13.少数精鋭
リサの案内で、一行は路地裏のさらに奥深くへと進んでいった。細い道が幾重にも続き、薄暗い通路の先には、かすかな湿気の匂いと古い木材の香りが漂っている。
やがてたどり着いたのは、錆びついた鉄製の扉が取り付けられた、古びた地下倉庫のような場所だった。リサは軽い動作で扉を押し開けると、中から僅かに冷たい空気が流れ出した。
「着いたわよ」
倉庫の中は想像以上に広く、整然とは程遠い雑然とした空間が広がっていた。無造作に置かれた木箱や古びた武具、壁に掛けられた地図がところどころに貼られている。そして、目に飛び込んできたのは、そこにいる二人の男たちだった。
一人目は黒髪で鋭い目つきをした青年。全身黒ずくめの軽装をまとい、倉庫の隅でナイフを手入れしている。小さな布で刃を磨くその手つきには、隙が一切なく、研ぎ澄まされた雰囲気を感じさせた。
もう一人は大柄な男だ。豪快な笑顔を浮かべながら、木箱の上に無造作に腰掛けている。その背中には巨大な斧が背負われており、その存在感だけで圧倒である。
「お帰り、リサ。」
ナイフを手入れしていた青年が、目を上げずに声をかけた。低く、冷静な声だ。
「で、その人達は?」
リサはちらりと陽斗たちに視線を向ける。
「リヴィア王女と勇者よ」
「勇者? その男がか?」
青年は怪訝な表情で、陽斗を見つめる。
次に大柄な男が興味深そうに陽斗とリヴィアを眺め回す。
「ほほう、勇者ねえ」
彼は目を細め、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ずいぶんと細っこいな。これじゃあ風が吹いたら飛ばされそうじゃねえか。でもな、こりゃリサが気に入りそうだな」
大柄な男の茶化すような口調に、リサはすぐさま抗議する。
「ちょ、気に入るとかやめてよ! 誤解されるでしょうが!」
リサの顔がわずかに赤くなっているのを見て、大柄な男はさらに笑みを深めた。
黒ずくめの青年が、そんなやり取りを冷めた目で見つめながら静かに口を開く。
「冗談はさておき」
彼の視線が陽斗に向けられる。そこには冷酷さすら漂っていた。
「そいつらが本物かどうかは、ここで証明してもらう必要があるな」
陽斗は眉をひそめる。
「勇者だと言うなら、戦いの腕前を見せてもらおう」
青年は立ち上がり、倉庫の中央を指さす。
「どうだ、簡単な実力試験でもやるか?」
リサが呆れたようにため息をつき、青年の肩を軽く叩いた。
「ちょっと待ってよ、グレン。初対面で試験とか、相変わらず過激ね」
「俺達の仲間になるんだろ? それに勇者なら尚更、実力を見ておきたい」
リヴィアは陽斗を心配そうに見つめている。
「陽斗、無理しないでいいのよ? リサは別として、あの二人の男、初対面から態度が悪すぎよ」
「問題ない。あの二人を魔王城にでも送れば済む話だ」
「やめなさいよ。一応仲間になる予定なんだから……」
グレンと呼ばれた青年は、陽斗の気の抜けた態度に眉をひそめたが、特に何も言わず淡々と倉庫の中央を示した。
「では始めよう。俺たちのチームに入る覚悟があるなら、その力を証明してみせてくれ」
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