1話 落ちこぼれ
「んっ……ん……ふぅ……」
朝、目覚めるとともに体を伸ばしながら溜息をつく。
まだ意識がぼんやりとしていながらも、学校に行く準備をするために布団から起き上がる。
のそのそと歩きながら部屋のドアを開け、顔を洗うために洗面所へ向かう。
洗面所に着き、そこに設置されてる特殊な加工をされた魔石に魔力を注いで水を出し、顔を洗う。
顔を洗い終え、ふと鏡を見ると目の隈が濃くなっていた。
理由は……分かっている、毎日明け方まで図書館で借りた本を読んでいて寝不足気味だからだ……流石にもう少し早く寝た方が良いと思いつつも、その時になったら本を読んでいる……はぁ……
そんなことを考えながら一旦、部屋に戻ろうと歩いていると、居間から出てきた叔母と目が合った。
叔母は舌打ちをして、私の横を通り過ぎていく。
歩く速度を上げ、叔母から逃げるように部屋に戻り、ドアを閉める。
多分……いや、間違いなくなのかな……叔母や叔父、従妹から私は嫌われている。
直接「嫌い」と言われたことはないけど、舌打ちだったり、たまに悪口が聞こえてきたり……他にも色々あったり……今も辛いと思うことはあるけど、叔母の家に引き取られたばかりの頃よりかは、少しだけ慣れた。
なんとか関係を良くしたいと思ったことはあった……でも、人が苦手でどうしたらいいか分からなくて……たまに聞こえてくる悪口もあって挫けて、諦めてしまった。
気持ちが落ち込んだまま学校の制服を着て、教科書などが入ったカバンを持ち、部屋を後にする。
玄関に着き、靴を履いて扉を開け寒空の外へ出る。
家から学校まで歩いて20分ほどかかる道を重たい足取りで進んでいき、校門の前まで着いた。
じわじわと重たくなってくる足をなんとか動かして校門を通り教室まで歩き、いつものように緊張しているのを落ち着かせるために深呼吸をして扉を開け、教室に入る。
自席まで歩いていき席に座り、そろそろ始まる授業の準備をしていると一人の生徒が近づいてくる。
「おはよう、ユウ! この時間まで学校にいないからもう来なくなっちゃったと思ったよ」
明るく声を掛けてきたのはエマ・イレーヌさんといい、成績優秀で魔法を使う授業でも優れた成績を収めている。この教室のリーダー的な人で、私が学校で緊張している理由でもある人だ。
「お、おはよう……ございます……」
挨拶を返している間に、イレーヌさんの友達たちが集まってきた。教室の中にいた人たちの視線も同時に集まってくる。
「記事で見たよ! ユウの従妹また活躍したんだってね、しかも今回はA級の魔物を単独討伐したって!」
「すごいよね! 14歳でA級の魔物を一人で討伐するって……」
「私たちと年齢一つしか変わらないんでしょ」
「やっぱり天才はちがうねー」
イレーヌさんと友達が楽しそうに話す。
従妹……シラズ・ルナ。
この国で知らない人の方が少ないと思うんじゃないかくらい有名で、私がルナと会った頃から既に天才と呼ばれていた。今は騎士や冒険者を育てる学園に通っていて寮で生活をしている。学園が休みの日に帰ってくることがあるけど話したりすることはほぼない。
ルナ、一人で魔物を討伐したんだ……怪我とか大丈夫なのかな?
「はぁ……それに比べて姉の方はなんでこんなに駄目なんだろうね」
「天才シラズ・ルナの唯一の汚点が落ちこぼれの姉かぁ……」
「従妹が可哀想になってくるよ、姉さえいなきゃ完璧なのにね」
ただ黙って聞いてることしか出来ない……この話を聞いていて何も思わない訳じゃない……でも、言い返す勇気も言い返せるだけのなにかがあるわけでもない……イレーヌさんたちの言ってることは本当のことだから。
「ユウ、いっそのこと死んでみたら? そしたら従妹から汚点もなくなるし、親も喜ぶんじゃない」
「それ! 超名案じゃん!」
「あんただって、ずっと落ちこぼれのまま生きてたくないでしょ?」
楽しそうに笑いながら聞いてきているが、なんて答えたらいいか分からず黙ることしか出来ない。
「聞こえてる? エマが喋ってんだけど」
「き、聞こえてます……」
「じゃあ無視すんなよ!」
声を張り上げながら私の座っている椅子をイレーヌさんの友達が蹴飛ばしてくる。
「っ!」
椅子から落ち、手足を強く床にぶつける。
教室中の人たちは音に驚いているが、どこかこの感じに慣れている様子だった。
「なんで無視したの?」
「ご、ごめんなさい……なんて答えたらいいか分からなくて……」
手を床についたまま顔を下に向け泣きそうになるのを堪えながら震える声で喋る。
「聞こえなーいもっと大きな声で喋って!」
「ご、ごめんなさっ……」
「だから聞こえないって」
「いっ!」
髪を引っ張られ無理やり顔を上げさせられる。
「これで聞こえるようになった、はいもう一回」
「……ご、ごめんなさい……なんて答えたらいいか分からなくて……無視……した……わけじゃなくて……」
「やっと聞こえたよ、はぁー疲れた」
掴まれていた髪を離され、再び手を床につく。
「お疲れ、最初から聞こえる声で喋ればよかったのにね」
「無理だよ、こいつにそんなこと出来るわけないじゃん」
イレーヌさんが嬉しそうにしながら笑うとそれにつられ友達も笑っている。教室の中にいる人達は気まずそうにしながらこっちの状況を見ている。
一瞬でも気を抜いたら涙が溢れ出そうになる……でも、私が泣いたところでイレーヌさん達はやめてくれない……むしろさらに悪くなるかもしれない。
早くこの状況が終わってほしいと思っていると、教師が教室に入ってきた。教室の状況を見ているはずだが何事もないようにいつも通りの挨拶を始めた。
流石に教師の前ではやるのはと思ったのか、それとも満足したのか……イレーヌさんたちは自席に戻っていくが、仮にこの教師の前でやってもいても軽く注意をしてそれで終わりだ。実際、前にも似たようなことがあったが軽く注意をするだけだった。
それでも、授業中はイレーヌさん達もさっきみたいなことはしてこない、少し安心するとともに学校が終わるまでこれが続くという不安の方が大きかった。
蹴飛ばされた席をもとに戻し授業を受ける準備をする。




