召喚された勇者と転移スキル
「ようこそ、白夜陽斗様。お待ちしておりました。」
澄んだ声が響き渡る。目の前には白髪の女性が立っていた。彼女は純白の衣装をまとい、その佇まいはどこか神々しく、見る者を圧倒する気品に満ちている。
「ここは……?」
陽斗は辺りを見回すが、空間はただ真っ白で、壁も天井も見当たらない。不思議な静寂に包まれている。
「ここは異世界です」
女神は柔らかく微笑む。
「あなたは勇者として選ばれ、私が召喚しました。」
「ほう」
陽斗は淡々とした表情で頷く。その態度に女神はわずかに眉をひそめたが、すぐにまた微笑みを浮かべる。
「……理解が早い方で助かりますわ」
「異世界モノは知っている」
陽斗は肩をすくめるように答える。
「だいたい何がどうなるか想像つく」
「それは心強いお言葉です。」
女神は穏やかに続けた。
「では改めて──おめでとうございます、白夜陽斗様。あなたは晴れて勇者に選ばれました。」
「なるほど」
陽斗は小さく頷くと、静かに言葉を続けた。
「つまり、時間停止やら透視やらで好き勝手していいってことか」
「……」
女神はわずかに言葉に詰まり、額に手を当てて静かに息をつく。
「それは……エロゲの話ですよね?」
「それで、スキルは?」
「あなたのスキルは『転移』です。」
女神は毅然とした態度で告げる。
「どこでも好きな場所に瞬時に移動できる、非常に有用な力です。」
「転移?」
陽斗の眉がわずかに動く。
「そのスキルはサポート系だと思うのだが…… 時間停止とかが普通ではないのか?」
「……スキルは私が決められるものではありません。」
女神は丁寧に説明を続ける。
「それはあなたの潜在能力に基づき、最も適した力が目覚めるのです。『転移』は戦略的に非常に強力なスキルですわ。」
「なるほど……いや、せめて触手なら──」
「……なにかおっしゃいましたか?」
女神の声が僅かに低くなる。
「まあいい。この世界の難易度は?」
「難易度はSSです。」
女神の声にわずかに緊張感が漂う。
「これまで21人の勇者を送りましたが、誰一人として魔王を討伐できておりません。むしろ……四天王さえ倒されておりませんの」
「ほう」
陽斗は口元に薄い笑みを浮かべた。
「つまり、好感度向上スキル、透明化スキル、そのほか諸々を使いこなす魔王ってわけか。」
「っ……だからそれはエロゲの話ですよね?」
女神はすぐに咳払いをして表情を整え、落ち着きを取り戻した。
「……失礼いたしました。少々取り乱しましたわ」
陽斗は肩をすくめながら、考え込むように顎に手を当てる。
「まあ、どんなやつだろうが倒せばいいんだな? 方法は問わない、と。」
「……そのような解釈も可能です。」
女神は少しだけ警戒するような目で陽斗を見つめる。
「どんな手を使っても、というのが少々気になりますが……最高難度の世界ですので、多少のことは目をつむりましょう。」
「ありがとう。」
「……『ありがとう』と言われると不思議と不安になりますわね……まあ良いでしょう。」
女神は静かに手を振り、柔らかな微笑みを浮かべた。
「白夜陽斗様、それでは、いってらっしゃいませ。どうか世界をお救いください」
眩い光が空間を満たし、陽斗の意識が薄れていく。その中で、彼は微笑みながらつぶやいた。
「……転移か。悪くないな。」
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