ソルはあこちゃんに謝りました
『フフフッ。ソルも、そんな風に笑える様になったのね。』
あこちゃんは、悪戯な顔をしてソルに笑いかけた。
『恵みの神様。私は己の罪深さを思い知らされました。過ぎてしまった時は戻せませんが、私はこの世界で罪を償おうと思います。どうかお許し下さい。』
ソルは膝を着き、頭を垂れて震える声でそう言った。ソルにとっては、こうして恵みの神様と直接話す機会など、奇跡以外の何物でも無かったのだ。
『ほら、顔を上げて。』
ポンポンとソルの肩を軽く叩き、手を取って立ち上がらせる。
『最初から怒ってなんかないわよ?全ての出来事には理由があるの。私達の人生にもね。それに私はあこよ。あこちゃん。』
『…はい。ありがとう御座います。』
ソルはもう涙を堪えることが出来なかった。崩れるように座り込んで泣き始める。
長い年月、誰にも懺悔出来ずに封印されていたのだ。自分を責める人も、慰める人も居ない永遠とも思える孤独は、想像よりずっとソルを苦しめていた。
『宇宙は…創造神は私達が思うよりずっと残酷なところがあるわ。でも、私達の命は私達のものよ?だから精一杯楽しまなければね?』
あこちゃんは優しくソルを抱きしめた。
そのやり取りを近くで見ていたさくらには、余り理解出来ない話であった。しかし、普段強気なソルが見せた涙に、理由も分からずもらい泣きしてしまう。
坊とマリカは黙ってソルを見つめていたが、ソルが落ち着いたのを見計らって、話し始めた。
『ソル。トカゲは敵ではないの。それを忘れないで。』
「そうだぜ!あいつらは多分、神様に繋がりを取られちゃったんだ。だから、頑張って自分達なりに繋がりを真似してるんだよ。」
「あ!それ分かるわ!私も夢でそんな風に感じたもの!強い憧れがトカゲになってしまったのね!」
『深い深い業だわ。憧れて止まない繋がりを手に入れてしまえば、己の存在が消えてしまうなんてね。』
『………』
ソルはどうやらまた間違いを犯すところだったらしい。「カイなら今直ぐにでも、この世界からトカゲを消せるだろう?…でも、カイはやらないよ。」とマーサが言っていた事を思い出す。
『私達は成長する事が出来るの。昨日と今日は同じではないの。』
『そうね。ソル、今を生きましょう?私達と共にね?それが一番の答えだわ。』
『…良く考えてみようと思います。』
ソルは理屈は理解出来たが、感情に落とし込むには少し時間が必要だと感じていた。
「ねえ、あこちゃん達は水鏡で恵みの大地に帰れるの?」
『水鏡は無理だけど、私は世界樹から移動出来るわよ?元々この世界も私だもの。でも、坊とマリカはどうかしら?』
「ちょっとずるして来たからな!俺達も水鏡で帰るのは無理だぞ!」
『私は歩いて来たから、歩いて帰れる。』
「そうだな!でも、コマの掘った穴は埋めなきゃ駄目なんだ!あれはコマの穴だからな!」
坊はまたヘンテコな踊りを踊ると、土がモコモコと動き出して、たちまちコマの穴を埋めてしまった。
『む〜〜』
マリカはむくれっ面で坊の背中をポコポコと叩いている。
そして、キョロキョロと辺りを見回すと、トコトコと森の方へと走って行った。
「マリカー!そんなに怒るなって!」
その後を可笑しそうに坊が追いかけて行く。
さくらとソルも、どうしたものかと顔を見合せ後を追う。
『土さん、土さん。起きて。』
マリカは森の土に何か話しかけているようだ。
『土さん、土さん。マリカのお家が欲しいの。』
すると、地面の草がモサモサと蠢き、大きな口を開いた。
『むふ〜』
マリカは変な鼻息を吐きながら、モゾモゾとその口の中に入り込み、ぴょこんと顔だけ出した状態になった。
その様子は、まるでマリカが大地の妖怪に食べられている図である。
「あははは!何だよそれ!」
『私のお家よ。』
『フフフッ。マリカはここが気に入ったのよ。私はそろそろ帰るわね。さくら、ソルもマリカをよろしく頼んだわ。』
『あ、あの!一つ聞いても良いですか?』
『勿論。何が聞きたいのかしら?』
『龍の書には、カイの言葉が刻まれていました。「全てが終わったなら、安らかな死を」と。カイは、死んでしまったのですか?』
『そうね…カイがそう望んだのよ。』
「え!?…そ、そんな!」
『だから10秒位死んでたわ。フフフッ、でも龍は死なないのよ?元々生き物じゃ無いんですもの。』
『………』
「………」
「あははは!一緒に俺も殺されたけどな!」
『フフフッ。ついでよ、ついで。じゃあまたね!』
あこちゃんは笑顔で誤魔化し消えてしまった。
「あははは!あこちゃん逃げたな!」
『………』
「………」
『すぴ〜すぴ〜〜』
こうして、さくらの家庭菜園には、坊とマリカという新しいメンバーが加わったのだった。
次回
「坂本さんはソルにプレゼントを渡しました」
来週の土曜日に更新します!
お楽しみに!




