怖い……むしろさらに酷くなる……どうしよう……
「や、やめてください!」
そう声が教室に響いた瞬間、教室中の人達全員の視線が私の方に集まった。
ほんの少しの間教室が静寂に包まれた。そんな静寂をなくすようにイレーヌさんが口を開いた。
「え? もう一回言って、私の聞き間違いかもしれないから」
さっきは思考がぐちゃぐちゃのまんま勢いで言ったけど今は違う。全員が私の方を見てる。でも……
「や、やめて……ください……」
言葉を詰まらせながらもなんとか言うことができた。
「……やめるって何を?」
「い、イレーヌさん達が今……してることをです……」
「なんで? ミアだって喜んでるじゃん」
「喜んでるように……見えない……です……だから……やめてください」
ミアさんのことは何も知らない……もしかしたら余計なお世話だったのかもしれない……けど、私の方を見てくるミアさんの姿は苦しそう見えた。
「ミアのこと何も知らないでしょ、余計な口挟まないでよ」
「何も知らないです……でも、やめてください」
「チッ! 落ちこぼれのくせにうるさいんだよ!」
怒声を上げながらイレーヌさんの友達の一人が近づいてくる。
「もういいよ」
近づいてくる友達を止めるようにイレーヌさんが言う。
「このままでいいのエマ?」
「うん、なんかもう冷めちゃったから」
そう言いながらミアさんから離れ席に戻っていく。近づいて来ていた友達の一人も私を睨みながらイレーヌさんの方に向かって歩いていった。
何も解決した訳じゃなかったけど、一旦は大丈夫だと思ってほんの少し緊張が和らいだ。その日は朝のこと以降、嫌がらせを受けずに過ごせて気が緩んでいた。
その日の授業も全部終わって、帰ろうと階段を下りている時だった。突然背中を押され、気づけば体が宙に浮かんでいた。
何が起きたのかも分からずにそのまま階段に体がぶつかり床まで転げ落ちた。
体を動かそうにも落ちている最中に頭を打ったのか意識が朦朧とし上手く動かせなかった。そんな中でも何が起きたのか気になって、なんとかぼやけている視界で階段の上の方を見た。そこにはミアさんが立っていた。
それ以降の記憶はなく目覚め時には病院のベッドの上だった。不幸中の幸いか大きな怪我はなかったけど意識を失う前に見たミアさんが気掛かりだった。
ミアさんが押していても、押していなかったとしても、あの場にいたから何か知っているかもしれないと、次に学校に行った時に聞きたいと思っていた。
体も良くなり学校に行って、イレーヌさん達がいない機会を見計らってミアさんに話しかけた。あの時のことを何か知っていないかと、ミアさんは今も嫌がらせをされてないかと。
「こないで」
そう冷たい声色で一言だけ言われ、その後に話しかけても無反応だった――
現在までミアさんとは話せずにいる。
教師の朝の挨拶も終わり授業が始まるのを待っていると突如外から大きな音と悲鳴が聞こえた。
教室中の人達も何が起きたの? という様子で落ち着かないでいる。
そんな時、廊下を走る音が聞こえ、その足音がどんどんと教室に近づき勢いよく扉が開いた。この学校の教員だった。その教員は息を切らしながら焦ったように大きな声で言う。
「早く避難して下さい! 近くに魔物が!」




