海と空の共鳴|心のぬくもり幻想舎
「空が青いから海も青いのでしょうか。それとも、海が青いから空は青いのでしょうか」
放課後一人で教室に残り、窓の外を眺めていた少女はとある教師に声をかけられ、質問を投げかけた。
夏の熱を孕んだ日差しが、じりじりと二人の肌を焼いていく。
遠くでは甲子園の練習にいそしむ野球部員の声が聞こえて、余計体に熱がこもる感じがした。
「ずいぶんと唐突な質問ですね」
困ったときに頬をかく仕草は、彼の癖の一つ。
「先生はどうお考えですか?」
ビジネススマイルを浮かべる彼をまっすぐに見つめ、はぐらかされないように言葉を切り返した。
「…なぞなぞじゃないのなら、真面目に答えますが」
「ええ、問題ありません」
「海が青いのは太陽の光を吸収しているからで、空はいろいろな光を空気中で散乱させているから、人の目に優先的に映るのはのは青色だと言われています」
これでよろしいですか?と、彼はまたビジネススマイルを向けた。
すると、少女は少しむっとして一歩前に出る。
「私、海と空はずっと共鳴しているから青いのだと思っていました」
「ほう。なぜ、共鳴という表現を?」
「海と空の色が混ざり合っているように見えたからです。現に、曇りや雨の日も、海と空は同じ色をするでしょう?」
「なるほど、それはおもしろい考えですね」
「先生は…このような思考回路を持つ人間はお嫌いですか?」
少女は先ほどと同じようにまっすく彼を見つめ、はぐらかされないように詰め寄った。
「いいえ、嫌いじゃないですよ」
「なら、よかったです…ありがとうございます」
軽くお辞儀をする少女に、彼は先生らしく「またわからないことがあれば質問してくださいね」と返す。
日差しを浴び続けた肌は赤くなり、ひりひりと痛かった。
fin.
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大野