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いつもの幸せの始まり

イラストレーターの、ながいもさんにイメージイラストを描いて頂きました!

とっても素敵な絵で、すごく気に入ってます。

ながいもさん、ありがとうございます!


「さくら?」


龍二は紅牙達を見送った後、山小屋へと戻っていた。


そして目にした光景は、見慣れぬブレスレットと白い霊獣を胸に抱き、祈りを捧げるさくらであった。


一歩近付くことすらも(はばか)られる程の深く神聖な祈り。ただその光景に體が凍り付く。


「さくら…」


龍二は腹の底に真っ黒な不安が湧いてくるのを感じていた。自分の足元の地面が唐突に消え去り、深い闇に落ちて行く様な…そんな理不尽で暴力的な不安であった。


「さくら!!」


龍二は悪夢のような呪縛を振り切りさくらへと駆け寄ると、その祈りを妨げる様に強く抱き締めた。


「龍二さん?…ふふふっ。心配しなくても大丈夫よ?」


さくらは今にも泣きそうな顔の龍二に微笑んでみせるが、その瞳を覗き込んだ龍二は目を見開き震え始める。なんとその黒い瞳の奥には、さくら色の炎が静かにゆらゆらと揺れているではないか。


龍二は飲み込んだ息を細くゆっくりと吐き切ると、今度は柔らかに優しくさくらを抱き締める。


「何があったのか…聞かせてくれますね?」


「…もちろんよ?あなた…」


龍二の胸に抱かれながら、幸せそうにさくらはそう囁いた。


さくらを存在ごと書き換える程の影響を及ぼした『青いバラ』の夢を見たあの朝…。そして、それを彷彿とさせる今朝の祈りの光景。


(さくらは他の世界線には存在していない)


テラの残したその言葉の意味とは…?。


柔らかに取り繕う表情とは裏腹に、龍二の思考は崩壊寸前であった。


「龍二さん。みてみて、琴乃ちゃんよ?」


無理やりに心を静めた様子の龍二は、さくらに寄り添い腰を降ろすと、抱かれた白い子ギツネを見る。


「世界樹から産まれたばかりなの。」


「そうですか…きっと私達に大切な縁なのでしょう。」


琴乃はさくらに寄り添う龍二の匂いをクンクンと嗅いでいたが、耳の下辺りを優しく撫でられると、気持ちよさそうに目を細める。


「はじめまして、琴乃さん。龍二と言います。」


「フフフッ、龍二さんたっら…ことちゃんよ?…ほら」


「ことちゃん、よろしく」


「そうそう、ことちゃんはもう私達の家族なんだから。」


さくらが琴乃を龍二に抱かせると、琴乃は伸び上がって龍二の頬をペロペロと可愛らしく舐める。


「フフフッ!ほらね?」


龍二は、緊張していた體の芯が解れてくるのを感じていた。その不思議な感覚には覚えがある。


「…この子も家族なんですね…」


「大切な私達の家族よ?それと…このブレスレットはね…」


さくらは左手に巻かれたさくら貝のブレスレットを揺らして見せる。


「坊がね、運んでくれたの。皆んなが私のだって言うから、もらっちゃった!」


「……坊様が?」


龍二は坊に問いかけるように目線を送る。


「ああ…目が覚めたらさ、俺の手に付いてたんだけど、さくらのだぞ?」


事実ではあるが、相変わらず坊の話は理解不能だ。だが、それでも今の龍二には十分な説明あった。


「成る程。坊様、ありがとうございました。」


『…私が付けてあげたのよ?…それは優しさのお守りなの…優しさがいっぱい詰まってるのよ?』


マリカもニコニコとそう付け加える。


「優しさのお守り…それは素敵なプレゼントですね。」


「そうでしょ?だから、ありがとうございますってお祈りしてたのよ?」


そして龍二は納得した。歪みのロキが運び、調和のマリカによって授けられたギフトなのである。


龍二は琴乃をそっとさくらへと手渡し、さくらの瞳を真っ直ぐに見た。


「さくら。私はさくらを信じています。例えどんな事が起ころうとも、揺るぎなく貴女を信じます。」


その瞬間、龍二の龍のアザは一気に全身に広がり、白銀の光が立ち昇っていく。そして光は見事な白銀の龍となる。


「龍二!!すっげー!!白銀の龍か!」


龍二は信じる心にのみ従う…誠の龍であった。


「うわぁ!龍二さん素敵だわ!!」


「そんな……人の想いが龍になるなんて…」


小さなソルの(つぶや)きに、マリカが静かに答えた…


『…私達の()()はここまでなのよ?…ソル…』


それは、何の変哲も無い…いつもそこにある幸せの始まり…


何気ない…いつもの日常の始まりであった。



次回!

『坂本さんは世界の裏側に着きました』

お楽しみに!

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