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卒業

作者: こもれび

初投稿です。お手柔らかにお願いします。

今日は、卒業式。


学年で揃って、卒業ソングの3月9日を歌う。


涙ぐむ保護者と先生達、それに友達。


私はそれと反対に、今こんなことを考えられるほど涙が1粒たりとも出なかった。



小さい時からそうであった。


飼い犬が死んだ時。


飼い猫が死んだ時。


金魚が死んだ時。


小学校の卒業式。


大好きな先生が移動してしまった離任式。


中学校の卒業式。


部活の試合で負けた時。


友達と喧嘩した時。



何をどうしたって泣けなかった。



だが私自身が冷たい人間で、常日頃から笑いも泣きもしないと言う訳でもない。


親に叱られれば悔しくて悲しくて涙が出るし、動物が死ぬ系の映画にはてんで弱い。それに、毎日笑っているし、推しは尊いと話に熱が入る時だってある。


まあつまりは、私は至って普通の人間だが何故かここぞと言う時に泣けないのである。



飼い犬も飼い猫も、金魚だって可愛がっていたし、先生が居なくなるのは寂しかった。試合に負けたのだって確かに悔しいと思ったし、友達と喧嘩した時は私が悪いのかなと数日眠れぬ夜を過した。


感情は、ある。


と、毎回その度に感じた。


しかしまあ涙は出ない。それは傍から見れば何も感じてないと同義な訳で、それによって「冷たい」とか、「何とも思わないのか」と言われるのが心底嫌だった。


何故人は皆涙で悲しさを現すのだろう。


目に見えなくたって、私の心では泣いているし、締め付けられている。


そう、目に見えないからだ。


感情は目に見えない。だから人は耳と目で判断出来るように設計されている。


ただ厄介なのは、口ではどうとでも言える、という事。


私は嘘をつかない人間なのかと言われれば絶対に違うと言える。


正直、目上の人から言われた言葉に対してウッザ、と年頃の少女らしく思ったとて、それを飲み込んで対応できるし、親からの「勉強したの?」には「したよ」と嘘をつく時だってある。


嘘は大人になるにおいて重要な能力だ。


人を不快にさせないように、自分が生きやすいように、と。


まあ、それが悪い影響として、「悲しいよ」と言っても涙が出ていなければあまり信じて貰えないと言うこと。


はあ、なぜ私は演技が出来ないのだろうか、と何度思ったことか。


俳優さんは凄い。悲しくなくたって悲しいように涙を流す。


私は悲しくても涙が出ない時だってあるのに。


そうこう考えているうちに、合唱が終わった。


次々と、練習通りに生徒が退場して行く。


二人一組で歩いて、保護者席の間を通って退場する手筈だ。


私とペアのあまり喋ったことの無い男子は、所謂男泣きというものをしていた。


最悪だ。


ぐすっ、と鼻をすする男子の隣に、無表情で歩けと言うのか。


笑うのだって当たり前だが場違いだし、仕方無しに無表情で歩いた。


親と言うとは子の成長を何かと記録に残そうとするので、勿論歩いている時に写真を撮られる。


ああ、きっとこの男子の家で今後この写真を見る度に、「アンタの隣の女の子、全然泣いてないのよ。冷たい子ね」とか言われるに違いない。


ただ、泣いていないってだけで。


ああ、本当に、最悪だ。

ここまで読んでくださりありがとうございました!

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