ギルドシリウスは世界進出しました
「あー、居た居た。マリカちゃん、お昼ご飯出来たわよ?」
マリカは夏の強い日差しから逃げるように、菜園の脇の木陰に丸まって寝ていた。
「マリカちゃんはいつも寝てるのね」
「あははっ、さくら!マリカが寝てる時は、世界に溶け込んでるんだぞ!調和だからな!」
「え〜と、お仕事してるって事かしら?」
「仕事じゃないな!調和だから調和してるんだ!」
「そっか!」
さくらには難し過ぎたので、早々に理解する努力を放棄したようだ。
「マリカ!今日はクリームシチューだぞ!」
坊のその言葉にピクリと反応すると、薄っすらと目を開けたマリカは、
「きのこ入ってる?」
「もちろんよ!」
「ジャガイモと人参と玉ねぎも?」
「うふふ。全部入ってるわ。今日はアスパラも入れたのよ?」
「むふ〜っ。さくら、抱っこ…」
抱っこと言うよりは、マリカはモジョモジョとさくらによじ登って首に抱き着いた。
「ご飯の後ね、坂本さん達がお出掛けするからお見送りするんですって。」
『…マリカもお出掛けしたい…』
「そうね!皆んなが目的地に着いたら、水鏡を繋いでくれるのよ?そしたらお出掛け出来るわ!」
「やっとトカゲに会えるな!」
「もう!あなたたち、絶対色々やらかしそうなんだから!暫くはこっそりと覗くだけよ!」
「……ん?」
『……む………。』
「なっ…何よ!もう少し、何か反応しなさいよ!…まったく…」
激しく厄介事が押し寄せてくる気がする、さくらであった。
−−−−−−−−−−−−−−−
「シュウ、歯磨きは持った?タオルは三枚入れといたから、毎日洗うのよ?それから……」
「ソル、…ソル。大丈夫だ、問題ないさ。明後日には水鏡で帰って来るんだぜ?」
「そ、そうだけど。」
「ほら、皆が待っているから行こう。龍二が笑顔で睨んでるって。」
今日、ギルドシリウスのメンバーは其々の目的地に向けて旅立つ。数週間結びの回廊で修練を重ねた彼等は、既に鏡面界の人間の域から抜けてしまっていた。
「皆さん、いよいよ始まります。くれぐれも単独行動にならぬ様、水鏡での移動を最大限利用して下さい。既に上士幌には敵が張り付いていますし、そこそこの情報は集められているでしょう。」
「彼奴等しつこいからな。」
「ですが、その筆頭であった関東勢が解散したとの情報があります。現在はその後継争いで内輪揉めしている最中ですので、こちらとしても好都合です。余計な闘いを回避出来ますからね。」
そこにマリカがトテトテと前に出て、皆んなに木ノ葉を手渡していく。
『…お守りよ』
修練を重ねた彼等には、それがただの木ノ葉では無いことがハッキリと解る。
「それは世界樹の葉ですね。貴重な物を有難う御座います!」
マリカは珍しくニコニコと笑うと、またトテトテとさくらの所に戻って行った。
「良し、それじゃあ、三班毎に出発するぞ。連絡は定時のみ、厄介事になりそうなら迷わず逃げろ。出発!」
五人一班の十組其々が車に乗込み、三台づつバラバラな方向に消えて行く。
そして最後に残った坂本はソルを抱き締めると、その耳元で何か囁いて去って行った。
「キャー!坂本さんって大胆ね!ソル!なんて言われたの!?」
「内緒!内緒よ!」
真っ赤になって逃げて行くソルを、さくらはしつこく追い回す。
「さてさて、私は少しご挨拶でもしてきましょうか。」
龍二はそう呟くと、景色に溶けるように姿を消したのだった。
次回!
『龍二さんは大きなトカゲを捕まえました』
お楽しみに!




