14.実力試験、開始
グレンは冷たい目で陽斗を見つめながら、倉庫の中央に立つ。彼のナイフが鈍い光を放ち、空気がピリつく。
「ルールは単純だ。俺に一撃でも与えられたら合格だ」
「簡単すぎるな。それで良いのか?」
「……口だけじゃない事を証明してみせろ」
陽斗はのんきに答えながら、グレンの真正面に立つ。
それを見ていた大柄な男は、豪快に笑いながら木箱を叩いた。
「グレン、お前手加減しろよ! こんな細っこいの、触れたら折れちまうぞ!」
リサが呆れ顔でつぶやく。
「また余計なことを…」
倉庫の中に緊張が漂う。陽斗は深呼吸を一つし、軽く足を踏み鳴らした。その仕草に、リヴィアやリサはわずかな違和感を覚えた。
――瞬間、空気が一変する。
「始めるぞ。」グレンが短く告げると、彼の姿が陽斗の視界から消えた。
「速い!」リヴィアが叫ぶ。
グレンのナイフが陽斗の脇腹を狙い、鋭い一閃を放つ。
しかし――
ナイフは空を切る。
その刃は陽斗の体に届く寸前で消えたように見えた。いや、正確には消えたのではなく、別の場所に転移していた。
「…なんだこれは?」
グレンが驚愕の声を上げる。
陽斗は涼しい顔で軽く手をかざしていた。
「転移魔法だ。そのナイフが俺に届くことはない」
「ふざけるな!」
グレンはさらに素早い連続攻撃を仕掛ける。彼の攻撃は高速で普通の人間なら目で追うことも出来ない。
だが、全ての攻撃が虚空に消えていく。
グレンのナイフは陽斗に届く寸前で転移され無力化されていた。刃が目標を捉えるたび空中に消え去るその様子にグレンの動きが徐々に鈍くなっていく。
「さて、そろそろこっちの番だ」
陽斗がつぶやいた瞬間、彼の姿が消えた。
次に現れたのはグレンの背後だった。
「!」
ドンッ
陽斗の手がグレンの肩に軽く触れる。
驚いた表情のグレンが目を見開く。
「瞬間移動…か?」
彼の口から低い声が漏れる。
「転移だ。これで合格だな?」
倉庫内は静寂に包まれた。
大柄な男が最初に口を開いた。
「いやー、おいおい、マジかよ。お前、ただの飾りじゃなかったのか!」
リサも目を丸くしている。リヴィアは安堵の表情を浮かべた。
「…悪くない」
グレンはそれだけを言い残し、再び倉庫の隅に戻っていった。
「納得か?」
陽斗がリサに尋ねると、彼女は苦笑しながら頷いた。
「まあ、さすがにこれなら文句なしね。」
倉庫の奥から、大柄な男の笑い声が響く。
「よし、それじゃあ祝杯といこうか! いや、こんな細っこい勇者があそこまでやるとは思わなかったぜ!」
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