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深い呼吸を手に入れました


シリウスのメンバー達は思い思いに腰を下ろし、林檎をかじり、土に触れ、結びの回廊に馴染んでいった。

そんな彼等の周りには、何時しか鳥や獣達も姿を見せ始め、警戒する様子もなく珍しそうに近づいてくる者さえいた。


「さて、それでは皆さん、鍛錬を始めます。先ずは瞑想から始めます。地面に仰向けに目を瞑って寝て下さい。」


坂本を始め、メンバー達は言われた通りに横になり、目を閉じる。


「そのまま深く息を吸い込んでゆっくり吐きます……吐き切ったら、そこで息を止めます。」


「ふぅーーっ…」


「更にそこから、息を吸わずにもう一度吐いて息を止めます。」


「ふぅーっ」


「そこから更に息を吐いて止めます。今のその位置を覚えて下さい。そしてそこに空気を入れるイメージでゆっくりと吸い込んで下さい。」


「ふぅ〜…すぅ〜〜っ」


「最後の呼吸のコツを摑むまで最初から繰り返して下さい。コツを摑んだら後はそれをゆっくりと続けるだけです。」


「大地を、太陽を、生命を吸い込んで體に巡らせて、それをお返しする事で、私達もその循環の一部となります。」


「私やさくらが使っている力は、個人の力では無いのです。全ての循環の一部となる事でその恩恵を現しているに過ぎません。」


次第に呼吸のコツを摑んでいくメンバー達は、まるで大地に根を下ろしてしまい、自らが草木になってしまったかのような感覚を味わっていた。


そのまま数時間、静かな鍛錬は続いた。


「皆さん、ゆっくりと目を開けて體を起こして下さい。」


「ふぅ〜〜。ほう、コイツはすげえな」


坂本には自分を包む光の膜がはっきりと見える。


「この訓練を後三日続けましょう。坂本も焦らずに基礎を固めますよ?」


「お、おう。」


早速ソルに挑戦しようと考えていたのだが、龍二にはバレた様だ。


「林檎も美味しいですが、もう少し先に葡萄の木があります。今日はそこで葡萄を収穫してから帰るとしましょう。」


死ぬ程の激しい訓練を想像していた坂本とシリウスのメンバー達は、少し肩透かしを食ったように感じてしまった。


「皆さん物足りない様な顔ですね?良いですか?鍛錬とは修行とは違うのです。これから学ぶ事はそれぞれの生活に落とし込んで、常に意識せずとも実践出来るようにして下さい。」


「はっ、歩き方を改めて覚える様なもんだな。」


「その通り。貴方達はまだハイハイしている赤ん坊なのです。」


龍二は真顔でそう言った。


「本当に洒落にも成らねぇな…」


龍二は例の微笑みを浮かべると、ゆっくりと見えない階段を昇って見せた。


「歩けるようになると、こんな事も出来ます」


「…はぁ、わかったよ。」


「先ずは水鏡を使える様になりましょう。そうすれば、例え地球の裏からでもこの階層へと来れます。」


坂本達の鍛錬は、まだまだ始まったばかりであった。






次回『ソルはあこちゃんに謝りました』

来週土曜日に更新します!

お楽しみに!

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