結びの回廊に入りました
龍二が先頭となり、坂本と50名のメンバーが『結びの回廊』へと入って行った。
入口近くは人1人がやっと通れる位の小さな横穴であったが、すぐに横幅、高さ共に拡がっていき、地面も平になって来た。
しかし、次第に足元が見えない程に暗くなり、その先は闇に閉ざされている。
坂本は照明を取出し、辺りを照らそうとしたが、それを龍二に止められた。
「良い機会ですから、これを覚えましょう。」
龍二は掌を上に向けて、纏っているオーラをそこに集めて光の玉を作って見せた。
「坂本には見えましたね?」
確かに坂本には光の玉が発現する過程が良く見えた。
「ああ、はっきりと見えたぜ。」
「よろしい。では皆さん、先ずはこの光の玉をイメージして下さい。そして恵みの神様に暗闇を照らして下さいとお願いします。恵みの神様は必ず答えて下さいます。やってみましょうか。」
それぞれ、心静かに祈りを捧げる。
「トカゲの通路を通った時の、あの感覚を思い出して下さい。恵みの神様との繋がり、皆との繋がりを感じ取って下さい。」
すると、坂本を含め数名が小さな光の玉を出現させる事に成功する。
「…本当に出来ちまったぜ…」
「出来無くても、焦る必要はありませんから。繰り返しやりましょう。」
龍二は全員に向けて意識を飛ばし、繋がりを強くしていく。
数回も繰り返していると、大小は有れども全てのメンバーが光の玉を出す事が出来た。
もうそれだけで、龍二達の周辺は明るく照らされている。
「流石ですね。それでは先に進みましょうか。」
通路は曲がりくねってはいたが、分かれ道の無い一本道となっている。
暫く変化の無い道であったが、三十分程歩いた時にその先から明かりが見えて来た。
「お?あそこが出口か?」
「あそこは鏡面界に一番近い階層ですね。恵みの大地までは、まだまだ遠いですよ。私がこの結びの回廊を使って鏡面界へ戻るのに半年位かかったんですよ?」
「おいおい、そんなに遠いのか?トカゲの通路は500メートル位しかなかったはずだ。」
「この道は通過する『必要』があるのです。歩く事それ自体に意味があるのですよ。」
坂本と龍二がそんな話をしている間に、通路を抜け最初の階層へと辿り着いた。
「…分かっちゃいたが、異世界だな。」
目前に広がる広大な大地。まるで知らないうちに道に迷い、鏡面界へと戻ってしまったかの様にさえ感じられた。
メンバー達もこれには驚きを隠せない様だ。
「この階層には果樹がありますから、そこまで行って休憩しますよ。」
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さくらとソルは朝日が昇ると直ぐに山小屋まで戻っていた。というのも、何となく畑に呼ばれている様な気がしたからだ。
朝露に濡れた足元の草達が、朝日を反射してキラキラと光っている。
畝には雀が数羽、何かを啄んでいたが、さくら達が近付いても逃げる様子も無かった。
「あら、雀さんおはよう。何を食べてるのかしら?」
雀達はそれに答える様にチュンチュンと鳴くと一斉に飛び立ち、さくらとソルの周りを一周すると、仙桃を植えた辺りに消えて行った。
『さくら、あそこを見て!』
さくらはソルの指差す方を見ると、何と昨日仙桃の種を植えた場所に、腰の高さほどの若樹が、全体から淡い光を放ちながら生えている。
思わず走り寄って、
「凄いわ!貴方が私を呼んだのね!」
『さくら、本当にこれが仙桃の木なの?』
「そうよ。私も仙桃を食べたんですもの。間違い無く私達は仙桃の種を植えたわ。」
『…これ、世界樹の若樹よ?』
「……え?」
さくら達が植えた仙桃の種から生えてきたのは、何と世界樹であった。
次回『坂本さんは本物の林檎を食べました』
来週の土曜日に更新します!
どうぞお楽しみに!




