皆んなが世界樹に集りました
今更ですが、『限りなく人間に近い僕達』のネタばれを含みます。御容赦下さい!
「おーい!大丈夫か!?」
坊は地面に空いた穴を覗き込んで叫んでいる。
どうやら坊が待っていたのは、恵みの神様ではなかったらしい。
すると、先程帰った筈の筋肉達磨が顔を出した。
「すまねぇロキ様。興奮し過ぎてマリカ様を忘れてたぜ。」
筋肉達磨はまるで子猫を抱える様に幼い女の子を抱いていた。
そして、優しく地面に下ろすとその子の頭を優しく優しく撫でる。
『ありがとう、コマ。大好きよ!』
マリカ様と呼ばれた女の子は、筋肉達磨にぎゅーと抱きつくと、今度は恵みの神様の所までトコトコと走って行き、
『あこちゃん、抱っこして?』
『フフッ。マリカは甘えん坊さんね。』
筋肉達磨はその様子に安心したのか、頷きながら穴の奥に消えて行った。
「あははは!さくら!よだれ垂れてるぞ!」
余りの衝撃的な光景に、口をあんぐりと開け放心していたさくらであった。
「なっ!…も、もう!私も女の子なのよ!」
そう言って、さくらは慌てて首にかけたタオルで口元を隠す。
『鏡面界へ来れたのも、さくらが世界樹を植えてくれたから。ありがとう、さくら。』
恵みの神様に抱っこされたマリカが、小さな声でそう呟く。不思議な事に、その小さな小さな声は皆の頭の中に直接届いたかの様にはっきりと聞こえてくる。
『貴女は…マリカ様は調和なのね。』
ソルは『龍の書』に書かれていた神話を思い出していた。そして、恐らくカイとレイヤは自らの運命に答えを出したのであろうと理解したのだ。
マリカはコクンと頷く。
『私は恵みの神。愛のあこよ。』
「俺も自分が何者か思い出したんだぜ!俺はロキ!歪みのロキだ!」
「いやいや、坊は坊でいいわよ。」
「あはは!実は俺もそう思った!」
『そうね、フフフッ。』
何だろう。神様達とそんな風に笑い合うさくらの様子は、何気ない普段の光景であると、ソルはそう感じてしまう。
『さくら、ソル。貴女達の畑は素晴らしいわ。切り離されてしまったこの鏡面界に、私の意識が拡がって行く。まるで麻痺してしまっていた手足に感覚が戻って来るような、まだそんなむず痒い感じだけれども、ありがとう。』
「えへへ、恵みの神様にそんなこと言われちゃったら照れちゃうわ!」
『フフッ、あこで良いわよ。私達も今では結びの旅館に住んでるのよ?』
「えー!そうなの!?」
『シロと雪乃が美味しいご飯を作ってくれるの。』
マリカはあこちゃんに下に降ろしてもらうと、
坊の手を引いて畑の方に歩いて行く。
『さくら?鏡面界の土さんは眠っているの。だから優しく起こしてあげて。』
そう言って、坊と一緒にヘンテコな踊りを舞い始めた。
すると……ポン…ポン…と畑に芽が出てきた。
「すごーい!」
坊とマリカは更に畑を踊りながら回って行く。
「私も踊るわ!」
さくらもその輪に混ざると、ソルもあこちゃんも加わって、まるで矢倉の周りで盆踊りを踊っている様である。
すると…ポンポン、ポコポコポコポコッ!と次々と芽が出てきて、見る間に成長して花が咲き、実をつけた。
「あははは!大豊作だな!!」
『うん。土さんも野菜さんも喜んでる。』
「うわー!これが私達の家庭菜園なのね!」
『フフフッ。せっかくだから頂きましょう?』
「うっめー!このトマトすっげー美味いぞ!!」
「キューリも最高だわ!土さん、野菜さん、美味しいわ!ありがとう!」
畑一面に元気に育った野菜達。暖かな日差しに照らされキラキラと光って本当に喜んでいるようであった。
次回『深い呼吸を手に入れました』
来週の土曜日に更新します!
どうぞお楽しみに!




