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天を巡る民は大地へと帰りました 前編

牧場の食堂には、さくらの家庭菜園で採れた野菜で作られた肉じゃがや、フキと油揚げの煮付け、糠平湖のサクラマスの唐揚げと裏山のキノコの味噌汁が並べられている。


その夕食の食卓を囲むのは、さくらに龍二、マリカと坊、そしてソル。

加えて、縮こまって脂汗を流している青牙と青い顔をして震えている詩織である。


さくらにとっても、青牙と詩織は敵対勢力の筆頭であったので、龍二が二人を連れて帰った時には平常心では居られなかった。

今にも斬りかかりそうなさくらを、龍二が根気よくなだめて事なきを得たのであった。

達也を殺した(かたき)であるのだから無理もないことである。


対照的にニコニコしながらその様子を見ているのはマリカと坊であった。


『むふっ…いただきます…』


「いっただきまーす!…うんっま!ほら!皆んなも食べようぜ!」


「ええ、いただきます。」


ソルはその三組から少し距離を置くように座り、この事の成り行きを見守ることにしたようであった。


「そうですね。いただきます。」


龍二は隣のさくらの背中を撫ぜながら、促す様に目配せする。


「もう…わかったわよ。いただきます」


「ほら、お前達も一緒に食べようぜ!」


「………」


「………いた…だきます。」


震える声でそう言ったのは詩織であった。だが、この状況で食事が出来るほどの余裕など無い。


この牧場の部屋に連行されてから今迄の数時間、拘束も監視もされず放置されていた。

夕方になり部屋から連れ出され、いよいよ拷問か処刑かと怯えていたが、座らされたのは夕食の食卓であったのだ。


もう、理由がわからなかった。それが、とてつもなく怖かった。この人達(果して人であるか疑問だが)は一人一人が神ほどのオーラを放っている。それが、詩織には見えてしまっていた。

彼等にとっては、きっと私達など拘束するにも値しない存在であるのだろう。


「…キノコ…美味しいのよ?」


特にこの幼い女の子は頭の中に直接語りかけてきて、まるで心の中全てを見透かされている様であった。


「……はい。」


詩織は全力をもって震える両手で御椀に口を付け、無理やり喉に流し込む。


「…美味しい。」


この状況で、美味しい?

詩織は、自分が口から吐いた言葉が信じられなかった。


震えも止まり、箸を手にして料理を口に運ぶ。


「…美味しいわ。」


『フフフッ…このね、おイモも美味しいの…』


コンコンコンッ…


詩織が勧められるままに箸を付けようとした丁度その時、玄関のドアがノックされて予定外の訪問者の訪れを告げたのであった。



次回!

『天を巡る民は大地へと帰りました 後編』

お楽しみに!

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