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不協和音

作者: 岸亜里沙
掲載日:2021/06/20

音楽というものがこの世から消えてしまうとは、誰も予想出来なかっただろう。


数年前に世間を騒がせた信じがたい発表。


──人間に寄生する『音』が発見された──


当初、その発見が何を意味するか、我々には知る術がなかったが、徐々に『音』の寄生が世界を蝕んでいく様は、恐怖でしかなかった。


最初は、音階でいえば『ラ』の『音』の寄生が始まった。次に『ド』、『ファ』、『ミ』、『ソ』、『レ』と続き、そして最後に『シ』の『音』の寄生も確認された。


『音』に寄生されるとどうなるか簡単に説明すると、その音階の『音』を聞いた途端に神経系が麻痺し、脳細胞が破壊され、最悪の場合死に至る。

つまり『ラ』に寄生された人間は、『ラ』の『音』を耳にした瞬間に神経が麻痺して発狂し、人に危害を加える者が多発した。

『音』の寄生が始まると、世界はあっという間にバイオハザードさながらの環境へと変貌していた。

細菌(ウイルス)や寄生虫の様に姿形を持たない以上、対処は難しい。

研究者たちの必死の研究も虚しく、原因も治療方法も未だ解明されないまま、ついにこの世界から音楽は消えてしまった。


人々は『音』の寄生を避ける為、常に耳栓をし、手話で会話をしながら無音の世界で暮らすようになった事で、最近驚愕のニュースも飛び込んできた。

耳を、聴覚器官を持たない子供が誕生したというのだ。

これは進化なのか、退化なのか。

『音』の寄生に対する人類の対抗なのかもしれない。


しかし音楽を忘れられない人々は、夜な夜な国の規制を潜り抜け、いつ寄生するかも分からぬ『音』に怯えつつも音楽観賞を楽しんでいた。


ここ“第7ポイント”のグループはロック音楽を楽しむ為の場だ。老若男女数人が今夜も集まっていた。

所持しているだけで厳罰対象のレコード、CD、MD、カセット、音楽データ等を各自が持ち寄り、一時の娯楽に浸るのだ。

今夜は、ある老人が持ってきたLed Zeppelinのアルバム『Physical Graffiti』で盛り上がっていた。


「いやぁ、ロックはいいなぁ」

「私は初めて聞いたけど、ロックって感じね!」

「ワシもリアルタイムでは聞けなかったんじゃが、若い頃にツェッペリンにハマっての。このCDだけはずっとこっそり持っておったんじゃ」

「おじいさんはどの曲が好きなの?」

「そうじゃなぁ。強いて言うなら、全部じゃ!」

「ハハハ!確かに全部良いもんね」

「よし、来週は僕がBon Joviの作品を持ってくるよ」

「いやぁ、楽しみじゃな」


愛好家達が他愛もない会話と音楽を心から楽しんでいた。しかし、曲がちょうど『Kashmir』に差し掛かった時、一人の男が急に痙攣し呻き出した。


「しまった!寄生じゃ!」


「きゃあああああ」


寄生され発狂した男は、護身用に隠し持っていたナイフで、“第7ポイント”に集まっていた人間を次々と刺し始めた。

全員をメッタ刺しにすると、男はそのまま無音の夜の街へと飛び出して行った。


時間にして8分30秒。

ちょうど『Kashmir』が終わる所だった。

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