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さくらの知らない世界 その一

関東の人里離れた山の奥。数戸の古民家のみの集落がある。

好んで訪れる者も居ないが、もし意図せずとも近付こうとする者が居たのならば、不幸な遭難者として処理される事だろう。

その集落の一番小さな家の門前に、黒塗りの高級車が三台横付けされていた。

更に如何にも厳つい黒服が二人、門を守る様に立っている。


「…殿間。もう諦めてはどうだ?貴様の時代は終わったのだ。潔く腹を切れ。」


上座に座るのは長い髪を後に束ね、眉間に深い皺が刻まれているものの齢は三十代と見られる男。

そして彼に頭を下げているのは、殿間と呼ばれた仕立ての良いスーツを纏った中年の男だ。


「待って下さい!今一度!どうか!今一度機会を!」


「……ならば、精々足掻いて散るのだな。」


「有難う御座います!」


殿間は、畳に擦り付けていた頭を上げると、もう一度深く頭を下げ、そそくさと去って行った。


「無様なものだ。…詩織、坂本の件はどうだ。」


縁側の障子が開き、和服姿の女が現れる。


「相変わらず近付く事は叶いませんが、衛星からの情報によると上士幌に集結した様子です。今の所、現地での動きは有りません。有りませんが…」


詩織は伏せられた目線を上げること無く淡々と報告をするが、次の句が繋げないようだ。


「…続けろ」


「人の出入りは確認出来ませんが、日中の人数と夜間の人数が一致しません。」


「そうか。…この件に関する一切の情報を消去しろ。私が出る。」


「そこ迄の案件なのでしょうか。」


「お前にも良い経験となる。相手は……神だ」


「!!」


「岩戸を開いた者が居るようだな。時代が移る。この地の必要性も失せた。後は老害達と共に滅び行くのみ。」


「……」


「何とも楽しくなって来たではないか。俺の代で国譲りとはな。」


男は鋭い目を見開き、歯を剥き出しにして獰猛に笑う。

障子がビリビリと振動する程の豪快な笑い声に、詩織は初めて伏せていた顔を上げた。

誰もが目を奪われる程に儚げな美しい顔立ちであったが、何よりも印象的なのは縦に割れた灰色の瞳である。


そして、


「…煩いわよ」


と、静かに言い放つ。


「い、いや…すまん。」


坂本に敵対している勢力。決して一枚岩では無い彼等であったが、その最大勢力の本拠地で、今確かに時代が動いたのであった。

次回!

『ギルドシリウスは世界進出しました』

お楽しみに!

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