天を巡る民は大地へと帰りました 後編
龍二が玄関のドアを開けると、その数メートル先、履物を脱ぎ地に頭を擦り付けるように土下座している男がいた。
「私は紅牙と申します。此方に愚弟共がお世話になって居る様子。この様な願いは筋違いと分かってお願い致します。どうか二人を解放して頂けませんでしょうか。」
「宮川龍二です。紅牙様、まさか貴方が表に出るとは…ですが、それは聞き入れる事は出来ません。」
その言葉に心持ち顔を上げた紅牙は、血の色の様な髪色に顔は青白く、伏せられた瞳は金色に輝き蛇の様に縦長に割れていた。
「この私の命を差し上げます。…何卒」
龍二はこの時初めて、風に乗る微かな血の匂いに気が付いた。
「……貴方、陰腹を!何と早まった事を!」
そこにマリカがトテトテと歩いて来て、土下座している紅牙の所でしゃがみ込む。
紅牙は身動ぎもせずに伏せたままであったが、マリカはその頭を優しく撫で始めた。
『…覚えているの?…私の事を?』
「…全てでは御座いません。不完全な先祖返りで御座います。…それでも朧気な記憶の断片が御座います。」
マリカは懐から、昼間シリウスの皆に渡したのと同じ世界樹の葉を取り出すと、紅牙の頭に乗せた。
さくら達も皆外に出て来て、その様子を見守っている。
一足遅れて詩織と青牙が外へと出て来た丁度その時、
『天を巡りて地に帰りし民よ。この地こそが、地を巡りて天に帰りし民と交わる約束の地。』
「これは!我が一族の奥伝!何故あなた様が!?」
マリカが語る句は、一族でも数名にしか知らされる事の無い口伝である。その事に詩織は驚愕した。
途端に世界樹の葉から光の帯が伸び、紅牙に巻き付いて光の繭を作る。
詩織も青牙も驚きに目を見開き、目の前の奇跡に身動きが出来なかった。
「御兄様!!」
「兄者!!」
『…今こそ古き盟約を果たせ…』
そして光の繭は弾けて消えて行く。
詩織と青牙は、ぐったりと倒れてしまった紅牙へと駆け寄る。
「…そうか…そうでしたか……お前達、すまない、起こしてくれないか。」
紅牙は詩織と青牙に両脇を支えられ立ち上がる。
そして、自分の腹にしっかりと巻かれたサラシを撫ぜると、薄く微笑んでからマリカを見つめ、何とも懐かしそうな表情をして改めて跪く。
詩織と青牙も自然とそれに習い、紅牙の後で跪いた。
「マリカ様、ロキ様。この紅牙、時の民の長としてご挨拶申し上げます。ですが、どうやら私達は道を誤ってしまったようです。」
『……坊?…』
マリカは坊を見て首を傾げていた。
「嗚呼!俺も今思い出したぜ!」
坊は水鏡を出して紅牙達に振り返ると、その姿は凛とした青年のものへと変容していた。
「お前達には苦労を掛けちまったな。付いてきてくれ。世界樹に案内する。」
そして静かに様子を見守っていた皆と共に水鏡を潜り、世界樹へと向かったのだった。
次回!
『さくらは思いっ切り泣きました』
お楽しみに!




