山小屋に到着しました
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「これが山小屋なの?」
龍二が案内してくれたのは、土に埋まった防空壕の様な小屋だった。
三角屋根は地面にめり込み、その上には土を被せてあって草が生えている。
石を積み上げ造られた煙突は地面から突き出し、その部分だけが人工物であると認識できた。
「中は案外快適なんですよ。どうぞ」
ドアの鍵は指紋認証と網膜認証を使っていて、セキュリティレベルは高かった。
「ホテルのシェルター程ではありませんが、不自由は無いでしょう。」
『これがこの世界の技術なのね。持たざるものが、一生懸命努力した結果だわ。』
「そうね。残念だけど、この程度であれば恵みの大地の子供レベルね」
中に入ると暖炉がある広々としたリビングになっていた。照明をつけると空調が作動し始め、少し淀んだ空気が澄んでいく。
奥の部屋にはモニターが並び、通信機とパソコンが置かれている。
龍二は次々とそれらの電源を入れ、作動を確認していった。
さくらはお風呂場を見付けたようで、
「あなた?お風呂は使えるかしら?」
「問題は無いはずです。ちょっと待っていて下さい。」
龍二は机の引き出しからスマホを取出し、給湯系をチェックするとボイラーが作動したようだ。
「もう使えますよ。」
「やった!!ソル、取り敢えずシャワー浴びましょう!」
『フフッ、そうね。』
「私は坂本と連絡を取りますので、しばらく奥の部屋に居ますね。」
坂本とは龍二の元同僚で、20年以上の付き合いだ。この鏡面界で最も信頼が置ける友人でもある。
龍二はスマホを使わずに、パソコンを操作してコールした。
「トゥルッ…宮川か!」
坂本は、ワンコール待たずに電話に出た。
「はい。ここに来れますか?」
「40分くれ。一人か?」
「さくらともう一人連れてきました。」
「分かった」
短いやり取りであったが、それで十分だ。
この家に龍二が入った事は、把握していたのだろう。恐らく既に緊急態勢に入っていたはずだ。
龍二は家の周辺の監視カメラを作動させてモニターで確認する。
100メートル、200メートル、………1500メートル異常無し。
更にドローンを飛ばし、上空から周囲3kmを確認する。
「蝦夷鹿10頭、北キツネ3匹。平和ですね。」
ドローンを回収すると、龍二は目を閉ざして周囲の気配を探る。
「ふむ。野ウサギ10匹、野ネズミ86匹、カラス33匹、山鳩8羽。ほう、これは珍しい、エゾフクロウですか。」
龍二はモニターの電源も落とした。監視システムよりも、龍二達の気配察知能力の方が、遥かに性能が良かったからだ。
次にパソコンを操作して、ローズ家の収集した情報をチェックする。
そこには、ホテルシリウスが突然消えてからの情報がまとめられていた。
本当ならば大変な騒ぎになっていたはずだが、トカゲ達にとっても都合の悪いこの事件は、質の悪い都市伝説的なデマとして処理されたようだ。
頭の硬い数人の関係者は事故死したらしいが、味方に被害者は出なかったようである。
国会議員までもトカゲであったのだから、国家レベルで隠蔽工作がなされたのだろう。
ホテルの跡地も手付かずで、坂本が戻ってからはローズ家によって、更に周囲の買収を進められたようだ。
「しかし、あの土地はもう目立ち過ぎますね。監視が付いているでしょう。」
ここは大雪山系の一角で、林道さえも通ってはいない秘境だ。登山道からもかなりの距離がある。暫く隠れるには絶好調の場所であった。
さくら達はシャワーを終えたようで、先程からドライヤーの音がしている。
「後13分で坂本が到着しますよ」
「分かったわ!ソル、これに着替えて」
さくらは黒のコンバットスーツをソルに渡した。
ソルは言われた通りに着替えたが、
『鏡面界の服は、こんなに體を締め付けるの?』
「……ソルがボインボイン過ぎるのよ…」
結局、さくらの2サイズアップを着ることになるのであった。
「私は標準的な大きさのはずだわ…私は標準…私は標準…」
さくらが変な瞑想に入ろうとしたその時、
「来ましたよ」
外から微かにヘリの音がして来た。
『あれがお客様かしら?』
外へと出てみると、ちょうど坂本がヘリからワイヤーで降りてきたところだった。
「時間通りですね」
「まあな」
坂本は新しい大きな傷跡が目立つ顔で、ニヤリと笑って答えたのだった。
次回『坂本さんが来てくれました』
来週の土曜日更新です!お楽しみに!