坂本さんの鍛錬が始まりました
翌朝、と言っても坂本がダウンしてから数時間後だが、昨日のミーティングに参加できなかった20名が到着した。彼等もまた、恵みの大地からこの鏡面界へと帰って来た仲間である。
龍二は早朝に彼等を迎え入れた後、昨日のミーティング内容を共有していった。
そして昼近くになる頃、坂本がようやく起きて来る。
「昼からは鏡面界への通路に入ります。そこで鍛錬して、最低でも水鏡を習得してもらいたいのです。」
「…最低でもって、マジかよ」
坂本はまだ酒が残っているのか、こめかみを押さえながらそう呟く。
「貴方達は『恵みの大地』で、既に『恵みの神様』との繋がりがあります。問題ありませんよ。」
「さくらとソルはまだ寝てるのか?」
「さくら達は朝早く山小屋の畑に行きましたよ。昨日蒔いた種が余程気になるのでしょうね。」
「ハハハッ!俺は素人だが、昨日蒔いた種がそんなに早く芽を出すもんか。その位分かるぜ」
坂本はジョッキの氷水を一気飲みして、ついでに氷もバリバリと噛み砕いて飲み込むと、気合を入れて立ち上がる。
「良し!皆んな行こうぜ!」
そうして、龍二が出した水鏡に入って行った。
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「ここが『結びの回廊』の入口か。宮川、ここはそれ程目立つところでは無いが、それでも無用心じゃないか?」
坂本は無防備にさらされている入口の現状に驚いていた。龍二の性格からいって、仕事が雑過ぎると感じたのだ。
「繋がりを持たない者は入れませんから、例えトカゲ達がここを使おうとしても無理なのです。物理的な通路ではありませんので、破壊も出来ません。」
「へー、そりゃすげーな。この中はやっぱり銃とか現代兵器も無効になるのか?」
坂本は以前トカゲの通路を利用した時の事を思い出しているのだろう。
「結びの回廊はトカゲ達の通路とは別物なのですが…そうですね、誰かサイレンサー付きの銃は持っていますか?」
数人が手を挙げたので、龍二はその全員を自分の前に並ばせる。
「現代兵器が如何に無力か、お見せします。私を的に全弾撃ち込んでみて下さい。遠慮はいりませんよ。」
「いやいや、そりゃ駄目だろ?……マジ?」
「坂本はソルの加護を使って、良く見ているのですよ?」
龍二が合図すると、全員フルオートで全弾を撃ち込んだ。
「ハハハ…こりゃ、たまげたぜ。」
龍二は微動だにせず、全てをその身に被弾した。しかし、かすり傷一つ負った様子は無いし、その服さえも乱れた様子もなかった。
坂本には龍二の體を覆っている光の膜が銃弾を弾いているのが見えたのだ。そう、ソルの加護によって銃弾さえも視認できていた。
「…なあ、もしかして、ソルって宮川よりも強いのか?」
「三人の中では、私が一番弱いですね。それに驚くでしょうが、ここでは恵みの大地にいた頃の10分の1程度の力しか出せませんよ?」
それを聞いて坂本はガックリと肩を落とす。
「心配いりませんよ。私が皆さんを鍛えますから。」
「いょしっ!やってやるぜ!」
「さあ、続きは中でやりましょう。ここで始めると地形が変わってしまいますからね。」
龍二は穏やかな笑顔でそう言った。
坂本達は知っている。この顔の龍二はヤバいのだ。
「あぁ………俺達、死んだかも……」
屈強で百戦錬磨の隊員達も、これから行われようとしている鍛錬に心底恐怖したのだった。
次回『結びの回廊に入りました』
お楽しみに!




